最近、全然読めない。
翻訳家の仕事は、翻訳だけではない。翻訳家であるために読者であるはずなんだ。
本が読めないと、困る。
読めるようになった年齢から、ずっと読んでいた。小1の時に読解力は大人のレベルだ、と。小説を一気に読んでしまって、次の本を探しに行った。毎週の楽しみにしたのは、図書館に行くことだった。
でも大学生になると、小説をほとんど読めなくなった。授業が難しいし、友達をうまく作らなかったし、うつ病がひどいから、授業のシラバスに書いてあった本を読むしかなかった。「源氏物語」「平家物語」から「こころ」「放浪記」「黒い雨」など、せめて授業のための本を読めばギリギリ卒業できるからそれらに読書力を集中した。振り返ると、灰色なイメージだけが見える。読書抜きの生活って、ほんとうに気が抜けた。
卒業してから、ロンドンに引っ越して、だんだん小説を楽しむアビリティが戻ってきた。会社員としての生活には余裕があったから、電車で通うときやランチの休憩にたくさん読んだ。「重力の虹」「インフィニット・ジェスト 」のような難しくて分厚い小説などをガンガン読んだ。
いま考えて見ると、なんと贅沢だな、と。
でもそのうちに、大学時代に憧れたように翻訳家になることに心を決めた。本中心の生活が欲しかった。
その願いが叶えたけど、今の私は、また読めなくなった。
「8月の果て」の英訳を11月に終わってから、頭がブランクだ。集中力を全部使い切った感じだ。机のそばに6ヶ月分の文芸誌や単行本が高々と積もっているが、一冊を開いてみるとすぐ閉じてしまう。
早く次のプロジェクトを決めないと、困る。でも読書せずに無理だ。
おそらく、これは、バーンアウトだ。
この悪循環がいつまで続くのか分からない。もっと安定した働き方を見つけないといけないことが明らかだが、どうやって均衡がとれば分からない。
自分を変わってみること自体が怖いだけど、このままで続くことがありえない。以前にこのような考え方があったときに、小説で他の人の答えを探した。今の私は、何を向けばいいのか?