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日本語の不思議

日本語の不思議について書き綴っています。

「しゃべれる、食べれる」は「ら抜き言葉」ではない

2012年12月30日 | 日本語
「しゃべれる、食べれる」は、1980年代の前半、コンビニ(ミニストップ)のキャッチコピーとしてテレビCMで有名になった言葉ですね。

「日本語の乱れ」にうるさい人であれば、「ら抜き言葉だ、けしからん!」となるところでしょう。
でも、私は、これは非常に良くできたコピーだと思いますね。
だって、これを「しゃべれる、食べられる」としたら、途端に語呂が悪くなりますよね。
本来は「食べられる」だけど、「食べれる」でも意味が通じる、という日本語の柔軟さが、この名コピーを生んだわけです。

「あれ、ら抜きを正したら、『しゃべられる、食べられる』になるんじゃないの?」と思った方、いませんか?
そう、これはちょっと勘違いしそうになります。
でも、「しゃべられる」って、不自然な感じがしませんか?
実は、この「しゃべられる」という表現には、「ら付け言葉」という呼び名が付いています。

「しゃべられる」という表現は、元々正しい可能の表現でした。
でも、五段活用の動詞の可能表現は、今日では「可能動詞」を使うのが一般的です。
「しゃべる」の可能動詞は「しゃべれる」です。

五段活用動詞(ラ行以外)
元の動詞 未然形  「れる」付与 可能動詞
書く   書か   書かれる   書ける
立つ   立た   立たれる   立てる
思う   思わ   思われる   思える

ラ行五段活用動詞
元の動詞 未然形  「れる」付与 可能動詞
しゃべる しゃべら しゃべられる しゃべれる
走る   走ら   走られる   走れる
帰る   帰ら   帰られる   帰れる

上一段活用、下一段活用、カ行変格活用動詞
元の動詞 未然形  「られる」付与 「れる」付与
見る   見    見られる    見れる
食べる  食べ  食べられる   食べれる
来る   来    来られる    来れる

「しゃべる」は、ラ行五段活用動詞です。
ラ行以外の五段活用動詞だと、可能動詞の語尾は「れる」にはならないので問題ありません。
でも、ラ行五段活用動詞の場合、可能動詞の語尾が、「れる」となり、これは、上一段活用、下一段活用、カ行変格活用動詞に助動詞「れる」を付けた、いわゆる「ら抜き言葉」と同じに見えてしまいます。

そのため、ら抜き言葉を使ってはいけない、と極度に過敏になっている人の場合、「あれ、『しゃべれる』は『ら抜き』かなと勘違いして、「ら」を付けて「しゃべられる」としてしまう、というわけです。
これが「ら付け言葉」です。

もっとも、先に述べた通り、元々は、「しゃべる」の可能表現は「しゃべられる」でした。
同様に、「書く」の可能表現は「書かれる」、「立つ」の可能表現は「立たれる」だったわけです。
助動詞「れる」を付与した形は、一応現在でも「可能」の意味も持つとされていますので、「しゃべられる」「書かれる」「立たれる」を可能の意味で使っても誤りではありません。
でも、ちょっと意味は通じにくいですよね。

この表を上下に見比べてもらうと、五段活用の可能動詞と、上一段活用、下一段活用、カ行変格活用動詞に「れる」を付与した、いわゆる「ら抜き言葉」が、非常に似た構造になっていることに気付かれると思います。
どちらも、ローマ字表記した時に、間にある "ar" を取り除いた形になっているのです。
本来の表現 ローマ字    可能動詞/ら抜き言葉 ローマ字
書かれる  kak-ar-eru   書ける        kakeru
立たれる  tat-ar-eru   立てる        tateru
しゃべれる shaber-ar-eru  しゃべれる      shabereru
見られる  mir-ar-eru   見れる        mireru
食べられる taber-ar-eru  食べれる       tabereru
来られる  kor-ar-eru   来れる        koreru

こう考えると、「ら抜き言葉」は生まれるべくして生まれた言葉なのだなぁ、とつくづく感じます。