山を切り拓いた核シェルターのような施設に1機のヘリコプターが到着し、スーツに身を包んだ男女が降りてくるオープニング。
この一団の中に、モルダーがいた。
シーズン8では、出演交渉がまとまらなかったそうで、半分くらいにしか登場しなかったデイビット・ドゥカブニーだが(シーズン8全21話中、宇宙人が化けていた冒頭2話と回想の中での登場2話も含めて12話に登場)、
シーズン9に至っては、事実上この19話目が初登場だ。
振り返ってみると、シーズン9でのモルダー登場シーンは、
「#901 リターン・トゥ・ウォーター Part.1」で逃避行に入る前にすりガラスの向こうでシャワーを浴びる姿と、
「#906 トラスト・ノーワン」で採石場を逃げるポツンとした点と、
「#916 ウィリアム」でスカリーの瞳の中に映る幻影の3つだけ。
もうちょっと何とかならなかったものかと、今さらながら思わされると同時に、
ここに至ってようやくそう思うに過ぎない程度にドゲット・レイエスコンビが充分に穴を埋めたのだと、感心もさせられた。
さて、そこまで満を持して登場したモルダーが、9年間続いた大シリーズのフィナーレで、
出演を心待ちにしていたファンを充分に満足させる活躍ができたかと言うと、残念ながら残ったのは不満だらけだ。
なぜかと言うと、これまで積み上げてきたすべての謎が明かされることが当然期待される完結編で、
『2012年12月22日に異星人の地球入植が開始される』という突拍子もない新情報をごく序盤で入手したモルダーは、
そのことを自分の胸の奥深くにしまいこんでしまったからだ。
ファンが期待していたのは、「#611, 612 ファイト・ザ・フューチャー」でシンジケートが解体して以降、
どうも見えなくなってしまった敵の姿と正体を明確にし決着を着けてくれることだったのに、
まったくの新情報を唐突に提示され、真実を追い求めるヒーローが視聴者にもスカリーにも隠し事をし、
それが終盤まで続くのだから、もどかしいったらない。
モルダーが黙ったまま、どんどん時間が過ぎていき、残り時間が気になるところまで進んでも、まだ黙っている。
そして、終了間際に、モルダーでなくCSMの口から語られて明らかになったのは、
こでまで視聴者にはヒントすら提示されてこなかった新情報で、結論は10年後に持ち越し、積み上がった謎は謎のまま。
そんな最終回に終わってしまった、というのが、正直な感想だ。
物語は、モルダーがウェザー山の地下施設に潜入し、上記の秘密を入手した直後、ノエル・ローラーに襲われ、
欄干に追い詰められたがうっちゃって撃退したところから始まる。
欄干から数十m落下し、高電圧線で感電したノエル・ローラーは、表向き死んだものとされ、
モルダーは軍人を殺害した容疑で海兵隊基地刑務所に捕えられた。
カーシュを呼びつけた将軍は、有無を言わさず軍内での密室裁判でモルダーを有罪にするように指示。
将軍には、政府に入り込んだ無敵兵士勢力からの圧力がかかっていた。
一方、連絡を受けて駆け付けたスカリーとスキナーは、「#901 リターン・トゥ・ウォーター Part.1」で逃避行生活に入って以来、久々の再会を果たすわけだが、
スカリーと対面してスキナーの目の前で長々とハグハグチュッチュするのには、物凄い違和感を感じた。
そりゃあ、現実的に二人は既にそういう間柄になっているのだろうし、
解禁とほぼ同時に離れ離れになって1年振りの再会なのだからそうもなろうことは分かるが、
これまでの8年間で二人が築き上げてきたパートナーとしての絶妙な距離感というものを優先させてほしいと思うのは、
一部の少数派の感覚ではないはずだ。
「ウォルター、次は君の番だ」とモルダーらしいジョークで切り上げたものの、このシーンはちょっと受け容れ難かった。
裁判は、カーシュが裁判長、元連邦検事のFBI捜査官カレンブルナーが検事、弁護士がモルダーの指名でスキナーという陣容で行われた。
判事席には、カーシュの他に4人が座っていたが、うち一人が、「#909, 910 神託」でカーシュのオフィスに詰めていたお偉方の一人で、無敵兵士だった(それ以外の3人は、たぶん名もないFBIのお偉方)。
