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至樹

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ふくろうが語ったこと

2014-09-13 00:21:00 | ノンジャンル
 数年前に作った詩です。読み返してみて感心したので、ここに再録しておきます。


   ふくろうが語ったこと


 人類がその存在の終わりを迎えたとしても、
 それは地球の終わりではないし、
 まして「世の終わり」なんてものではない。…

 このようにふくろう先生が語り始めた。
 暗い森の夕暮れだ。

 …それはただ、一つの生物種が地球から消滅するというにすぎない。
 地球の誕生以来、多くの生物種が消滅してきたように。
 そして今もなお、人類の活動のために多くの生物種が消えていっているのに、
 なぜ人類という生物種の消滅だけが、特に問題になるのだ?

 人類の消滅後も生物は存在するだろう。
 さまざまに変異しながら、
 現在の人類が恐怖をもって想像するような世界に、
 生物は存在し続けるだろう。

 また人類の消滅後も、地球は存在し続ける。
 永遠にとは言わないが、
 太陽の老化と死までの数十億年。
 しかしそれは人類が生存した期間に比べれば、
 永遠に近いだろう。

 そもそも人類は、…

 と、ふくろうは語り続ける。
 彼は森の賢者であって、
 「夕暮れに飛び立つ」とされる、あのミネルヴァのふくろうの遠い親類なのだそうだ。

 …そもそも人類は、自分たちの知恵と創造力を誇ってきた。
 しかしそれは正しいことだったろうか。
 彼らは自然界を対象化する「知恵」によって、
 自然界の一部を利用して道具を作り出し、
 自然界に存在しなかった新しいものを創造してきた。
 このようにして彼らは自分たちの都合の良いように環境を作り変えてきた。
 そして自然界の上部に位置する(とされる)人間の社会を作り出し、
 そこに住まうようになった。

 人間は今や、自然界から切り離された水晶宮のような「人間社会」に住まっている。

 しかしここまで人間の力が大きくなると、
 その土台に位置する自然界はそれを持ちこたえられなくなっている。
 自然界の定常状態への回復力は損なわれつつある。
 ある一定限度を超えれば、現今の自然界は変化せざるを得ないだろう。
 それはおそらく人間の生存を許さないような変化だ。

 人間の創造性は肥大化し、
 自然とのバランスを壊して自滅するようなものにまで、
 いわば定向進化してきた。
 人類は種の限界に近づいている。

 しかしそれは、
 地球および人類以外の生物にとっては、
 喜ばしいことかもしれない。

 …そこでわたしはふくろうに問いかけた。

 しかしわたしたちは人類の一部として、その運命に関心を持たざるを得ません。
 わたしたちは滅びたくはありません。
 今、わたしたちは生き延びるために何をすべきでしょうか。
 何か今でもできることがあるはずです。教えてください。

 ふくろうは首を横に振った。
 (もっともふくろうは元々首を縦には振れないのだが)

 おそらくはもう手遅れだろう。

 しかしきみは喜ぶべきではないかな。
 一つの時代の終わりに立ち会い、
 自分自身の存在の終わりに直面することができることを。
 その「向こう」を垣間見る機会を与えられていることを
 それこそが「人間の栄光」というものだよ。

 …さあ、わたしももう行こう。夜のかなた、わたしのフィールドへ。

 こう言ってふくろうは夜の森の中へと飛び去った。


秋となり

2014-09-04 00:11:00 | ノンジャンル
秋となり、最近は夜になると、絶え間なく虫の声が聞こえている。
温暖化による気候不順にもかかわらず、虫は秋になった今、季節を忘れず哀切の鳴き声で鳴き交わしている。
彼らは風流のために鳴くのか。
そうではなく、気候不順にもかかわらず、彼らは必死で鳴いているのだ。
生きるものはけなげだ。

生きるものはけなげだ。
ビルの谷間にも鳩は群れを作って生きている。
雨の日などは、駅舎のスレート葺きの屋根に、体を寄せ合って、ひっそりと身を潜めている。
彼らを守るものはほとんど何もない。
彼らは金もなく、食べるものの保証も何もなく、その日その日を裸で生きている。
彼らは生きる知恵も何もなく、全く無邪気に、それでも生きている。
知恵のないこの生き物たちは、それでも生きている。
雨の中、彼らは身を寄せ合って、震えながらじっとしている。
彼らの姿を見ていると、涙がこぼれる。
人々は、彼らの姿を見慣れた風景として、それぞれのことにかまけながら、
何心なく雨の通りを歩きすぎていく。

人間の生きる知恵など何ほどのことがあろう。
わたしたちもまた、運命の風雨に出会うとき、あの鳩たち以上の何ができるだろう。
生きるものの姿を、虫や鳩のけなげさと哀れさを見て、
涙を流す。