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第10回 豊かに老いるために〔上〕

2006年02月04日 | 「生老病死と人生」を語る

2006.2.4SP
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  「生老病死と人生」を語る
        第10回 豊かに老いるために〔上〕
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◆◆◆ 大目的に生きる人は若く 前進の人は常に生き生き

【池田名誉会長】 暦(こよみ)の上では「立春(りっしゅん)」ですが、今年は、まだまだ寒いですね。
 わが尊き「多宝(たほう)会」「宝寿(ほうじゅ)会」「錦宝(きんぽう)会」(高齢者の集い)の皆さま方は、風邪や交通事故に十分に注意していただきたい。私は朝な夕な真剣に御祈念しています。
 長年にわたって、友のため、法のため、地域のため、社会のために、奮闘(ふんとう)してこられた最も偉大な方々です。学会の宝の中の宝です。
 どうか、体調がすぐれない時や天候の悪い時などは、決して無理をされず、聡明(そうめい)に悠々(ゆうゆう)と活動してください。
【成見】 功労ある多宝会の方々の健康・長寿を願って、今回から「老い」を取り上げたいと思います。
 最近、「アンチ・エージング(抗加齢=こうかれい)」や「サクセスフル・エコジング(健全な加齢)」といった言葉が聞かれるようになりました。分かりやすく言えば、年を重ねても、心身共に健康で、生きがいをもって、積極的に人生を総仕上げしていくことです。
【名誉会長】 最重要のテーマです。確かに、日本は世界一の長寿国になりました。しかし、「寿命」が延びたからといって、必ずしも「幸福」になったとはいえない。
 古代ローマの哲学者セネカは「老年(ろうねん)は喜びにみちた年齢です」(中野孝次訳『ローマの哲人セネカの言葉』岩波書店)と、つづっています。この言葉が現実のものとなるように、「老い」を、いかに豊かに生きるか。いかに充実させるか──これは高齢社会の根本の課題です。ますます切実になってきました。
【成見】 そこで今回から、国立長寿医療センター研究所に勤務されている道川(みちかわ)さんと、「白樺会」(しらかばかい=看護者の集い)総主事の稲光(いなみつ)さんにも加わっていただき、有意義な助言をお願いしたいと思います。
【稲光・道川】 よろしく、お願いします。
【名誉会長】 こちらこそ。道川さんは、「長寿医療(いりょう)」の中でも、特に、どのような研究をされているんですか。
【道川】 高齢者認知症《痴呆症(ちほうしょう)》の代表的な病気である「アルツハイマー病」の原因や発症の仕組み、また安全で有効な予防法・治療法の開発を目指した研究をしています。
【名誉会長】 まさに、長寿社会の焦点の研究です。稲光さんは、看護の専門家として東海大学医療技術短大で教授を務めてこられましたね。
【稲光】 はい。慶應大学病院で看護師長を務めている時に、短大の開設準備に招聘(しょうへい)されました。3年前、退職し、現在は創価大学通信教育部で教壇に立たせていただいております。
【名誉会長】 稲光さん自身も、看護師という激務のなか、学び抜かれ、教員養成課程を見事に修了されましたね。その貴重な経験を、ぜひ、働きながら学ぶ学生たちに伝えて差し上げてください。
【稲光】 皆、素晴らしい学生の方々です。全力を尽くします。

◆活性酸素が老化の原因
【名誉会長】 早速ですが、いわゆる「老化」の原因は何でしょう。
【道川】 老化を進めるタイマー(一定の時間がたつと、自動的にスイッチが入る装置)のような遺伝子があって老化が起こるとするプログラム(予定)説があります。もう一つ、加齢に伴(ともな)い、活性酸素などによって遺伝子やタンパク質の異常が蓄積(ちくせき)し、さまざまな老化現象が現れるとする非プログラム説もあります。一般的に後者が有力ですが、老化の仕組みについては、まだよく解明されておりません。
【名誉会長】 その「活性酸素」と普通の酸素とは、どう違うのですか。
【成見】 摂取した食べ物の栄養素を細胞内で分解してエネルギーを得る時に、酸素を必要としますが、その際、呼吸で得た酸素の約2%程度が活性酸素となります。紫外線や放射線によっても体内に発生します。
 活性酸素は、静電気を帯(お)びてピリピリしているポールのようなもので、触れた物質は化学反応を起こし、変質したりします。
【道川】 ですから、細胞膜(まく)の脂質(ししつ)や、タンパク質、遺伝子が傷つけられ、細胞が正常に働かなくなり、がんや老化を引き起こすのではないか、と考えられています。
 もちろん、体内には、やむを得ず発生する活性酸素を無毒化する機能も備わっています。
 活性酸素には、体内のウイルスや細菌を殺す能力もあり、解毒(げどく)作用に役立ちます。
【名誉会長】 なるほど。では、「老化」はいつごうから始まるのでしょう。
【成見】 一般に思春期が「成長」の終わりで、25歳前後からは徐々に「老化」が進んでいきます。
【名誉会長】 25歳!それはまた、ずいぶん早い気がしますね(笑い)。
【稲光】 もちろん、老化にも個人差があります。
【名誉会長】 仏典には、「人の命というものは、一歩一歩、死に近づいていくものである」と説かれています。だからこそ、青春も、人生も、一日一日を丁寧に、悔いなく生き切っていく以外にありません。