裁判は、スカリー、ジェフリー・スペンダー、マリタ・コバルービアス、ギブソン・プレイズ、ドゲット、レイエスが証言台に立ち、
これまでの出来事をおさらいする形式で進行し、当初から決まっていた通り強引にモルダーの死刑判決が出された。
事態が覆らないと見た仲間たちは、独房からモルダーを奪還することにした。
軍の刑務所内を逃げているときに現れたカーシュは、判決前のモルダーの演説を聞いて良心が咎めたようで
「最初から味方すべきだった」とモルダーの脱走を手助けし、
24時間以内に国外逃亡するように指示、モルダーはスカリーとともに去っていった。
北の国境からカナダ経由で脱出するように指示されたモルダーだったが、「確かめたいことがある」と車を南へ向かわせた。
目的地はアナサジ族の砦。
そこにいる、政府地下施設のカードキーとパスワードをモルダーに知らせてきた『賢者』に会うのが目的だった。
その正体は、CSM。
『#722 レクイエム』で車椅子ごと階段から突き落とされて死んだものと思われていたが、さすがにしぶとく生き残っていたようだ。
ここでようやく、モルダーが冒頭で入手し頑なに口を噤んできた、2012年12月22日に異星人の地球入植が開始されるという事実が、CSMの口から語られた。
このことは、視聴者にとっては今回唐突に出てきた情報であれ、マヤ族が千年前に初めて知り恐れて忽然と消えたのを皮切りに、
歴代大統領を震え上がらせてきたとのことで、大昔から政府要人には周知されてきた真実だったようだ。
CSMは、そのことを知ったモルダーの絶望の表情を眺めたいがために生き延び、
間違いのない事実であるとモルダーが納得する形でその真実を目にする場を演出したのだろう。
CSMがこの砦に籠ったのは、異星人の唯一の弱点であるマグネタイトを豊富に含む地質のため、
異星人の侵略の際にも攻め込まれることなく生き延びられると判断したからだ。
アナサジ族が全滅した600年前、この砦に籠って異星人の侵略を逃れた一部の賢者が、“影の政府”の前身らしいのだが、
ヘリコプターのロケット弾攻撃により、CSMは砦ごとあっけなく吹っ飛ばされてしまった。
ノエル・ローラーは、ドゲットとレイエスを追い詰めてマグネタイト豊富な砦に近付き過ぎたため消滅していったが、
逆にあそこまで近付かない限り平気なら、600年前に異星人が砦を攻めきれなかったというのは、ちょっと変だ。
600年前の異星人だって、地球にやって来るほどのテクノロジーを持っているのだから、何らかの飛び道具くらい所持していただろうに・・。
砦の破壊寸前に脱出したモルダーとスカリーは、ロズウェルのモーテルの一室で語り合う。
『#101 序章』で、モルダーがスカリーに初めてサマンサのことを語った場面とよく似ている。
異星人の入植という運命が変えられると信じて頑張って闘っていこう、まだ希望はある、と話して、9年間続いた巨大シリーズは、幕を下ろした。
「え~、これで終わり~~?」が、観終っての率直な感想だ。
ばら撒いた伏線の摘み残しが、あまりに多過ぎる。
XファイルのMythologyシリーズは、シンジケートが異星人の入植者と続けてきた面従腹背の駆け引きと、
その事実を国民に隠蔽する政府陰謀を描いた前半戦は、「#611, 612 ファイト・ザ・フューチャー」でのシンジケート全滅により一旦完結したと言えるだろう。
それまでにばら撒いてきた伏線は、設定が固まり切っていなかった序盤にある程度の矛盾が散見されるものの一通り回収され、
視聴者を納得させた上で、装いを新たに後半戦に入った。
しばらくの冷却期間を経て、事態が動き始めたのは「#722 レクイエム」で、異星人が過去の誘拐経験者をすべて回収しだしたことだった。
これが代替人間、無敵兵士の出現へと繋がっていくわけだが、その首謀者がはっきりしないまま、なし崩し的に最終回までなだれ込んでしまった印象だ。
判事席の一番左に座っていた無敵兵士の男は、政府内の新たな勢力としてFBIに入り込み、カーシュを脅して操っていたとされたが、
