私たちは朝きた道を二列に並んで歩いていた。
百人を超えるスーツ姿の人間が、ピシッと二列に並んで進んでいく光景は傍から見れば奇妙なものに写っただろう。ディズニーランドのアトラクションを待っているようにも見えるこの奇妙な列は、駅まで延々と続いていた。
今日、新しい会社の新社会人研修があった。私も春からは新天地で汗を流すのだ。
ともあれ、募集人数の多い我が会社は、新入社員だけで百人を超える。そのため、今日のように私たち全員が一堂に会す研修などが終わると、その大人数が一斉に駅に向かう。当然、幅の狭い田舎道はそれだけでいっぱいになってしまい、近隣住民に迷惑がかかるというわけである。
そのため会社側からの通達で、帰宅の際は道を一列または二列になって進み、少なくとも対向者の通れるだけの幅をあけた状態で歩くようにと言われたのである。
そんな理由で、私はその列に並んで駅までの道をゆっくりゆっくり歩いていた。
もっともな話だ。朝会社へ来るときも、駅前は新入社員であふれていた。
だが、私は不満だった。
別に会社側の言い分が気に入らなかったわけではない。また、その進みが遅いことに腹を立てていたわけでもない。正しいと思ったからこそ私も他の百人も並んでいる。
おばちゃんが私の横の開いているスペースを自転車で滑っていった。
しかし、もっと何か方法があるのではないか?ただ何も考えないで列について歩いている自分が、まるでレールに乗っているような気がした。「言われたから」という理由でこうしている自分が、ひどくかっこ悪く思えた。
曲がり道や信号があるからだろうか、先頭も最後尾も私の位置からは見えなかった。
そのとき、私の右側の開いたスペースを私と同じ新入社員の一人が、すたすたと通り過ぎていった。
おそらく遠くから今日のためにこちらに来たのだろう、彼は中型のキャリーバッグをゴロゴロと引きずっていた。そして彼はそのまま早足で、長々と続く列の横を後ろから颯爽と追い越していった。
衝撃的だった。
百人以上が列に並ぶ中、それらを完全に無視してキャリーバックを引きずる姿は、まるで海を割ったモーゼのようだった。
私は複雑だった。
彼は荷物が多くて並べなかったのかもしれない。急ぎの用事があったのかもしれない。
しかし、どんな理由にしろその行動はアウトローにしか見えなかった。何しろこっちは百人以上でルールを守っているのだから。
だがその後姿が凛としていたのも事実だ。少なくとも彼は自分の判断で行動していた。その点だけは私とは違ったのだ。
駅につくまでの間、私は少なからず憂鬱であった。結局、来るときには十分もしなかった道のりを百人で倍の時間をかけて歩いた。
その駅で、モーゼは荷物の大きさからみんなに迷惑をかけていた。
百人を超えるスーツ姿の人間が、ピシッと二列に並んで進んでいく光景は傍から見れば奇妙なものに写っただろう。ディズニーランドのアトラクションを待っているようにも見えるこの奇妙な列は、駅まで延々と続いていた。
今日、新しい会社の新社会人研修があった。私も春からは新天地で汗を流すのだ。
ともあれ、募集人数の多い我が会社は、新入社員だけで百人を超える。そのため、今日のように私たち全員が一堂に会す研修などが終わると、その大人数が一斉に駅に向かう。当然、幅の狭い田舎道はそれだけでいっぱいになってしまい、近隣住民に迷惑がかかるというわけである。
そのため会社側からの通達で、帰宅の際は道を一列または二列になって進み、少なくとも対向者の通れるだけの幅をあけた状態で歩くようにと言われたのである。
そんな理由で、私はその列に並んで駅までの道をゆっくりゆっくり歩いていた。
もっともな話だ。朝会社へ来るときも、駅前は新入社員であふれていた。
だが、私は不満だった。
別に会社側の言い分が気に入らなかったわけではない。また、その進みが遅いことに腹を立てていたわけでもない。正しいと思ったからこそ私も他の百人も並んでいる。
おばちゃんが私の横の開いているスペースを自転車で滑っていった。
しかし、もっと何か方法があるのではないか?ただ何も考えないで列について歩いている自分が、まるでレールに乗っているような気がした。「言われたから」という理由でこうしている自分が、ひどくかっこ悪く思えた。
曲がり道や信号があるからだろうか、先頭も最後尾も私の位置からは見えなかった。
そのとき、私の右側の開いたスペースを私と同じ新入社員の一人が、すたすたと通り過ぎていった。
おそらく遠くから今日のためにこちらに来たのだろう、彼は中型のキャリーバッグをゴロゴロと引きずっていた。そして彼はそのまま早足で、長々と続く列の横を後ろから颯爽と追い越していった。
衝撃的だった。
百人以上が列に並ぶ中、それらを完全に無視してキャリーバックを引きずる姿は、まるで海を割ったモーゼのようだった。
私は複雑だった。
彼は荷物が多くて並べなかったのかもしれない。急ぎの用事があったのかもしれない。
しかし、どんな理由にしろその行動はアウトローにしか見えなかった。何しろこっちは百人以上でルールを守っているのだから。
だがその後姿が凛としていたのも事実だ。少なくとも彼は自分の判断で行動していた。その点だけは私とは違ったのだ。
駅につくまでの間、私は少なからず憂鬱であった。結局、来るときには十分もしなかった道のりを百人で倍の時間をかけて歩いた。
その駅で、モーゼは荷物の大きさからみんなに迷惑をかけていた。