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西田みどりの「誰でも書けるレポート講座」

日々のニュースや新聞記事から注目すべき文章表現を抽出し、レポートにどう生かすかを解説していきます

「無条件の生存の肯定」と「役に立たなければ生きている意味はない」―対比が生み出す説明不要の効果

2010-05-14 05:36:57 | 日記

そのころ、私はリストカットの取材を続けていました。
「生きる意味」の悩み。
生きていても迷惑じゃないか。
役に立たないから死んだほうがいいんじゃないか。
そんな声をたくさん耳にして、
私自身の精神状態が厳しくなることもあった。
そんなとき、子猫に救われましたね。
(2010年5月13日付朝日新聞)

「かぞくの肖像」というペット紹介の連載記事で
作家の雨宮処凛氏が語っている言葉です。
雨宮氏を救ってくれた「子猫」というのは
家の近くで拾ってきた生後間もない猫。
とにかく元気いっぱいで、
カーテンを破ったり、靴にオシッコをかけたり、
はたまたパソコンにのって原稿を消去してしまったりと、
迷惑のかけっぱなし。もちろん何の役にも立たない。
それを雨宮氏は「無条件の生存の肯定」と表現しています。
生きていることに何の疑問を持たず
全身から生きる喜びを発している子猫と、
生きる意味に苦しみ、
「役に立つ」ことが生きることだという呪縛にとらわれている
リストカットする人たち。
この対比で原稿は書かれています。

言葉を費やさなくても、
生きると意味とは何なのか、
役に立つとは何なのか
という哲学的な問いかけが
読み手に対して発される対比です。
こうした対比が提示できたときは、
言葉での説明は極力省いて
読み手に任せます。
なぜなら、お説教になる危険性があるからです。
原稿の最後は雨宮氏らしく、こう締められています。

もしホームレスになっても、
この2匹は手放せない、
絶対連れ歩くだろうと思います。
(同)

作家として活躍している雨宮氏ですが、
取材姿勢は「他人事」という立ち位置ではありません。
常に当事者の側に立って
作品を生み続けているのがよくわかります。

©Nishida Midori
www.gakushuin.ac.jp ›