今回はブロードウェイで観た「ジャージー・ボーイズ」(2回)の感想を書きたいと思います…題して「起用貧乏なトミーと激しいボブ」
3月にもこのキャストで観ているので、私としては今や「お馴染み」の4人です。10周年ウィークということもあってか、すべて正規のキャストによる(代役を立てない)パフォーマンスでした、。
ジョセフ・レオ・ブワリエ(フランキー、ソワレ)
リチャード・H・ブレイク(トミー)
クィン・ヴァン・アントワープ(ボブ)
マット・ボガート(ニック)
ドミニク・スカグリオーネ・ジュニア(フランキー、マチネ)
11月6日(金)のショーは、まず開始前に演出のデス・マカナフが登場し、観客に10年間のお礼を述べてから始まりました。
全体を通して思ったのは、主役の4人がそれぞれにとても芸が細かくなっている…ということでしょうか。
私自身、今となっては、何年も前に観た「ジャージー・ボーイズ」が果たしてどんなんだったか?…思い出すのが難しくなってきているのも事実でして…まぁ、最初のころは台詞やストリーの理解も大変だったし、もしかしたら、俳優たちの細かい演技にまで注意を向けられなかったのかもしれないし、あるいは、今のキャストよりは若いメンバーでもあったので、ただただ舞台から溢れる若いエネルギーに身を任せて楽しんでいたのかもしれません。
いずれにしても、今の4人はかなり年齢が上になっていまして、どの人も「フレッシュで初々しい~」というよりは、も~う「貫禄」なのであります。それだけに、それぞれに役が染み込んでいるので、安心して観ていられる、という良さはあります。また、リピーター率もかなり高いショーなので、どの人もそれぞれに演技にマイナーチェンジを加えていく必要を感じているのかもしれません。
週6回のフランキー役であるジョセフは、とにかく安定度が高い。彼は、今では、ジャロッド・スペクターを抜いて、もっとも多くの回数を演じたフランキー役ということになっています。
7日(土)のマチネは、「ドミニクが本調子ではないので、代役かもしれない」という噂があり、私は先日TVでパフォーマンスを見せたマウリシオ・ペレスでも観てみたいし~と思っていたところ、ドミニク君と連絡を取り合っている(らしい…笑)ファンの方から当日の昼頃に一斉メール連絡がありまして「今日は、100パーセントのコンディションではならしいが、ドミニクは出る!」とのこと。大喜びする人多数(!)まぁ、こういうのって、日本のミュージカル界ではあり得ないでしょうね…つまり、俳優が個人的にファンと連絡を取って登板情報を伝えるとか(笑)ブロードウェイはこういう「何でもあり感」が楽しいですよ。
さて、3月に観たときのドミニクも明らかに本調子ではなかったのですが、今回の彼も、3月よりも良かったものの、やはり本調子ではありませんでした。2回続けて「本調子ではない」パフォーマンスを見たことになります。
ドミニクは、かなり年齢も上ですし、もうビジュアル的にも厳しいかな~という感じ。この人は、例えば、ジョン・ロイド・ヤング、ジャロッド・スペクター、ジョセフ・レオ・ブワリエという3人の代表的フランキーsと比べると随分「大味」な感じがして、これが私的にはずっと引っかかるところではあったのですが…しかし、それがかえってアメリカ人の好みなのか(笑)相変わらずの人気者で、黄色い声が上がるわ、舞台に駆け寄る人がいるわ(←全部、オバサンですけど)とにかく、大変な熱狂でありました。
私は既に帰国の途についていましたが、8日(日)のショーでは、客席に来日公演のフランキーだったヘイデン・ミラネースが来ていたようで、まぁ、ご本人は「ジャージー・ボーイズを卒業する」と宣言されたものの、2度と戻らないつもりの人がこの記念すべき日に客席にいたとは考えにくく、私は早くヘイデンのための「席が空く」ことを願っています。まぁ、こういうことは向こうのファンの人たちの間では口が裂けても言えないんですが、日本だからって(?)安心して大胆発言してますが…日本にも、ドミニクのファンの方がいらしたらごめんなさいデス(汗)
さて、他のキャストの話もしましょう~
トミー役のリチャードは、ブロードウェイでも「ヘアスプレー」のリンク、「ウィキッド」のフィエロなど数多くの「イケメン枠」(?)の役を経験している人です。同じようなキャリアを歩んできたアーロン・トヴェイト、マシュー・モリソンなどは「ブロードウェイの恋人」としての地位をしっかり固めて、その後も活躍していますが、リチャードは上記の二人ほどのスター性には及ばず、ちょっと地味なタイプかな~と思われます。で、トミー役は歌やダンスがさほどうまくなくてもいいにもかかわらず(?)、彼は歌もうまいし、体の動きも非常にいい人で、それがまず目立ちます。
私は、トミー役というのは、やはりOBCのクリスチャン・ホフが一番だと思っているんですが…クリスチャンのトミーはとにかく「美しかった」!「力」だけではなく、その「美しさ」でも周囲を圧倒するようなカリスマ性あふれるトミーでした。
リチャードの演じるトミーは、それと比べると、非常に地味で、いかにも「小物」で「くっだらない」トミーなんですよ。で、3月に観たときも感じましたが、リチャード自身はそれを自覚して演じているようでもあるのでした。もともとスキルの高い人なので、歌やダンスなどの小技を利かせることもできるし、間の取り方なども上手く、非常に巧みなパフォーマンスをするのですが、器用にやればやるほど、ますます小物に見えるという(笑)ホントに「悲しいトミー」でありまして~でも、私は、これはこれで面白いと思っています。
現在、ラスベガスでトミーを演じているダニエル・サリヴァン(ここでも紹介していますが)彼は熱心なファンの人たちの間でも人気がありまして、ある人は「彼のトミーはよく薄笑いを浮かべるのが特徴かな。凄いよ。一度ラスベガスで観るべき!」と興奮気味に話しておられました。今のところはラスベガスの予定はないんですが…行かれる方は是非ダニエル・サリヴァンのトミーにも注目してください。きっと、リチャード君とはかなり雰囲気の違うトミーだと思います。
で、やはり凄いのはクィン・ヴァンアントワープのボブ!今回は特に彼に注目していたのですが、やはり素晴らしかった!