◆家の中での転倒(てんとう)に注意
【名誉会長】 年を取ると、「このごろ字が見えにくい」「耳が遠くなってきた」といった変化がありますが、ほかにも、これがきたら“老化が始まった”という明確な指標(しひょう)はありますか。
【道川】 老化の始まりを最初に感じるのは、やはり、「足が上がりにくい」「重いものが持てなくなった」など運動機能の衰えや、体力の低下、疲れの回復が遅いなどではないでしょうか。
【成見】 「またげる」と思った柵(さく)なのに、「またげなかった」など、人は皆、自分の身体感覚をもっていて、それに見合ったことができない時に老いを感じるといわれます。
【名誉会長】 視力や聴力以外の感覚も衰えますか。
【成見】 はい。味覚は、塩味の濃いものが好きになり、唾液も出にくくなります。
【稲光】 意外なのが、嗅覚の老化です。そのため、ガス漏れに気付かず、事故の原因になることもあります。高齢者の一人暮らしには、できるだけガス漏れ警報器を設置してほしいですね。
【名誉会長】 大事な点です。それから、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)も、老化の兆候(ちょうこう)ではないでしょうか。
【成見】 そうですね。若い時に比べて骨がもろくなり、支える筋力も弱くなりますので、骨折しやすくなります。骨折が原因で寝たきりになるケースも多くあります。
【名誉会長】 高齢者の場合、交通事故よりも家の中の転倒などで亡くなる方が多いと伺(うかが)ったことがあります。これは、重々(じゅうじゅう)、注意が必要です。
【稲光】 そうなんです。1、2㌢のカーペットの段差でも、つまずいて転倒しますから、注意が必要です。日ごうから、室内の整理整頓を心掛けてください。
 また、家の造りや部屋の模様を急に変えないことです。年を取ると、環境の変化に順応(じゅんのう)するのに時間がかかりますから、事故のもとになります。
 「高い所に物を置かない」「水はこぼしたら、すぐふく」ことも大切です。

◆「明日でもいいかは老いの始まり」
【名誉会長】 なるほど。小事(しょうじ)が大事(だいじ)ですね。
【稲光】 整理整頓といえば、先生とも親交のあった女優の高峰秀子さんが、「『ああ、そうだ、あれを片づけなくちゃ!……でも、明日でもいいか』と思ったとたんに老いがはじまる」(『にんげん住所録』文藝春秋)と、つづられていました(笑い)。
【名誉会長】 まったく、その通りですね。高峰さんとは、夫で脚本家の松山善三(ぜんぞう)さんとともに、親しくさせていただきました。
 松山さんが、世界に広がる創価学会の民衆運動を「人間山脈」と賞讃(しょうさん)してくださったことは忘れられません。
 そのほかに、老化の目安はありますか。
【道川】 外見上の変化としては、白髪(はくはつ)の増加、髪の毛の量の減少、皮膚のしわの増加などです。
【成見】 老化とは、「乾燥」と「硬化」だと指摘する医学者もいます。
【名誉会長】 柔軟に躍動する若さを、よく「みずみずしい」とか「しなやか」と表現します。年齢を重ねるにしたがって、人間の体は乾いて、硬くなっていくということですか。
【道川】 おっしゃる通りです。
 生まれた時には、体重の80%前後が水分です。それが、成人では65~70%に減り、さらに老人になると、ほぼ生まれた時の3分の2になるといわれています。水分が失われると、組織が「乾燥」します。
 また、コラーゲンの変性や老廃物の蓄積などによって組織の弾力(だんりょく)も失われるのです。
【稲光】 そのため、肌に張りがなくなり、次第に「しわ」が増えてきます。また、体に柔軟性がなくなり、硬くなります。どちらも、顕著(けんちょ)な「老化」の症状です。


