にざかな酒店

彼らの修羅場

ろっさらの修羅場った話とブラッディスト本編のちょっとした後日談。
ところで、本文中の「俺がいきなり腕をもがれても出さないような叫び声」というのは、モデルはふみ姫の病院行きのときの声、です…あれは…えげつない…。
彼らの修羅場

たまたま彼らは二人だった。
エルムやマゼンダを連れてこの村に来た時、エルス達はロッドには世話になったので、たまにエルムたちはロッドの家に晩ご飯の一品の足しにでもと総菜をエルスに持っていかせたりする、そのときにロッドの嫁のサラがたまたま近所のものによばれて席を外していたというだけだった。
サラはこの村には珍しい、弱体化している龍神の巫女とはいっても神職なのでよく祭り事の相談やなんやでよばれて出て行くのである。
「しかしさー、サラはかわいいし優しいし、お前ら修羅場なんて無いだろー」
と、何も考えも無くエルスが聞いたのである。思いっきりあたりをみまわして、ロッドが答えた。
「いや、一回だけな…とんでもない修羅場を経験したぞ。言っとくがサラにこの話したっていったら、首チョンパだからな」
「え、なになになにやったのおまえ」
意外とロッドはフェミニストなので、とんでもないことをするイメージがないのと、興味本位でエルスは突っ込んで聞いた。
「あれは俺が悪いというよりは…まあ、順を追って話すから聞け。あの日、俺は結構キツい仕事からやっと帰ってきて疲れてたんだ。帰ってくるなり寝てたら、俺に逆恨みをした奴がうっかりついてきてたらしくてな」
「ええ!?」
「俺が寝てる間にサラを襲おうとしてたんだ。俺が寝てたら、隣の部屋でサラの叫び声がだな…」
「ちょっとシャレにならない展開じゃないか。まさか、お前嫁のピンチにぐーぐーねてたとか」
予想外の話に、さすがのエルスも青くなる。
「それが、あいつが声がおおげさなんだ。あれは俺がいきなり腕をもがれても出さないような悲鳴だったぞ」
「いやいやいやいやそれサラめっちゃピンチじゃんか」
「………と、思うだろう。想像の中では最低でものしかかられて首くらい締められてるはずだ、展開的に。それが、良かったのがたまたまあいつのいた部屋が目立つ部屋だから窓ガラスを強化してたんだ。で、敵は入るのにてまどってて窓にべったりはりついていた。三人ほど。そのときの声だった…らしい」
「いやいやいやいや、それ、起きて助けにいったんだろう?」
「そうだ。俺は声が声だからそうとうスプラッタな展開になっていると思っていた。で、何も考えずに三人くらい窓割って入ってきてサラを追いかけているのを殺し、そこでサラの一応の無事を確認すると、うっかりそのままバタンだ。」
さすがロッドだな、と思いつつ、エルスは相づちをうった。
こいつ本当に嫁の危機以外の優先順位の一番が眠気だもんなあ…。
「………うん………まあ、眠かったんだな。」
「疲れてたからな…。で、起きるとサラが俺の事クビリ殺しそうな勢いで怒ってるときた。」
「助けてもらったのに?」
「そう、だからちょっとくらい大変なめにあったのかと思って、二人で死体片付けながら、「お前の被害は?」ってきいたら「すぐ飛んできてくれたから、胸ももまれてないよ☆」とかいう。」
エルスは絶句した。いやー、いくらなんでもそれはー。だって「俺が腕もがれても出さないようなこえ」なんだろー?
「マジだ。大げさな悲鳴出してるからこっちは無理してでも助けたのになんだその態度は、少しくらい大変な目にあってないと正当防衛にもならんだろと俺は怒った」
エルスは少し神妙な顔をしてが、無理せず吹き出した。
「………あのな、………っていうか、真面目すぎだろー、そこは逆に盛り上がるとこだよー「お前が無事でよかった…」「ありがとうダーリン」ってとこじゃないか」
「俺の仕事も仕事だから、嫁や妹が襲われる事もあることはあってはほしくなかったものの、予想できることではあったんだが…まああれは心臓に悪い…」
「で、なんでサラ怒ってたんだ?」
「死体を片付ける前に倒れたからだろう…ったく」
「あー、女の子はそういうとこあるなあ…まあでも良かったじゃないか、おおげさだから助かったんだよ、かわいらしくきゃーとか言ってたらお前起きてないって」
「まったく、ちゃんと片付けるとこまで起きてたら亭主関白をキープできてたんだが。まあ、あの時はもめたが、今はな。龍神も戻ってるし敵もだいぶグレイが掃除したし大丈夫だろう」
「お前そろそろ足洗ったら?」
「言われなくても、シュナイダーの一件が終わったら仕事はほとんどなくなってるさ。足洗ってるみたいなもんだ。だいたい仕事持ってきてたのもクラウフの上司だったしな。研究所もなくなってあいつがいなければ仕事わざわざもってこん」
「ならいいけど」
「ただな、サラが巫女で稼ぐと言っても、ヒモってわけにもいかんだろ」
「あー…そだね…でもロッドにできそうな事って言ったら…ん、この家、自力でたてたんじゃ」
確かラルドに許可とって木材運ぶとこからやったとか言ってた記憶がある。
「俺は割とその辺は得意だ」
「なんだふつーに大工もしくは家具屋でいいじゃんか。難しく考えるなよ」
「………大工は、早起きだろ………」
ロッドはうめくようにいった。
「だ、大丈夫だって、いくらお前でも必要があれば起きられるよ。だいたい、今まで起きられなかったの、夜仕事してたからだろ?」
「まあ…家具屋がいけるなら家具屋でいいが」
フォローするのめんどくさいなあ。
「ならそっちでいいだろーお前そういうとこ直さないとちょっと駄目だぞ。この村じゃ一般人みたいに皆扱ってくれてるんだから」
「まあな…それより、お前ももらった魔王目覚めさせるなよ。せっかくうまくやってるんだから、目覚めたら敵だぞ。」
「わーってるって。まあ、お互い難儀なもんしょったもんだな」
「飲み会でノリで魔王もらった奴がいうなよ…」
急にドアを開けてエルムが入ってきた。
「エルス、おそいから、迎えにきたよ。何しゃべってんの」
「うわ、エルム。どっから聞いてたの」
「どっからって?今来たとこよ。早く帰ってご飯にするよ。今日はリンさんとフルールさんのところで色々教わってたんだからおなかすいちゃった。野草ごはんって結構おいしそうね」
「なんだ、そんなん教わってたのか。俺も結構くわしいのに」
話していると、ロッドの視線がどうもつきささってくる。
「エルムも迎えにくるんだったら、最初から一緒にくれば良かったんじゃないか?おかげでいらん話をしてしまったぞ」
「な、何話してたのよ…」
「お前のことではないが」
「だったらわざわざ言うなっつの」
べー、だ。という感じでエルムは言い放った。
どうも、サラは友達だし気に入っているが、ロッドはもとからこんな感じらしい。
そんな感じなのにうかつに過去を知ってるので余計ややこしいのだろう。
「お前も、サラにうかつなこというなよ」
と、ロッドも釘をさしにきた。
「私だってそんな事言うタイプじゃないわよ。」
「結構仲良しだよな、お前ら」
というと、ロッドとエルムは声をそろえて「お前(あんた)は空気読めないの!?」といった。
なんだかんだいって、平和が一番だなあ。とエルスは今日の優しい夕暮れにそんなことを思ったのだった。
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