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救急の心

MESHヘリ 阿部ドクターのつづる、つれづれコラム

背水の陣

2008-06-24 22:30:08 | Weblog
このコラムを、もともと人に話すということが苦手な自分がどうして始めたのか。

 今、この時期に救急ヘリの実際と自分たちの思いを伝えることが大切だと思ったこと、自分の失敗談を教訓として特に医療従事者に伝えたいと思ったこと、日々遭遇する感動をいろいろな人と分かち合い、ちょっとした普段の生活で感じたことも話す機会があればいいな、と思ったこと、など、まあいろいろな思いがあってこのブログを始めた。

いろいろな意見を聞き、自分の学びのきっかけにもできたらと思う。

今回、MESH救急ヘリという、国や県の方針ではなく民間の現場から立ちあがったこの事業が、北部医師会の費用のバックアップを断ち切られ、いわば自分たちを支えてくれたものを失った中で、決して止めてはいけないという使命感がある。

国や県の医療問題に携わる一部の人たちにとっては、我々のやっていることは無意味にうつるかもしれない。何故なら日本のドクターヘリ事業は救命救急センターに設置すると国が決めているのだから。どう我々があがいてみようとも、ドクターヘリは無理だと言ってしまえばそれまでのことである。しかし、自分たちの歩んできたこの道、患者のための医療をやろうという信念、患者を救うためには1分1秒がどれだけ大事かということをわが身をもって体験してきた事実は、決して無駄にはできない。自己満足では終わらせたくない。人のために尽くすという、この想いと夢が実現し、今、まさにそれが中断されようとしている時に、そこに全身全霊打ち込まずに、これからどう生きていけというのか。

現在、石垣島で開業をされている宮良長和氏の著書「立腹のススメ」に、次のような一文が載っている。


「背水の陣 どんな仕事でも捨て身にならなければ良心的に自分の満足のゆくようには出来ないし、又、社会の役には立てない。医者でもいざとなれば止める覚悟があって初めて良心的な診療が出来る」
 
 この事業を継続するためにも、救急での仕事に真剣にならざるを得ない。
 
 僕は、救急は本当に難しい、と思う。
 
 何年やってきても、もう大丈夫ということはない。何の仕事もそうだと思うけど…。
 
 いつか、そのことにも触れてみたい。

今日は、3件の出動でした。フライトナースの知名さん、初出動おめでとう。ドキドキしていたけど、大丈夫でしたよ。明日も頑張ろう。(記念に写真を撮りました)

                            2008年6月22日(日)

むち打ち症(頚椎捻挫、外傷性頸部症候群)と心身症

2008-06-24 22:25:55 | Weblog
 当直の時、夜の10時過ぎに頸部の痛みと手のしびれで受診した患者がいた。話を聞くと、1ヶ月も前の交通事故らしい。1ヶ月も前の事故で、しかもこんな遅い時間に救急外来を受診すると、たいていの場合診察する側も気が滅入って、患者側の非常識に腹を立てるものである。しかし、診察室に入ってくる患者を診ると明らかに不安げな様子である。話を聞くと、既にレントゲンを2回も撮ってもらい、それでも症状が改善しないので、思い切って受診されたらしい。


 交通外傷は物理的外力によって引きおこされる身体の損傷であるが、同時に交通事故の経験は身体以外の症状も発現させる。特に、もともとストレスを受けやすい人はその傾向があり、交通事故そのものによる心的外傷、加害者の不誠実な態度、冷淡な保険担当者の対応、医療不信などの外因性ストレッサーが加わる。

 
 特に自我の未熟な被害者では大きな怒りとなってそれが現れる。

 今回の場合は、身体所見をとった後、外傷性頸部症候群と思われた。いわゆるむち打ち症の後遺症である。レントゲンを既に2回撮ったと言われていたので、ご主人も診察室に入っていただき、話を聞いた。MRIの予約を後日取ることにし、対症的薬剤を投与した。


 結局は検査を何もせず、ご本人たちの訴えを聞いただけなのだが、説明の後半は、患者は涙を流され、今まで、いくら訴えても骨は異常がないと言われ流されてきた。こんなに話を聞いてくれたのは初めてだ、と言われた。


 
 治療法は確立されていないが、文献では、Baliant式医療面接法が紹介されている。


 ①事故の状況図を共同で辿り状況後との心理状態を引き出し、傾聴、受容、共感、支持する。



 ②事故後の社会環境(加害者、警察、保険会社、医療者など)に対する、患者の立場からしかわからない心理状態を事故後から現在まで引き出し、傾聴、受容、共感、支持する。

 ③治療と結びつかない、不安をあおるような病態、画像説明は禁忌と心得る。検査画像を“大丈夫”と保証するためのアイテムにすることが、治療戦略上有益である。

 
 ポイントとしては、良好な医師-患者関係が治療を成功させる大前提である。処方の基本としては、対症的薬剤(消炎鎮痛剤、抗不安薬、睡眠導入剤)、ノイロトロピン、抗うつ薬を投与することがある。漢方薬も有効であるので、試してみるのもいいかもしれない。