◆◆ 小まめに〔水分の補給を〕〔適度な運動を〕

◆青年時代は鍛え 中年以降は維持
【名誉会長】 年を取ると、のどの渇(かわ)きにも鈍感になりますね。
【道川】 その通りです。
 したがって、頻繁(ひんぱん)に水分補給することが大切です。
 ただし、一度にたくさん取るのではなく、コップ一杯くらいの量を小まめに取るようにしたほうがいいでしょう。
【稲光】 周囲の人が気を配って水分補給を促してあげてください。
【成見】 お年寄りは、腎臓の機能が低下し、老廃物を排出するのに、若い時より多くの水分が必要になります。
 夜間のお手洗いを気にして、夕方以降、水分を控える方もいますが、脱水傾向になる危険性がありますので注意が必要です。
 脳梗塞(のうこうそく)を防ぐためにも、少し多めに水分を補給することを心掛けていただきたいと思います。
【名誉会長】 仏法では、「脈は江河(こうが)に法(のっ)とり」(御書567㌻)と説かれています。
 清らかな川がたゆみなく大地を流れていくように、よどみなく血液が体内を流れていくことが不可欠です。どんなに飲む水が大切か分かりますね。
 では、体が硬くなるのに対して、柔軟性を保つには、どうすればいいでしょう。
【道川】 やはり、普段から「よく歩くこと」など、適度な運動を心掛けることが重要です。ただ、だからといって、突然、激しいスポーツに挑戦するのは、お勧めできません。
 筋肉や関節、骨、また呼吸や血圧などの生理機能は、急激な運動には適応できませんので、体をいたわりながら、運動を持続していくことが基本になると思います。
【名誉会長】 よく分かります。若い時は、心身共に「鍛え」が根本です。しかし、40代以降は、「鍛え」というよりも、むしろ「保護」「体力の維持」に重点を置くべきでしょう。

◆人の不幸を喜ぶのは男女どちら
【名誉会長】 年齢とともに少々、体が硬くなったとしても、頭は硬くなってはいけません(笑い)。
 年を取れば取るほど、人の意見、特に若い人の意見を聞く「耳」をもつことです。
 そして、後輩を励まし、自分以上に偉く伸ばしていくことです。
【成見】 確かに、「人を育てる」ことが大事です。年長者は、年少者を温かく見守ってもらいたいですね。
【名誉会長】 牧口先生と親交の深かった大教育者の新渡戸稲造(にとべいなぞう)博士は、こう語っていました。
 「私が避けたく願っていますのは、老年病です──それも、避けられぬ身心の病気ではなくて、老年性の習慣のことです、青年のあらさがしをしたり、自分の過去の経歴の自慢をしたりする」(原文は英文、佐藤全弘訳「編集余録」、『新渡戸稲造全集』第20巻、教文館)と。
 こういう点、特に男性は気を付けなければいけません(笑い)。
 というのも、先日、イギリスで興味深い研究が発表されました。ロンドン大学の科学者チームが脳画像技術を使い、男性と女性では、どちらが「他人の不幸を喜ぶ気持ち」が強いか、調べたというのです(笑い)。
【道川】 その研究には、私も驚きました。残念なことに、男性のほうが他人の不幸を喜ぶという結果でした(笑い)。
【名誉会長】 そうでしたね。嫌いな人間が苦しんでいる場合、男性には、まったく共感の反応が見られなかったといいます。
 それはそれとして、戸田先生はよく、「嫉妬という字に男偏があってもいいんだ」と言われていました。

◆幾つになっても「開かれた心」で
【名誉会長】 年齢が進んでも、あとに続く若い世代のために、「もっと前へ進んでいこう!」と挑戦の魂(たましい)を燃やしていきたいものです。
 私が対談集を発刊したカナダ・モントリオール大学教授のブルジョ博士も、そうした模範の一人です。
【道川】 「生命倫理(りんり)」の大家(たいか)として名高い研究者ですね。
【名誉会長】 博士は、こう言われていました。
 「『開かれた心』や柔軟性が青年期の特徴で、頑迷(がんめい)と偏狭(へんきょう)が老年の特徴とは、一概に言えないように思います」
 「私自身の経験からすれば、新しいものを率直に受け入れ、むしろ歓迎できるようになったのは、二十歳のときよりも、四十歳、五十歳になってからです」と。
 まさに「若さ」とは、「現状にとどまらない精神力」のことをいうのではないでしょうか。
【稲光】 そう思います。「年齢」と「老い」は必ずしも一致しませんからね。
【名誉会長】 そうです。青年であっても、精神を鍛えていかなければ、真の若さは光りません。より高みを目指した、自己との闘争で鍛えられた精神だけが、輝かしい若さを勝ち得るのです。


