社会保障と税の一体改革では障害のある人の生活はよくならない
2012年 5月 21日
(障害者団体) きょうされん 理事会
5月8日、国会では社会保障と税の一体改革(以下、一体改革)関連法案の審議が始まった。野田総理が並々ならぬ意欲を示している消費税増税である。すでに大手マスコミは、改革の優先順位や国会審議の見方などは多少異なるが、「消費税増税はやむなし」といった論調では一致している。逆進性の高い消費税が増税されれば、障害のある人の生活にも深刻な影響を及ぼすことから、ここにきょうされんとしての見解を示すこととする。
一体改革関連法案は税制、子ども、年金の3分野・7法案から成っている。それぞれの法案ごとに詳細な検証が必要であり、一言で評価することは出来ないが、すでに子ども、年金などについては、関係団体から批判が続出している。また、直接の法案ではないが、改正とはほど遠い先日の衆院での「障害者総合支援法」なるものの可決をみても、自己責任論や市場原理等、昨今の社会保障政策の根底に流れる思想が消費税政策に持ち込まれることは必至である。
ここで改めて問うておきたいのは、一体改革ということが果たして妥当であるか、ということである。一体改革と言えば聞こえは良いが、本来は全く性質の異なるものである。まずは、あるべき社会保障の形を国民に示し、これについての論議を尽くした上で、あらためて財源問題を論議するというのが筋である。今般の一体改革は、「財政状況が火の車にあって、改革を成すか、それとも放っておくか」といった乱暴な二者択一的な論立てで、言わば脅し同然の提案である。
私たちは声を大にして叫びたい。「消費税の増税は絶対にゆるせない」と。きょうされんには全国各地から「これ以上消費税をあげないでほしい」「自由になるお金がほしい」「福祉サービスや病院に払う負担をなくしてほしい」などの悲鳴にも似た訴えがたくさん届いている。消費税は逆進性が強く、収入が少ない人ほど負担が大きくなるのである。残念ながら障害のある人の多くは低収入の状態にあり、生活面への悪影響は避けられない。
きょうされんは2011年11月から2012年2月にかけて、他の障害関係団体の協力を得て「障害のある人の地域生活実態調査」を実施し、全国10,012人から回答を得た。その結果(第一次報告)によると、相対的貧困とされる年収112万円の貧困線を下回る人が56.1%にも及ぶ。厚労省が2010年に行った国民生活基礎調査によると、同じく収入が貧困線を下回るのは国民全体の16%であることを考えると、収入が障害のない人と比較していかに厳しい状況にあるかが分かる。また、ワーキングプアといわれる年収200万円以下の人は今回の調査では98.9%にも及んだ。
これほど過酷な実態におかれている障害のある人にとっては、現行の5%でも大きな負担であり、ましてや8%、10%への増税は、ただでさえ少ない所得を更に目減りさせることになる。一人暮らしやグループホームなど地域での生活をさらに困難なものに導き、ようやく始まった地域生活への移行の流れに逆行するものである。
社会保障と税の一体改革を審議する特別委員会が設置された4月26日は、奇しくも障害者総合支援法案が衆議院本会議で可決された日でもあった。「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」と「障害者自立支援法訴訟基本合意」を無視したこの法案の審議と平行して、消費税増税論議が進んでいることは単なる偶然ではなかろう。政権交代の時に抱いたあの期待感は今や跡形もなく、それとは正反対の大きなうねりが生活を直撃しようとしている。
我が国の財政が危機的状況にあることは論を待たないが、これを克服するのに消費税増税ありきと言うのは余りに短絡的すぎる。国益のために必要な増税だとの主張があるが、それならば問いたい。「国民益」につながらない増税が真に国益にかなうと言えるのかと。国民の命と健康を守るための社会保障の所得再配分機能を回復・強化する道筋と、税収を確保するための方策について、多様な選択肢の下での更なる国民的議論が必要ではないか。きょうされんは、今般の法案審議に対して以上のような見解を表明し、障害分野においても議論を喚起するとともに、障害のある人の困難な生活実態の好転に向けていっそう力を尽くす決意である。
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