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Moriya's Flask

古代ローマ、カルタゴ、エジプト、ギリシアその他の神話と歴史について。フィクションは基本的にネタばれです。

秘身譚 1

2013年08月01日 | 古代ローマ
伊藤真美「秘身譚(ひしんたん)」 1 (KCデラックス)
講談社(2010年)


 2巻が発売されないので作者の病気を心配していたが、本人のブログによると私的なトラブルとのこと。打ち切りではないらしいので、数少ない古代ローマ物の漫画再開の期待を込めて感想をアップする。

 物語は西暦217年に始まる。この年はカラカラ帝が近衛兵によって暗殺され、その近衛隊長マクリヌスが皇帝に即位した年だ。
 ローマ帝国の東方の都市アンティオキアは宿敵パルティア帝国との戦いの最重要拠点だが、「夜の辻(コンビトゥム・ノクティス)」という闇の組織によって牛耳られていた。非合法な剣闘試合は市民に大人気で、死の女神ヘカテーに扮した残忍な女剣闘士には喝采が送られる。

 新任の総督は、それが気に入らない。部下である上級特務兵グナエウス・ドミティウス・ポリオの関与を疑い、彼の逮捕に踏み切った。
 事態を想定していたポリオは、両性具有の少年エラに総督を暗殺させる。しかし、エラの肉体には大きな秘密があり……。

 一方、先帝カラカラ、ゲタの母として権力を握っていたユリア・ドムナの一族も動き出す。ユリア・ドムナは死亡したが、その姉ユリア・マエサは娘ユリア・ソエミアスや孫ウァリウスを利用して帝位を奪おうと企み、ポリオに協力を求めた。

 主人公エラの肉体の秘密は歴史物というよりファンタジー物っぽい。死の女神ヘカテーとして剣闘試合に出ていたのも彼だろうか。月の満ち欠けに影響され、肉体も精神も変わってしまう……?
 まだまだ序盤で謎だらけの展開。作者にはぜひ続きを発表してもらいたい。

 注目すべきは、母を慕う純真な少年に見えるウァリウスだ。
 218年にヘリオガバルスとして帝位に就くと、歴史家エドワード・ギボンから「醜い欲望と感情に身を委ねた」「最悪の暴君」と評されるようなトンデモ皇帝になる。女装したり乱交したり売春したり男と結婚したりという性倒錯癖で有名。
 最近は性倒錯ではなくトランスジェンダーだったのではという説も出ている。だからといって無茶苦茶な政治をしてよいという評価にはならないと思うが、彼の倒錯癖をエラとの出会いに絡めていくのかもしれない。



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