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西田みどりの「誰でも書けるレポート講座」

日々のニュースや新聞記事から注目すべき文章表現を抽出し、レポートにどう生かすかを解説していきます

一見もっともらしい経団連の「イコール・フッティング」だが――湯浅誠氏の数字使いのうまさが光る

2010-10-04 02:44:41 | 日記
一見もっともらしい経団連の「イコール・フッティング」だが――湯浅誠氏の数字使いのうまさが光る


活動家・湯浅誠氏の原稿は型が決まっていて、読みやすい。
まず事例から入り、最後は意見で締められる型が多く使用されています。
文中で提出される「事実」は新しいものが採用され、出どころも確か、
数字による裏付けも取られています。
時にデータの羅列に見えることもありますが、
その羅列のしかた、つまり編集に湯浅氏の意見が表明されています。

政府は9月9日、「新成長戦略実現会議」の初会合を開き、
菅直人首相は法人税の実効税率の引き下げや
雇用促進税制の検討を指示した。
それに先立つ7月20日、日本経団連は
「『新成長戦略』の早期実行を求める」という文書を発表し、
その中で法人減税などの
「事業環境の国際的なイコール・フッティングの取り組みを進めなければ、
仮に景気が本格的に解決しても、雇用拡大につながらない恐れがある(ジョブレス・リカバリー)」
と警告していた。
(2010年10月1日付毎日新聞)

出だしの部分です。
この経団連の発表に対しツッコミを入れて、記事は展開します。
まず「イコール・フッティング」について。
耳慣れない言葉です。
湯浅氏はそれを見越して、イコール・フッティングの意味を説明。
それから、問題点の指摘に入ります。

イコール・フッティングとは「競争条件を一緒にすること」を指す。
公正な競争のためには条件が一緒でなければならない。
しかし、どこと何を一緒にするのか。
財務省の資料によれば、
日本の法人所得課税税収は、
対国民所得比で6.5%と、
ドイツの2.8%、
フランスの4.0%、
スウェーデンの5.0%
に比べて高い。
他方、社会保険料の事業主負担は、
ドイツ(8.7%)
フランス(15.0%)
スウェーデン(13.0%)に対し、
日本は6.4%と低い。
(同)

数字が並んでいるので慣れない人には読みづらい。
それで改行を多めにしてみました。
まず、数字の出どころが財務省であることが明記されています。
財務省ですから、信頼できると考えてよい。
そして、比較です。
法人税を下げることを菅首相が指示したということですが、
確かにこの比較から見ると、日本の法人税は高いことがわかります。
フランスは4.0%、日本は6.5%なのですから。
でも企業が負担している社会保険料は
日本が6.4%に対して、フランスは3倍近い15.5%。
日本の企業は社会保険料をそれほど支払っていない。
イコール・フッティングは何をイコールにするのか。
法人税だけ「イコール」にして社会保険料は「イコール」にしないのか。
それはおかしいと指摘しています。

しかし、社会保険料の事業主負担を
イコール・フッティングにするとはどこにも書いていない。
(同)

ということです。
法人税だけイコール・フッティングにするのは身勝手だということですね。
後半では、国税庁の「民間給与実態統計調査」を使って
イコール・フッティングにツッコミを入れています。

…「1年を通じて勤務した給与所得者」の給与総額が
この10年間で25兆円減り、
年収200万円以下が1099万人と
過去最高に達していた。
このうち800万人が女性で、
女性給与者の44.9%を占める。
(同)

つまり、女性の半数近くが年収200万円で働いているわけですが、
この雇用の質のイコール・フッティングは言われていないということです。
経団連の言うイコール・フッティングは法人税だけで、
他国と比して遅れている社会保険や、
女性の労働現場は今のままでよい、ということでしょう。
25兆円は大変なお金です。
女性ばかりでなく、男性のほうも給与は下がり続けているわけで。
数字がいかに説得力を持つか、よく計算して書かれています。
そして、最後は意見です。

人々の生活が充実した結果として経済成長があるので、
経済成長すれば
自動的に生活が充実するわけではない。
政府には「国民の生活が第一」という大方針の下で、
雇用の質・生活の質のイコール・フッティングをこそ、
目指してもらいたい。
(同)

イコール・フッティングをキーワードに
経団連の一見、筋の通っているように見える要求が
別の面から見ると実は偏ったものでしかないことを、
暴いています。
出どころのはっきりした数字の裏付けが
説得力を持って読み手に伝わります。
湯浅氏は東大大学院博士課程で学者の訓練を積み、
論文を書き、
活動家になった方ですから、
型の整った文章を書きます。
レポートのお手本にはもってこいの文章なので
見習うことをお勧めします。

――2010年10月4日
©NISHIDA Midori
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