◆≪ブラジルの人権の闘士≫
── 生きることは鍛錬! 鍛錬は勝利に通ずる
◆◆◆ 「戦う心」が健康・長寿の源
◆≪アメリカの哲人≫世界で唯一、価値ある者は活動的な魂
◆≪ロートブラット博士≫若さの秘決は止まらないこと

◆老いとは「終わった」と思うこと
【成見】 ブルジョ博士に限らず、池田先生がお会いされた多くの世界の指導者の方々は、若々しく行動されています。
 しかし、その指導者の方々が異口同音に驚嘆されているのが、池田先生の圧倒的な若さであり、エネルギーです。
【名誉会長】 いや、恐縮です。
 ともあれ、「老化とは乾燥」という指摘もありましたが、「心」が乾いてはいけませんね。
 フランスの作家アンドレ・モーロワも言っています。
 「老いとは、髪が白くなったりしわがふえたりすること以上に、もうおそすぎる、勝負は終わってしまった、舞台はすっかりつぎの世代に移った、といった気持ちになることである」(中山真彦訳『人生をよりよく生きる技術』講談社学術文庫)
 この点、世界の一流の知性は皆、高齢にあってなお、自らの使命の舞台で生き生きと活躍されていました。
【成見】 調べてみたのですが、先生と最初にお会いされた時、20世紀を代表する歴史家トインビー博士は83歳でした。現代化学の父ポーリング博士は85歳。アメリカの実業家ハマー博士は85歳。ガンジーの直弟子パンディ博士は85歳。ブラジル文学アカデミーのアタイデ総裁は94歳。パグウォッシュ会議名誉会長のロートブラット博士は80歳でした。
【稲光】 女性では、香港(ホンコン)の芸術の母・方召★(鹿/吝)〔ほうしょうりん〕さんは82歳で、先生とお会いになりました。
 アメリカの人権の母ローザ・パークスさんは、80歳の誕生日を、アメリカ創価大学で先生ご夫妻から祝福していただきました。

◆「私にはまだまだやるべきことが」
【名誉会長】 そうでしたね。
 ポーリング博士も、「世界平和のために、私に協力できることがあれば、何でも喜んでいたします」と言われ、アメリカ創価大学まで、約800キロも離れたサンフランシスコから、駆け付けてくださいました。
 昨年、96歳の尊い生涯を終えられたロートブラット博士は、生前、私との対談の中で言われました。
 「世界の平和の潮流を確かめるまで、私にはまだまだやるべきことがあります!」と。
 偉大なる平和と人道の闘士たちは、年を重ねるほど、「いよいよ、これから!」と情熱を燃やし、「人類のために!未来のために!」と、常に前進し続けておられた。
 大目的に向かって生きる──これこそが、みずみずしい「青年の心」の源泉でしょう。
【道川】 その意味で、多宝会の方々は模範の中の模範です。広宣流布という大目標があるからです。
【名誉会長】 そうです。
 わが多宝の同志には、仏法によって全人類を幸福にし、世界平和を築くという崇高な大目的があります。これほどの生きがいはないし、誉(ほま)れはない。また、大目的に生きる毎日は楽しいし、充実している。これほど気高く、これほど強い人生はありません。