終始無表情でセリフもないので、何も分からないまま。
スカリーの妊娠、ウィリアムの誕生も、無敵兵士による地球侵略準備の一環として扱われていたが、
それらの計画がシンジケート壊滅以前から進められていたように描いてしまったのが、収拾がつかなくなってしまった原因だと思う。
シンジケートとコンタクトしていた「入植者」が、顔のない反乱軍に地球入植の窓口であるシンジケートを全滅させられた後、
地球侵略を企てる勢力がそのどちらになったのかが分からないのだ。
入植者が反乱軍と和解しある程度方針転換したなり、地球侵略の主導権を握った反乱軍がそれまでの入植者の方針を破棄してまったく新しい方向を目指し始めたなり、
そういった整理が行われないまま、気付けば無敵兵士の研究は軍部が50年前から行っていたこととされ、
シンジケートが壊滅しようとしまいと同じだったようにされてしまった。
シンジケートを壊滅させてからの再起動に躓いて、調子に乗り切れずにいるところをデイビッド・ドゥカブニーの出演交渉決裂が追い打ちをかけ、
起死回生を狙ったスカリーの妊娠・出産ネタも、ちゃんと固めないまま走り出したものだから、結局は明確な結論を出せず、
SEASON-10でまとめようと思っていたらSEASON-9で打切りが決定してしまったので、
とりあえず2012年問題を出して続編映画に望みを賭けた、そんな感じである。
そして、その2012年末までに決着をつける続編が作られていないこと、
2013年7月現在も宙ぶらりんのまま続編が作られる気配すらないことを考えると、
制作陣は、広げた風呂敷を片づけもしないまま投げ出してしまったとしか思えないわけで、
ここまで大作を見続けてきたことに、言いようもない脱力感を感じてしまう。
結果論ではあるが、「#611, 612 ファイト・ザ・フューチャー」の後、#617, 618あたりで「#710, 711 存在と時間」に相当する内容でサマンサ問題を片付け、
#620でモルダーとスカリーの恋愛問題に決着をつけたら、
#621, 622の最終回シリーズで「入植者」から主導権を奪い取った新勢力との新たな戦いが始まった、
くらいにして終わっておけば、美しく完結できたはずだ。
SEASON-7,8,9にも、1話完結の秀作が数点あるので、一概に終盤3シーズンが余分だったとは言わないが、
Mythologyのまとめという観点に限って言えば、XファイルはSEASON-6で終わって良かったシリーズだったと言って良いと思う。
こんなネガティブな締めになるとは思いもよらなかったが、残念ながら、これがシリーズを最初から最後まで一気に、しかも丁寧に見直した上での正直な感想だ。
= =
監督:Kim Manners
脚本:Chris Carter
初放映:2002/5/19
ゲストキャスト:
Nicholas Lea as Alex Krycek
James Pickens, Jr. as Alvin Kersh
Laurie Holden as Marita Covarrubias
Jeff Gulka as Gibson Praise
Chris Owens as Jeffrey Spender
Adam Baldwin as Knowle Rohrer
William B. Davis as The Smoking Man
Steven Williams as X
Bruce Harwood as John Fitzgerald Byers
Dean Haglund as Richard Langly
Tom Braidwood as Melvin Frohike
Matthew Glave as Kallenbrunner
Alan Dale as Toothpick Man (判事席の一番左に座っていた、無敵兵士の男)
William Devane as General Mark A. Suveg
Patrick St. Esprit as Dark-Suited Man
Julia Vera as Indian Woman