●長島充 工房通信 The Studio Diary of Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家 長島充の工房より、年間を通じての作品制作や展覧会情報、日常の出来事、自然などに関して画像と文章により紹介。

63.『水から生まれる絵 -堀井英男の版画と水彩- 』 展

2013年01月08日 | 美術館展覧会

3日。水戸市の茨城県近代美術館で開催中の『水から生まれる絵 -堀井英男の版画と水彩- 』展を観に行って来た。

堀井英男は年末のブログに書いた美術学校時代の恩師である。先生が60才で亡くなってから、早いもので18年が経過した。関係者やコレクター、ゼミの教え子の間で「全貌を見れる大きな回顧展を開いてほしい。」という多くの願いがようやくかなった。師は同県の潮来町出身で郷里での大回顧展でもある。

堀井英男(1934-1994)と言えば1960年代の現代版画隆盛時代に印象的な色彩銅版画で彗星のように画壇にデビューした版画家として有名である。代表作は黒と原色の静かな空間の中に真っ白く浮かび上がる傀儡人形のシリーズが愛好家の間でよく知られている。今回の展示では東京芸大の油画科卒業後、1960年代から始まる抽象的な絵画、版画作品から1970年代-1980年代にかけての『閉ざされた部屋シリーズ』に代表される人形をモチーフとした色彩銅版画の連作。そして1990年代から最晩年までの顏や心象風景を描いた水彩画などを中心に約200点で構成されている。その時代時代でゆっくりとテーマを変えながら自己の内面世界を追求し続けた作家なので、作品はもちろんのこと、年代を追った展示はとても見やすい内容となっていた。

…とにかく、妥協を許さない、自分にも他人にも厳しい姿勢の人だった。そして、たいへん人情家で優しい人でもあった。僕が恩師のことを語ればスペースがいくらあっても足りそうにない。また語り尽くせるものでもない。ただ20代の初めに、この人と出会い指導を受けたおかげで今の自分があることは事実である。最後に恩師の自作について語った多くの言葉の中で僕が特に好きでときどき頭の中で復唱している言葉をご紹介する。

『ルドンがそうであったように、私は白い画用紙が苦手である。なぜならば1枚の白紙は、無刺激さ故に人を倦怠の世界に誘導し、、やがて描くエネルギーを略奪するからである。「黒は若さと生気のマチエールです」とルドンは言っているが、私にとってもイメージを想起させてくれるのは矢張り黒である。黒い虚空に浮遊する白い人形たち、それは時として仕掛け人形のようにむなしい同じ動作の繰り返し…。わが愛すべき人形は常に闇の中にある。黒に憑かれてから久しいが、現代社会と人間とを直視したとき、その密閉された空間の舞台は私には矢張り黒でなければならないのである。』 1979年 堀井英男 

オディロン・ルドンの幻想世界と現代詩を愛した恩師らしい名文であると思う。

展覧会は今月20日まで、まだ行かれてない方はこの機会にぜひ、深遠で詩情あふれる堀井英男の作品世界に触れていただきたい。また、今年4月から5月には東京の『八王子夢美術館』に巡回する。画像はトップが詩画集『死の淵より』の連作(展覧会図録より複写)、下が晩年の顏をテーマにした水彩画(図録より複写)、美術館の入口。

 

  

 



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