8人部屋というのは、私が知る限りでは最大級の大部屋である。
前にも書いた通り、私以外は整形外科での入院なので、多分痛いのは手術した部位だけで、全体的に元気が無い人はほとんどいない。
そしてこれまた私以外は皆、ベッドに拘束されていて(多分足や腰の治療なのだと思う)、トイレもオムツか、オマルか、看護師さんを呼んで車いすでトイレに行くかなので、ナースコールで呼び出された看護師さんが頻繁に出入りして、落ち着かない。
そんなわけで、トイレにふらふら、歯磨きしに洗面所にふらふら、売店にふらふら、などというのは私だけなので、同部屋の人と顔を合わせる事はほとんどなく、皆カーテンを引きっぱなしなだから一体どんな人がどんな治療で入院しているのか分らない。
カーテンが開いていたり、トイレで会ったりすれば「お世話になります」とか挨拶するでしょうが。
声だけ聞いて推測するには、皆さん私よりずっと年配らしい。
年配のおばちゃんというのは、たいがい話し好きである。
特に私の隣の人はおしゃべりに余念が無い。
朝から晩まで医師、看護師、リハビリの療法士、薬剤師、見舞客…と、ベッドに立ち寄る人は全てつかまえて、世間話をする。
「神田の生まれ」だというお隣さんはべらんめぇ口調で、声も大きく、もんくも多い。
見舞い客以外は皆今仕事をしている人で、忙しいんだという事を一切無視して、うちの何なにがあーだこーだと、治療には一切関係ない話を延々10分20分平気でしている。
お陰で、このおばちゃんの家族構成から日々の生活、親戚交友関係に至るまで、私詳しく説明できるよ。
夜は夜で、いつも2、3人がすごいイビキで、まるで酔っ払いのおっさんの様。
そんな人に限って昼間、「眠れないんで、眠剤いただけますか?」と、か細い声で看護師に薬をもらっている。
隣のおしゃべりおばちゃんは意外と夜は静かで、イビキは無いんだけど、時々小声で「ああうるさい、チッ」と、他人のイビキをうるさがって、舌打ちしているのが聞こえる。
そんなこんなで、人間ウォッチも面白いんだけど、いやいやストレスも溜まりそうなので、夫に耳栓を買って来てもらって、テレビのイヤホンを付けている時以外は耳栓をしながら読書したり寝た。
日頃は犬達との生活なので、あまり人と関わらず、テレビを消していればとても静かに過ごしている。
そのせいか、人の声がやけに耳障りで、昼も夜も休めたものではない。
そうなったらもう楽しみはオショクジだけよん。
あれ?
いつ何時も、器が4つ。
ご飯茶わん、お味噌汁、それ以外は、例えば小さなシャケの切り身とおひたし…しか無い。
この上の写真の時は、お汁が無い分、ふろふき大根と、小さいカツとサラダ。
サラダっつたって、レタスちょびっとちぎって、トマト2切れだけ。
これ一品? カツの付け合わせでしょ?どう見ても。
この日なんか、器の蓋をあける前、「へぇ~、めずらしい。今日は器5つだ」と思ったら、1つはサンマの大根おろしだった。
結局この日もおかずはサンマとシュンギクのおひたしだけだった。
私のは食事制限無しの普通食だよ~。せめて「あぁぁぁぁ~、柴漬け食べたい!」
ここの病院は心臓カテーテルで全国的に有名な病院で、病院の評判もとても良い。
近くにある総合病院や大学病院では無く、わざわざ遠くの病院に来たのにぃぃぃ。
(何しに? ご飯食べに?)
言っちゃ悪いけど、これ、栄養士が計算してるの?
カロリーは“ご飯の盛り”で調節しているかのように感じてしまう。
最近流行りの『タニタ食堂』の本を何ヶ月か前に買って読んだばかりなので、この食事には愛が無いと思った。
5日もお風呂に入れないと痒い。
特に頭が痒くて痒くてたまらない。
若い頃、仕事と子育てで十分な睡眠も取れず、「重病や重症は嫌だけど、ちょっとした絶対治る病気で1週間くらい入院したいなぁ」などと、よく思ったものである。
今回の入院で、健康であることが一番楽ちんなんだと、つくづく思い知った。
好きな時に好きなモノを食べられる幸せ。
自由にトイレに行ける毎日。
暖かいお風呂にゆっくり入れる事。
ベッドの上で1日過ごしても寝られないんだ。
痒い所をかける、読みたい本が読めるし、面白いテレビを見聞きできる、犬と散歩が出来る…健康である事はこんなに自由である事なんだ。
健康第一なんて、いつも思っている事だけど、今までは“健康であることが当たり前”前提の言葉だったような気がする。
来週分のコープの注文も、「この食材が届く頃、これを使って料理が出来ないかもしれない」なんて思った事があるだろうか?
そんな事をいちいち考えていたら生きて行けないかもしれないけど、これからは時々リアルに想像して自分を戒めようと思った。
そして、病気の人、体が不自由な人は、きっと生活が不自由なんだろうと、今までよりずっと優しい気持ちで接しようと思った。
この、不平不満の入院のせいで、大きな収穫だった。
さて、予定通りに10日に無事退院し、病院からそのまま犬達を迎えに行った。
ほたるも思ったより元気で、シュシュも変わりなく、ほっとした。
帰り途、ちょっと遠回りして、いつもの公園に寄って、長めの散歩をした。
とても天気がよく、午後を少し回っていたので日だまりは暖かく、木々は秋色で、なんて穏やかなんだろう。
家に帰ってから、ほたるは一週間分の緊張から解放されたかのように爆睡。
シュシュは一週間、犬のくせに猫をかぶっていたようで、デビルシュシュに変身して家じゅう走り回った。
みんな“おうち”が一番!
おまけ
縫った所はこんな風でしたが、先週の金曜日に抜糸したので、今はもっと傷が目立たなくなりました。
最後になりましたが、お見舞いの言葉をかけてくださった方々に、感謝いたします。
ありがとうございました。
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