◆多宝会は長寿社会をリード
【稲光】 本当に、その通りだと思います。
 神奈川県小田原市に、高齢者総合福祉施設を経営されている時田純さんという学会員の方がおられます。
【名誉会長】 私も、よく存じ上げている大功労者です。
【稲光】 そこは、介護保険制度ができる以前から、満足のいくケア(介護)、栄養のバランスの取れた食事など、最高の福祉を提供していることで、全国的に有名な施設です。
【道川】 今日の介護サービスの先駆けをなした老人介護のモデルケースとして注目されています。
【稲光】 時田さんは、「信仰者として社会に何らかの意義ある働き掛けをしなくては」と、施設を創設されました。現在、78歳。心に刻(きざ)む「一生空(むな)しく過して万歳(ばんさい)悔ゆること勿(なか)れ」(御書970㌻)の御聖訓を胸に、広布の活動はもちろん、理事長として、入所者のためにも朝早くから夜遅くまで働かれています。心身共に健康そのもので、頭も冴えわたっています。
【名誉会長】 素晴らしい健康人生ですね。人々のため、社会のため、未来のために、はつらつと働く──多宝会の方々は、まさに長寿社会をリードしておられる。
【稲光】 時田さんには、忘れられない先生のご指導があるそうです。「学会活動は、社会のためである。自分自身のためである。子孫末代のためである」という指針です。
【名誉会長】 学会活動の中には、あらゆる「価値創造」が含まれています。人生を輝かせる一切の要素が含まれています。健康・長寿もそうです。仏意仏勅(ぶついぶっちょく)の学会とともに生き抜いていけば、自然のうちに、健(すこ)やかな「常楽我浄(じょうらくがじょう)」の生命の軌道を進んでいけることは間違いありません。

◆「さあ、仕事を続けよう!」
【名誉会長】 時田さんのお話を伺っていて、私はトインビー博士のモットーを思い出しました。ラテン語の「ラボレムス!」──「さあ、仕事を続けよう!」という意味です。その言葉通り、博士は毎朝、決めた時間に必ず机に向かうことを習慣としておられました。
【成見】 ブラジルの人権の闘士アタイデ総裁もそうでしたね。記者として70年間、毎日、コラム(囲み記事)を平均2本書いておられたと伺(うかが)いました。
【名誉会長】 リオで私を迎(むか)えてくださいました。まるで、戸田先生がブラジルで待っていてくださったかのような、温かな歓迎をいただきました。
 「私は10代の終わりから、働き抜いてきました。しかし苦労したなどと思ったことはありません。ただただ命懸けで仕事をしてきただけです」──この総裁の言葉が今も忘れられません。
 アタイデ総裁は、「生きることは即(そく)、鍛錬することである。鍛錬することは即、勝利へと通ずる」とも語られていました。人生は幾つになっても、闘争です。
 ロートブラット博士も、生前、ご自身の健康の秘訣を聞かれて、即座に、こう答えておられました。「立ち止まらないことです。戦う心を失わないことが、若さと健康の秘訣です」と。人類のための戦いに終わりはありません。広宣流布の戦いにも終わりはありません。「戦う心」をなくしたところから、「衰亡(すいぼう)」が始まります。

◆「活動の停止は活力を失わせる」
【稲光】 次元は違いますが、入院した患者さんも、かつては安静にさせる時間が長かったのですが、今は体の機能が衰えないように少しでも運動させることにしています。手術後の場合も、肺塞栓(はいそくせん)などを予防するため、なるべく、すぐに起き上がらせるようにしているのです。
【名誉会長】 そうですか。もちろん、疲れのたまった時は休養が必要です。しかし、体も頭も使わないと老いる。組織も同じです。どんどん回転させることです。そこに前進の勢いが生まれる。少しでも後退すれば、そこに魔がつけ入る。勢いが止まる。「建設は死闘」「破壊は一瞬」なのです。
 ルネサンスの巨人レオナルド・ダ・ヴィンチは語っています。「鉄は使わないと錆びる。澱(よど)んだ水は濁る、寒さには凍結する。同じように、活動の停止は精神の活力を喪失(そうしつ)させる」(セルジュ・ブランリ著、五十嵐見鳥訳『レオナルド・ダ・ヴィンチ』平凡社)
【道川】 ダ・ヴィンチが言う通り、老いに負けない「精神の活力」は「精神の活動」から生まれますね。
【名誉会長】 アメリカ・ルネサンスの哲人エマソンも、「世界中で価値のあるものはただひとつ、活動的な魂(たましい)です」(酒本雅之訳『エマソン論文集』上巻、岩波文庫)と記しました。
 わが創価の同志には、この「活動的な魂」が生き生きと脈打っています。
 御聖訓には「法華経の信心を貫いていきなさい。火をおこすのに、作業を止めてしまえば、火は得られない」(御書1117㌻、通解)と仰せであります。
 どうか、幾つになっても「戦う心」を燃やしながら、前へ前へと進んでいただきたい。たとえ年を取っても、病を患(わずら)っても、「心こそ大切なれ」(同1192㌻)です。人のため、法のため、広宣流布のために尽くしていこうという「心」が燃えていれば、その人は若々しい。真の健康な生命が輝いています。「戦う心」こそ「健康・長寿の源泉」なのです。

(聖教新聞 2006.02.04)