俺のカノジョ

「おー、ジョウよ、久しぶりじゃなあ。どうだい、調子は?」
「おかげさんで、ぼちぼちやってるよ」
久々に故郷アラミスに戻ってオフを満喫しているジョウ。
今夜はアルフィンを伴って、港の倉庫街にあるバーに繰り出していた。
リッキーとタロスは別行動だ。レイトショーに出かけると言っていた。
カウンターのスツールに座ってただ飲んでいるだけでも、ジョウとアルフィンはかなり人目を惹く。そのせいかジョウのなじみにちょくちよく声を掛けられた。
「相変わらず派手に活躍してるようじゃの。怪我のないように気をつけてな」
「サンキュー」
かつては船乗りだったと思われる格好をしたその年配の男は、アルフィンに目を移して、
「それにしてもお前、えらい別嬪さんを連れてるな。なんだ？　こっちはあれか?　お前さんのコレか?」
下品に小指を突き出して見せる。
ジョウはグラスをカウンターに置きながら、かぶりを振る。
「いや。こっちはうちのクルーだよ。俺のチームの航宙士のアルフィンだ」
「ほー、チームの。そりゃまた驚きだわい」
アルフィンはその男と握手を交わしながら、内心では「なによ」とくさった。
ジョウったら、こんな時ぐらい酔った勢いで「そうだよ」って言ったらどう？
四角四面にクルーだなんて言い張らなくったってさ。
ひとしきり会話を交わしてから、男は二人の前から去った。気まずいムードがジョウとアルフィンの間にわだかまる。
ジョウがちびりとアルコールを呷る。
「なんだよ」
「別に、何も」
ふーんだ。口を尖らせてアルフィンが自分のグラスに手を伸ばしたとき、
「よう、ずいぶんご無沙汰だったなあ、ジョウ。元気だったか」
場違いなほど明るい声が背後から掛けられた。
それは、さっき声をかけてきた男とは比べ物にならないほど若い男だった。アルフィンとは初対面だがたぶん、自分たちと同年代。紫色のクラッシュジャケットを着ている。現役だろう。
「お前か、久しぶり」
ジョウが眉を上げてハイタッチを交わす。
「いつこっちへ？　帰ってたんなら連絡ぐらい寄越せよな、水くさい」
ショウと会話しながら彼がちらちらとアルフィンを見ているのが分かった。
明らかに彼女に興味を持った様子だ。
男は気安くアルフィンに微笑みかけ、「はじめまして」と右手を差し伸べた。
「あ、こちらこそ」
アルフィンが手を握り返す。男はしっかりと握った手を上下に振った。
「いや、なんつうか目の保養ってくらいきれいですねえ、お会いできて光栄だな」
「え、あ、はあ」
どうも。そう答えるしかできない。
アルフィンの手を握ったまま、男は、
「もしかしてあなたがあれですか?　こいつの、ジョウんとこに入ったっていう噂のナヴィゲータ..…」
「カノジョだよ」
ジョウが最後まで言わせず言葉をかぶせる。
え？
見ると、ジョウが仏頂面でグラスを傾けている。じろりと男を睨んだ。
「俺の彼女だ。って言ったんだ。聞こえなかったか?」
「……」
アルフィンは呆然としたまま、男だけが「そ、そうか」と呑まれたように頬を引き攣らせた。
ジョウは視線をある部分に移した。そして、冷ややかな声で言った。
「いつまで手、撮ってるんだ」
「あ、そっか。スマン」
慌てて男がアルフィンの手を離す。おずおずと背後に隠した。
ごし、とズボンの尻の辺りで手を拭う素振りを見せてから、
「あっちで俺の仲間と呑んでるんだ。よかったら後で声をかけてくれ、他にも知った顔、沢山来てるからよ」
そう言い残して奥のブースへ消えた。
「......」
男が去った方を見ていたアルフィンが、ジョウに視線を戻した。
物言いたげな目で横顔を窺う。
「....なんだよ」
さっきと同じ口調でジョウが訊く。
でも、さっきと一つだけ違うところが、耳たぶが真っ赤だ。
いくら何事もなかったような顔をしていても、伝わってしまう。彼の照れが、想いが。
アルフィンは、打って変わってご機嫌な様子で「別に、何も」と返した。
じろじろといつまでも自分から目線を離さないアルフィンに業を煮やして、ジョウが言った。
「だから、何だよ！」
「何でもなあい。ただね。ジョウ、……大好き」
語尾にハートマークをくっ付けてアルフィンは言い、それからジョウの頬に口づけた。

fin

こういう手合いが多そうですよね、２人で飲んでると。「夏空とヒマワリ」の逆、ということで……
⇒pixiv安達　薫