花の命は短いけど私って花じゃない

ある翻訳家のくだらない日記

ブランクな日々

2022年02月10日 21時04分03秒 | 日記
最近、全然読めない。

翻訳家の仕事は、翻訳だけではない。翻訳家であるために読者であるはずなんだ。

本が読めないと、困る。

読めるようになった年齢から、ずっと読んでいた。小1の時に読解力は大人のレベルだ、と。小説を一気に読んでしまって、次の本を探しに行った。毎週の楽しみにしたのは、図書館に行くことだった。

でも大学生になると、小説をほとんど読めなくなった。授業が難しいし、友達をうまく作らなかったし、うつ病がひどいから、授業のシラバスに書いてあった本を読むしかなかった。「源氏物語」「平家物語」から「こころ」「放浪記」「黒い雨」など、せめて授業のための本を読めばギリギリ卒業できるからそれらに読書力を集中した。振り返ると、灰色なイメージだけが見える。読書抜きの生活って、ほんとうに気が抜けた。

卒業してから、ロンドンに引っ越して、だんだん小説を楽しむアビリティが戻ってきた。会社員としての生活には余裕があったから、電車で通うときやランチの休憩にたくさん読んだ。「重力の虹」「インフィニット・ジェスト 」のような難しくて分厚い小説などをガンガン読んだ。

いま考えて見ると、なんと贅沢だな、と。

でもそのうちに、大学時代に憧れたように翻訳家になることに心を決めた。本中心の生活が欲しかった。

その願いが叶えたけど、今の私は、また読めなくなった。

「8月の果て」の英訳を11月に終わってから、頭がブランクだ。集中力を全部使い切った感じだ。机のそばに6ヶ月分の文芸誌や単行本が高々と積もっているが、一冊を開いてみるとすぐ閉じてしまう。

早く次のプロジェクトを決めないと、困る。でも読書せずに無理だ。

おそらく、これは、バーンアウトだ。

この悪循環がいつまで続くのか分からない。もっと安定した働き方を見つけないといけないことが明らかだが、どうやって均衡がとれば分からない。

自分を変わってみること自体が怖いだけど、このままで続くことがありえない。以前にこのような考え方があったときに、小説で他の人の答えを探した。今の私は、何を向けばいいのか?

若くて嬉しくて恋をして

2021年03月01日 18時39分00秒 | 日記
最後のブログからいろいろあったね。それは後の話にしたいと思う。

今日のテーマはファンタジー。行きたいところ。昨日、突然、タイムマシンがあったら自分の過去のいつに行くかという質問にハマってしまった。

沖縄、渡嘉敷島。2017年のクリスマス、いわゆるハニムーンの旅。2017年の夏に、西荻窪のいまなくなったビール工房の帰り道に8万円を見つけた。もちろん、交番に行ってちゃんとやったけど、結局、そのお金の持ち主さんが出てこなかったから自分がもらえるようになった。嬉しいな、いいな~この日本の制度、せっかく神様が貧乏な大学院生の自分にこのお金をくれたので(と言っても、無信者だ)どこかへ行こう行こう行こう!

暑さ。シークヮーサーの甘酸っぱさと口の中の痺れ。ラフテーとウルマの匂い。渡嘉敷島のマグロジャーキー。白砂のあちこちにさんごの欠片。島の人の明るい顔。ミラージュのような「cafe 島むん+」 の馬鹿なほど美味しい和風イタリア料理、イカスミチャーハンが頭に残る。透明でキレイな水。クリスマスイーブは居酒屋で唐揚げを食べて。泡盛、泡盛、泡盛。ほんの少しだけの間、この世に最も嬉しくて美しい女のように感じた。

若くて嬉しくて恋をしていた時の記憶は宝石みたいだ。いつでも箱から取り出して見ると同じような感じが心に煽りだす。この、あまり新しい記憶を作っていなかった一年間に、宝石みたいな記憶がいつもよりも輝いた。

ほしいもの

2020年10月24日 18時46分32秒 | 日記
でかいシークヮーサーサワー。

温かい砂浜でちょっと昼寝すること。

お母さんに抱きしめられること。

暗くて雰囲気がいいバーで知らない人といい会話をすること。

タバコ。

もう一度電車でヨロッパとロシアを渡って船で日本に行くこと。

小樽で食べたティラミス・パンケーキ。

コンビニから缶の酎ハイ。

本屋に行って長くいること。

予約なしで出掛けること。

夏。

温泉に行くこと。

友達からハグ。

冬に耐えるブーツ。

誕生日、生きていることの最悪間

2020年10月23日 17時17分37秒 | 日記
明日は誕生日だ。33歳になる。
昨日の午後4時頃から不安定になって、6時からソファでうつ伏せに倒れて愛しい誰かが死んだように泣いていた。
なんでなんで。
なんでこんな風に生けなきゃ。

最近金原ひとみさんの『パリに暮らして』から2つのエッセイの英訳をした。「エグイユ」と「ピュトゥ」('Aiguille', 'Pute')。たぶん10年間以上も金原ひとみさんの作品に気をしていないけど、ある文芸誌の編集者に誘われたし、いいチャンスだと思った。締め切りまで10日間だけの余裕があったから読むこともせずに翻訳し始めた。

金原さんのエッセイを訳しながら「同感」という感覚にびっくりした。

「生きていることに激しい罪悪感がある。」

そう、そうだ。同じような気持ちがある人がいると思わなかった。子供の頃からずっと感じていることだけど、一度も口にしなかった。口にすると笑われるじゃないか。それでも、わたしには基本的な信念に近い。もちろん、他人にはその罪悪感があればいいと思わない。キリスト教徒じゃないけど、みんなは無罪で生まれてくると思います。わたしだけが悪い。ある意味で、とても自分中心な考え方だと分かるけど、それを分かっていても完全に振り払えない。

とてもラッキーだ。知っているよ。十分なお金と好きな仕事があるし、愛して愛される家族もいるし。だったらなぜこの感じから逃げられない?どうして存在することがこんなに辛いのか?脳の中で何かがちゃんと繋がっていないに違いない。

でも金原さんが書くように、「どうしてここまで生き延びられたのか分からないまま、これからもただ力尽きるまで生き続ける他ないのだろう。」金原さんの言葉を読んで英訳して、「一人じゃない」という気づきが誕生日プレゼントのように大事にしたい。


ショートリストショック

2020年10月07日 20時27分16秒 | 日記
柳美里さんの 『JR上野駅公園口』 (英訳: Tokyo Ueno Station、翻訳者:小生)が全米図書賞の翻訳文学部門のショートリストに選択されてとても信じられなかった。

昨日は、何ヶ月も仕事がうまくいっていないし、人間関係も複雑になってきたし、色々があるからつくえで頬杖をついて泣いていたときに、ツイッター通知の雪崩がきた。「おめでとう!!」「わあ、スゴイ」などの良かれと思っている方々からのメッセージを読みながら体中に何も感じなかった。外面の成功と内面の失敗のギャップが大きすぎるから落とし穴じゃないかと思ってしまった。15歳から抱きしめた夢が叶えているのに、無感覚だった。

公表のショックから数分後、欲しかった嬉しさがきてくれた。美里さんとLINEでやりとりしてやっと笑った。パートナーが抱きあげて、数日間に初めて嬉しそうにこっちを見てくれた。ちょっとだけ雲間が開けて青空が見えた。

今日も頑張ろう。英語文学で日本の現代作家の居場所を作るために。