■高橋正子選
【最優秀】
★海遠き峠のさくら爛漫と/河野渓太
峠の桜は、遅い。今爛漫と咲いて、遠く海が見える。その景色と思いがいい。(高橋正子)
【特選5句】
★葉桜となりて山の色となる/池田多津子
山に桜が咲くと、山の緑にはっきりと桜の色が見える。花が散り、葉桜となると、山の緑に入り混じり、静かな山の緑の一部となる。その変化を平常のなかに見つけたよさ。(高橋正子)
★セロハンを濡らして包むチューリップ/松本和代
チューリップが咲く頃は、晴れの日もあるが、雨の日も多い。だれかに持たせるチューリップであろう。庭に咲く雨の雫の残るチューリップがいきいきとしている。(高橋正子)
★遅桜遥かより風届きけり/中村光声
遠山から遙かに吹いてくる風の心地よさと遠山に遅い桜があることのうれしさ。日本人の好むところ。(高橋正子)
★水満たす一面の田の輝けり/笠間淳子
無駄のない表現で、素直に詠んで好感が持てる。田水を張って、一面にかがやく水の光が穏やか。(高橋正子)
★残雪の山に溶け込むハ-モニカ/宮島千生
残雪の山は故郷の山であろう。その山に向かって吹くハーモニカのリード音が、哀愁を帯びて聞こえる。「溶け込む」は、故郷を感じさせる。(高橋正子)
【入選Ⅰ/20句】
★風も陽も透ける薄さに初蝶来/かわな ますみ
初々しい蝶の様子がよくわかります。(松本豊香)
★藤の花うすむらさきの風となり/平田 弘
「むらさきの風」に惹かれました。風となりが好きな表現です。(渋谷洋介)
★採りおきし袋の花の種いろいろ/あみもとひろこ
美しかった花の種を春に蒔こうと取り出して色々と思い出されて、花の種も色々有り今年も美しく咲いてくれる事でしょう。(堀佐夜子)
★春の蕗きみどり透けし白き皿/藤田裕子
瑞々しい春の蕗のみどりが白い皿に盛られている皿より透けて緑が見えるいかにも春らしい感じです。(大給圭泉)
★地方紙に包まれ春の蕗届く/臼井虹玉
何気なく新聞紙に包まれた春の暖かさと人の温もりが感じられました。(滑川けいこ)
★田の道を選び歩けば初つばめ/祝恵子
★柿若葉目に染む色に煌めきぬ/渋谷洋介
★代掻きの濁りも澄みて夕焼ける/安藤かじか
★整然と春の水待つ田のありて/多田有花
★橋いくつ潜り落花の流れゆく/黒谷光子
★今はもう確り垂れて若柳/碇英一
★しゃぼん玉虹色のまゝはじけけり/尾弦
★桜散るまっすぐ風の吹く方へ/松本豊香
★みずいろの空に揺れつつ辛夷咲く/丸山草子(正子添削)
★青空から剥がし楤の芽を摘めり/古田けいじ
★木の芽風木々を抱きて揺れやまず/井上治代
★菜の花をよそおう川の大らかに/藤田荘二
★白薔薇の咲き初む垣根挨拶す/岩本康子
★母子像に桜蘂降る一頻り/小川美和
★若葉風オルガンの音の厳かに/大山 凉
【入選Ⅱ/32句】
★幼子の手をひき残花の中にあり/上島笑子
人影も少なくなった残花の中に幼子と佇む不思議な魅力のある好きな句です。(前川鳰波)
★揚羽生る照葉の裏に羽伸ばし/堀佐夜子
新しい命の誕生の瞬間を細やかな目でとらえられています。アゲハの羽がゆっくり伸びていくのが目に見えるようです。(多田有花)
★葉桜となりて不思議に落着けり/安丸てつじ
桜の満開の華やかさも素晴らしいですが葉桜の透き通るようなさみどりは心がとても落ち着きなんともいえない安らぎを感じます。(大山 凉)
★朝の日を返す畝々豆の花/野田ゆたか
★ほぐれては平らに眩し花水木/藤田洋子
★げんげ咲き一枚きりの田に子らが/甲斐ひさこ
★虻ひとつ去っては戻る風日和/矢野文彦
★雲切れて七千坪の躑躅燃ゆ/池田加代子
★水芭蕉の芽に春水の触れており/志賀たいじ
★赤土に木漏れ日ゆらぎ竹の秋/かつらたろう
★ジレットの刃錆びてありぬ花馬酔木/齋藤良一
★花冷えや曳山傾ぎ軋みけり/前川鳰波
★囀りの林に沼は膨らんで/松澤龍子
★深呼吸胸の奥まで木の芽風/大山由紀
★欅の芽茜の空を拡げけり/大給圭泉
★お遍路を親子で巡る睦まじさ/辻 保宏
★咲き初めし忘れな草は風の中/吉川豊子
★花びらの吹き溜りしが土まみれ/おくだみのる
★蒲公英を四清同にて佛に活け/下地鉄
★桃咲くやまた雲かかる白き富士/小口泰與
★花片栗わずかに聞こえる水の音/清水清正
★葉桜のまだ幼くて白帽子/竹内よよぎ
★サーファーの彩り映えて夏近し/篠木 睦
★足元の石を迫り上げ草萌える/ /湯澤まさえ
★朝の陽に躑躅の花が炎えはじめ /おおにしひろし
★寝ては起き繰り返し咲くチューリップ/滑川けい子
★石畳下り若夏と思う風/松原恵美子
★藤浪の紫香るさらさらと/国武光雄
★長堤の蒲公英群れて黄の帯に/飯島治蝶
★青空に飛行機過ぎるチューリップ/小河原銑二
★えんどう豆白きご飯の緑なり/小河原宏子
★芝桜ふわっと丘を包み込み/黒沼風鈴子