ボブという役は、他の3人とは違って、育った環境も悪くなく、頭のいい人として描かれますが、素晴らしい才能を持っている一方で、実は他者への共感が乏しい人なのではないか…というのが私の解釈でもありました。来日公演のボブ役のドリュー・シーリーもインタビューで同様のことを語っていますし、おそらくどのボブ役もそういうことを意識しながら演じていると思うのですが、クィンの演技は非常に徹底していて感動します。
ボブは、「シェリー」が出来上がったとき、トミーを無視してまずフランキーに楽譜を見せるのですが、クィンはトミーとすれ違いざまに「はっ、誰がお前なんかに見せるか!ざまあみろ!」という表情をするのですね。あそこまでやるボブは他に知りません。また、ジップ邸での対決シーンでは、他のボブ役は「頭はいいけど修羅場慣れしてないお坊ちゃま」で、普通に「困ったな~」という様子を見せるだけですが、クィンはトミーに対する反感をむき出しにするばかりか、トミーがフランキーにつかみかかる段になると、力いっぱいトミーを払いのけます。ああいう演技も彼だけですね(私が観た限りでは) とにかく、終始、トミーを「汚らわしいもの」のように扱う…これ、徹底しています。
こういうやり取りを見ていると、私的には、リチャード演じる「起用貧乏な」トミーの方に同情を感じないではいられませんね。「ボブよぉ、それはないやろ」みたいな(笑)とにかく、ミュージシャンとしては天才的なボブではありますが、やはり彼も「聖人ではない」
そして「君の瞳に恋してる」のシーン。クィン演じるボブにとって、それまでのフランキーは「自分の作った曲をベストな形で歌ってくれるヴォーカリスト」なのであって、それ以上でもそれ以下でもない。他のボブ役と比べても、歌い手としてのフランキーを崇拝しているような印象はなく、ずっとビジネスライクな付き合いをしているような感じでした。
しかし、自分自身も大変な苦労の末に世に出したこの曲をフランキーが歌うのを上から見守るシーンで、クィンの演じるボブは、このシーンで初めてフランキーの歌い手としての非凡さに圧倒されてしまったかのように見えます。そこまでの演技では見せなかったような表情を、キャットウォークの上で見せるのです。
私は、この曲に至るまでのボブの苦労を舞台のそでで見守るフランキーの表情が好きだとずっとここで書いてきました。「作りだす側」の苦労を目の当たりにして、それをその後の自らの歌唱に反映させていく、というシーンです。ここのシーンのフランキーと同様の深い表情を、今度はボブが見せるという展開になります。どのボブ役も「君の瞳に恋してる」の2コーラス目で去っていき、あとは、舞台上のフランキーが一人で歌いあげます。ここは「曲が作り手の手を離れて、歌い手のものになる」過程を象徴しているのだろうとずっと考えてきましたが、クィンの演じるボブが去っていくシーンは、より深い印象を残します。
名曲を生み出すのは「作り手」?「歌い手」?…簡単に答えが出ない「問い」でしょう。音楽を生み出す側にいる人たちも、それぞれの立場で自らに問いかけながら、至高の音を希求しているものなのでしょう。そして、さまざまな個性のぶつかり合いの中からこそ、素晴らしいものが生み出されるのでしょう。
クィンとは2回とも話をしましたが、素顔はとても背が高くて、色白で、お肌がトゥルントゥルンの(?)若々しいお兄さんです。「日本でも『ジャージー・ボーイズ』が上演されるので、ぜひ日本の人に『ボブはこう演じるんだ!』ってところを教えてあげてほしい!」と言うと「日本から呼ばれればね~」とニッコリと言っていました。そして「僕は自分がやりたいようにやっているだけだから」とも…(余裕こいてますな)
ボブの役も「いくらでも深められる」ということをクィンは見事に示してくれています。日本のキャストも頑張ってほしいと思います。
マットのニックは省略~
(続)
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