                            2008年6月21日(土)

いろいろな色

2008-06-24 22:24:35 | Weblog
仕事が遅く終わり、屋良朝春先生の絵画教室に向かう。気持ちを切り替えて教室のドアを開ける。


前回、次は絵の具を持ってくるようにと言われていたので、そのことを先生に告げた。


「そうか、そうか」、屋良先生はニコニコと、床に座り込んで絵の具箱を開けた。


18色の絵の具を暖色系、寒色系に分け、パレットにそれぞれの位置を決めてくれた。


この色とこの色を組み合わせたらこの色になる。この色とこの色の間にはいくつかの色があるからここは空けておこう。チューブから新しい色をゆっくりとパレットに置いていく。


パーマネントイエローレモン、ローズマダー、ミネラルバイオレット、コンポーズブルー、プルシャンブルーなどの素敵な名前の鮮やかな色がパレットの白い色に映える。


何故か、少し胸がどきどき、わくわくしてきた。


いい色を描こうと勢い込んで色を塗り始めた。


途中で絵を覗きにきた先生が、「ウーン、油絵みたいになってしまったねえ。水彩はもっと水を使った方がいい。」…「ウン、でも今日はこれでいいよ。今日はこのやり方で続けてごらん。来週に、また、改めてやってみよう」


あっという間に時間が過ぎる。キャサリンも(彼女は理学博士。沖縄の海に珊瑚を戻す運動を展開している自然愛好者)、先生から同じ指摘を受けていた。同じ仲間だねと言って笑いあった。


仕事を離れて、こんな時間が、心の緊張感を和らげてくれる。


今、目の前にいろいろな問題が立ちはだかる。その中で、いろいろな色のすばらしい意見も聞く。また、いろいろなネガティブな暗い色の意見も聞く。その色の持ち味を生かしていい色を描くのも、色を組み合わせて新しい素敵な色を作るのも、いい色を暗い色で浮き立たせるのも、すべて自分次第だ。


たった一度の人生。多くの色で感動させるものを創っていきたい。

                             2008年6月19日(木)



梅雨明け

2008-06-24 22:21:14 | Weblog
今、多くの方の支援のメール、FAX、電話が、この救急ヘリ通信センターのNPO法人事務局に届いている。暖かい励ましの声と、こういう方法がいいのではという暖かいご指摘もいただいている。そのような声を聞きながら、この法人が、みんなの手で生かされているのだなあと感じる。

救急ヘリ活動の現在の状況は、昨日は伊江島から骨盤骨折の搬送。当院の整形外科、麻酔科、放射線科の医師がERでスタンバイしたが、緊急の手術、血管造影は必要なくICU入院となった。

今日は、国頭村辺土名からの現場出動の救急ヘリ要請。午前10時ごろ、住民検診中の意識障害。現場に着くと、意識レベル3桁、左共同偏視、右上下肢の麻痺を認める。県立北部病院かかりつけとの情報があるため、県北に搬送した。

暑さも厳しくなってきている。そろそろ、出動のときも自分用と患者用にペットボトル持参が必要になってきた。
                              平成20年6月18日


救急ヘリの存続

2008-06-24 22:20:07 | Weblog
MESH救急ヘリの運航休止が近づいている。NPO法人を立ち上げ、基金を募り、運航の継続をすすめている。その原動力となっているのは、地域の住民の方々の声・思いである。

沖縄県でドクターヘリ導入が決まり、浦添総合病院に1機配属が決まる。そのことに関しては、県がドクターヘリ導入に踏み切ったことを大きく評価したいと思う。

何故、われわれが、北部地域に民間の救急ヘリを運航することにこだわり、その存続を望んでいるのか。県から見れば、沖縄に1機配属することで、離島を含め、救急搬送のシステムが構築されていると思われるだろう。しかし、長年救急に携わり、ドクターカーを含め現場出動をしてきた目から見れば、それは一部の面を見ているだけということが分かる。

交通事故など、外傷患者が、現場では声を出して意識もあった傷病者が、病院に搬送された時にはすでに心肺停止になっていたことを、これまで多く経験してきた。いかに、早く傷病者と接触し、早く初療を開始することの重要性を痛感してきた。



この北部地域は沖縄県本島の約半分の面積を占め、救急隊の現場への出動に長時間を要している。この時間との勝負が命を救うという、命題のもとわれわれは1年救急ヘリ事業に携わってきた。

われわれが北部地区で救急ヘリ存続を願う気持ちはそこから発している。単にヘリを飛ばしたいだけのヘリ愛好者ではない。


                           平成20年6月16日

現場に出動して

2008-06-24 22:18:50 | Weblog
ここ沖縄では、過酷な現場への出動が必須となってくる。救急の患者が倒れている場所が救出に時間がかかる場合、いくら医師だから無理だといっても、そんな甘えは通用しない。病院の中だけの仕事をしていたら思いもつかないことだろう。そこまでしなくてもいいのではないか。そこまでして病院に運ばれても、助からない人はしょうがない。というのも一つの意見である。

