物書き同盟。作品列伝

物書き同盟に寄せられた作品掲載。

【Live With You 2】 15. -表参道-

2006年03月15日 | レガシー♪
BGM 「Stay (Faraway, So Close!)」 by U2

from "Zooropa"






青き隣の芝生。





携帯を手にメールを打つ。


読み直す。消す。

もう一度打つ。消す。


午前三時すぎ。

何度も繰り返す。




由美香の言葉が思い出される。



表参道で食事をしたあと
外苑西通りにレガシィを停め
二人で陽の光を少し楽しんだ。



「ほんと。
 煮え切らないんだよ。あの野郎。」

「あはは。
 そこがいいとこ。ツバサさんも。」
「でもね。
 男ならビシっと。高道さんみたく。」

「え?うちの?
 ビシっとなんかしてないわよ。
 いつもイライラさせられっぱなし。
 外ではどうだかしらないけど。」


「明日発つってさ。」
「あら。
 じゃあ今日はもう切り上げなくちゃ。」

「いいんだよ。
 バイトしてそのまま行くって。今夜も。」
「うふふ。ツバサさんらしいわね。」


「アホだよ。単なるアホ。」

「うふふ。」

「あのね、ユミカ。笑いごとじゃないの。
 こっちとしては。ホントむかつくの。あの男。」


「あら、ホノカ。いつぞやの私のマネ??」



「へ??」

「ふふふ。ごちそうさま。
 さ。帰りましょ。悪いわね。いつも送迎。」


「死ぬのは助手席が先ですから。」
「そうね。ちゃんと看取ってね。うふふ。」

「なーんだかなあ。ヤーな感じー。」





自分で打ったはずの文字が
自分のものでない気がする。

携帯の画面に浮かび消える。

それだけの文字。



相手は、今バイト中。

でも、そのまま行ってしまう。




「もしもし。アタシ。」

「ああ。今さっき終わったとこ。
 帰って支度して・・・。」


「ツバサ。」

「はい。」


「愛してる。」

「うん。」


「ずっと待ってる。」

「うん。ありがとう。」





午前四時すぎ。

陽はまた昇ろうとしていた。
















【自己転載】 from 信州FMブログ「With My Legacy」

        http://shinshu.fm/MHz/03.23/



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【Live With You 2】 14. -時刻表- 最新投稿日時 - 2006/01/28 01:50

jpg image legacyremains 2006/01/28 01:50

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BGM 「Where the Streets Have No Name」 by U2

from "The Joshua Tree"

  Album of the Year 1987 - 30th Annual GRAMMY Awards





もうはまだ。まだはもう。





雲の形の変化に先に気付いたのは
やはり塚元誠次の方だった。


翼の方を見遣ると
まだ一心不乱に魚を追っている。



もうしばらく様子を見てやるか。



一回り以上歳も離れているが
なぜか気が合う。

ヤマニンゼファーとセキテイリュウオー。
火の出るような直線のデッドヒート。

たまたま府中競馬場で
隣どうしだったに過ぎないが。




十年以上前の記憶に
今の翼をオーバーラップさせながら
塚元は先に釣り竿を片づけ始めた。


「ツバサ。
 ぼちぼち帰ろうぜ。」


「えー。
 まだいけるって。早いよ、諦めが。」

「相変わらず、
 いつまでもしつこい男だよ。」

「わかってるよ。
 でもさ。もうちょいだけ待って。」


「はいはい。
 んじゃ先に車にいるぞ。」




土手の脇へ停めた
レガシィ・アウトバックの運転席で
一人AMラジオを聴いていると
雨滴がフロントガラスに付き始めた。



おまえはもう十分釣りきったんだ、
この土地でも。

俺も。美しい大魚をもさ。

気付いてないのはおまえだけ。
大魚の方はとっくに気付いてる。



まーったく。

これまた世話のやける連中だ。




川からあがるよう声をかけるべく
運転席を出ようとしたとき、
ニヤつきながら戻ってくる翼の姿が
助手席のサイドミラー越しに
ちょうど目に入った。



はいはい。

天然大物ハンターさま。


まだご用ございますか。

このお抱え運転手に。




坂下翼。人生の再出発。旅立ちの前に。

二人の男はそんな時刻を共にしていた。
















【自己転載】 from 信州FMブログ「With My Legacy」

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