日暮しトンボは日々MUSOUする

現実ではないモノを描く難しさ


頭に思い描いた空想の世界を紙に描き移すという作業は、現実の物を正確(リアル)に
描き移すよりか、はるかに難しい。  中には好き勝手に描いた方が楽しいという人もいるが、
“楽しい”こととその評価はまったくの別物である。 楽(ラク)して描けるものというのは、えてして自己満足の場合が多いのだ。 自分の頭の中だけの創造なので他者にはわからないし、目標とする完成図をいとも簡単に捻じ曲げることが出来るのだ。 描いていて、どうも思い通りにならない‥‥ だんだんイライラしてきて、まぁこんなもんでいいや、と妥協する。 もちろん、どこで妥協しようが、とことん煮詰めようが本人の勝手である。 手を抜いたか、全力を出しきったかなんてのはそれを描いた本人しか知るよしもないのだ。 自分の中で、どのへ辺で「良し」とするかが問題なんです。 そのてん、現実のモノを描く場合には完成図がハッキリしている。より本物に近ければ近いほど良いのだ。 少し時間がかかっても、努力しだいで誰でも完全に近づくことが出来る。 決して難しいことではない。  だが、空想のモノは完成図が本人の頭の中以外どこにも存在しない。 ある程度の方向性だけが頭の中に漠然と蜃気楼のように浮かぶ。 その輪郭線のディテールを完璧にハッキリさせることが出来ればよいのだが、紙に描き移していくうちに、だんだんイメージから遠ざかっていく場合があるから厄介なのだ。 実際に線で現してみたら、思ったものとは少し違うナァ‥‥といった具合になる。 インスピレーションだけで描き始める事の難しさは、手探りと描き直しとの自己駆け引きで到達することが出来る根気の要する作業なのだ。



上のイラストは、あるテーマを決めて私がパパッと即興で描いたものです。 発案からペン入れまで約30分くらいで描き上げたもので、何の苦労もなく楽しく描きました。 どちらかというと独創性が有るとは言えないし、どこかにあるような絵柄でもある。 さながら海のギャングといった感じですね。 実は、この絵のテーマというのが「イルカのギャング」なんです。 
第一印象でこのモチーフがサメと思った人が多いのではないでしょうか? こういったコミカルタッチの動物イラストを描く場合、たとえモチーフの特徴をしっかりと抑えて描いていても、見る人によってはそれが判らない場合があるのです。
このように“怖い”というイメージをどこかで出すとしたら、多くの人は目を吊り上げたり、
ノコギリの様なギザギザの歯(牙)を記号として使うでしょうね。 あるいは悪者の代表的なアイテムとしてサングラスをかけさせたりします。 一般のイルカのイメージは癒し系であり、
愛嬌のあるカワイイマスコット的印象が強い。 イルカを怖い動物という人は、恐らくいないに等しいであろう。 そのイルカとは対照的なのが恐怖の象徴とされている、まさに海のギャングのサメである。 イルカとサメのシルエットは近いものがあり、動物学的に外観の知識がないものにとって、このようなデフォルメを見分けるのは少し難しいかもしれない。
ちなみに両者の大きく違う特徴は、首のところにエラが有るか無いかであるが、作為的にわからないようにスカーフを巻いた。 あとは尾ひれの角度である。 魚類は縦で、左右に振って泳ぐが、哺乳類は横で、上下に振って泳ぐ。 だからイルカは、水中から真上にジャンプできるのだ。  イルカはやさしいものと決めつけているので、こういったイラストを見せられた場合、先入観で何の疑いもなく「サメ」と脳にインプットされるのです。 これと同じくして、犬と狼も描き分けるのが難しい。 怖さの象徴である牙を記号から外した「やさしい狼」を描いたら、はたしてそれが狼に見えるかどうかである。 実は、前回に掲載してあるイラスト(2)は犬ではなく狼なのです。 知人に「優しい狼」を描いてくれと頼みました。 彼はご丁寧に、胸にウルフのイニシャルまで入れてくれました。 おそらく、これが狼だと判ってもらえるかどうか不安だったのでしょう。 カモメは翼を広げて海の上を飛んでいるからこそカモメであって、地面の上を歩いている姿を描いたらはたしてカモメに見えるでしょうか?  アヒルとかハトに間違われるかもしれない。 その他にも、コオロギと鈴虫はどうでしょう? 描き分ける事が出来るか?数え上げたらキリが無い。 一般的に可愛くて人気のある動物のイラストやマスコットは世の中に数多く存在し、それらを目にする機会は沢山ある。 例えば犬や猫やウサギ、ヒヨコとか金魚等のどれかのイラストを描けと言われたら たぶんそんなに迷うことなく描ける事でしょう。雑誌や街中で見かけたイラストが無意識のうちに脳にインプットされているからです。 記憶の中に残っているものから引っ張り出すだけだから比較的誰でも描き易い。 
しかし、今まで前例のないモチーフを描こうとした場合、新たに自分の手で一から築き上げていかなければなりません。 今までの記憶言語の中には無いので、新しく情報を詰め込んでいく作業は、まさに産みの苦しみです。 描いた本人が「これはハムスターです」といくら言い張っても、周囲がそう見てくれなければ意味が無いのだ。 どんなものでもデフォルメするには、本物をよく見て何度も模写をし、特徴を完全に把握してから、残すものは残し、省くものは思い切って省く。 そうやって足したり引いたりして描き崩しながら到達していきましょう。
デフォルメというものは基本的に“足し算引き算”なのです。

映画「スタンド・バイ・ミー」の中で、テディ とバーンがこんな会話をしている。
「ミッキーマウスはネズミだろ ドナルドはアヒルだけど、じゃあ、グーフィーってなんだ?」
子供の素朴な疑問でもあり、周囲の目とはこんなものである。 
(あの二人が素朴な少年とはちと言い難い気もするが‥‥)



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