しかし、普段、救急医として、人の命を助ける仕事に従事している身でありながら、最悪の状態の場合に、踏み込んで行けないのでは、この仕事をやっている使命感から離れてしまう。

現場救出に向かう救助隊、消防、自衛隊は、患者の救出の際、初療を早く開始して助かる人がいるのであれば、我々の参加を望んでいる。


それに応えるために、我々が動き出さないわけにはいかない。

                            平成20年2月6日


救急体制

2008-06-24 22:16:34 | Weblog
今日は午後から天候が崩れ、雲が山稜を不鮮明にし、ヘリは有視界飛行のため運航ができない状態となった。その間は、ドクターカー出動となった。


沖縄には、我々の運航しているのを含め、民間での救急ヘリが2機ある。一つは主に、離島からの搬送を主に行なっているが、いろいろな特徴があってもいいと思う。それぞれの地域性を生かして、本当に住民にとって必要で重要な仕事であればそれでいい。沖縄で、2機体制でそれぞれの持ち味を出して、協力し合えることができるといいと思っている。


北部のMESHは現場出動が多いが、もちろん離島搬送も行なっている。要請があれば、どこまでも飛んでいく。特に制限はない。県外であってもかまわない。ただ機体がAS355でやや小柄でもあり、安全を考え、70km圏内(北側では与論島まで)までが飛行範囲という設定だ。


北部にはもう一つ医療機関がある。県立北部病院である。北部の外傷の中核を担ってきた病院である。私も沖縄に去年の4月に赴任したばかりでこれまでの経緯はよくわからないが、もっと交流を行い、北部で医療を完結できる体制を地域住民のために構築していく必要があると思う。


お互いの救急の現状を常に連絡しあい、患者がスムーズに流れるような体制を作る必要がある。


                           2008年1月30日(水)

今日もヘリ待機

2008-06-24 22:14:57 | Weblog
今日もヘリ当番で病院に待機している。天候は曇りだけど、運航上は問題なさそうだ。


昨年の6月に運航が開始して以来、122件の出動。現場出動が8割を占めているが、離島も抱えているので病院間搬送も一つの役割だ。


この事業も救急隊、住民の方々に徐々に浸透しつつあるようだけど、ヘリに限らず現場に我々医療従事者が行くということが一番大切だ。確かに時間との勝負でヘリが有効な搬送手段ではあるのだが、何も遠い地域だけが対象になるのではない。そのあたりの啓蒙が必要だと思う。


ヘリが飛べない時、たとえば天候が悪い時はドクターカーという病院の救急に乗り込んで出動しているのだが、昔(10年ほど前)、自分は、鹿児島で現場出動をしていた。最初は自分のバイクに乗って現場に向かっていた。夜ももちろん出動していた。ある日、夜中、高速道路で車の衝突事故があり現場出動の要請を受けた。家からバイクで飛び出したのだが、やはり赤ランプは付けていないので信号で止まっていたところ、信号が青になって出ようとした時、目の前を信号無視の車が猛スピードで横切り危うく轢かれそうになった事があった。「あっ、これは自分がやばいな」とヒヤッとしたのを覚えている。それ以後、病院で、赤色灯を搭載した乗用車を購入していただき、トランクにいつも救急バッグを積んで、使用することになった。それからは、要請があると、自宅から赤色灯を回して出動し、病院からは救急車が同時に出動して、現場で救急隊員らと一緒に処置にあたり、自分は救急隊の車両に同乗して一緒に病院に向かうというかたちが出来上がった。


その当時のことを考えると、そういう出動が可能な背景には、救急部の看護師、救急コーデイネーターがいたからできたのだと思う。自分も若かったから、無茶もできたんだろうけど、あの当時は、患者を助けるにはどうすればいいのか、みんなで考え一つになって動いていた気がする。あの頃の仲間とは今でも心が通じている


沖縄に来て、長年の夢をかなえ、救急ヘリで出動をしているのだが、近辺の地域では、夜間を含め、ドクターカーの出動が必要だと思っている。


これからの課題は、昼間だけではなく、夜間も現場出動の体制を作っていくことだと考えている。


この話題になると、話がどんどん長くなってしまう。


今日もヘリ待機…

                           2008年1月26日(土

武士道精神

2008-06-24 22:14:00 | Weblog
一つ一つの命は儚いものだから、慈しみ大切にしたい、と思う心。

今、処置中で手が離せないから、と断ることは簡単。

だけど、そのせいで、1人の患者が路頭に迷うのであれば、心が痛まないのか。

過疎地で十分な医療を受けることのできない人がいる。しかし、この医療設備の整った日本の中で、受入れを断られて亡くなる人がいる。何が世界レベルの医療なのか。日本の医療はどうなっているのか。

勤務医は疲弊している、医療崩壊だ、と叫ばれている。

だが、疲弊していない勤務医もいる。