冷蔵庫にはいつもミネラルウォーターが入っている
「お前たちは触るんじゃないぞ。俺の水だ。俺が駄目になったらお前たちはどうするんだ」
そう言われ気にも止めず、水道水を飲んでいた
今はその水までもが、憎らしい
この人が死ねば解放される
飢えているせいか、憎しみのせいか
マイのとった行動は明らかにおかしくなっていった
ミネラルウォーターに殺虫剤や消毒液、思いつく限りありったけ入れた
父が帰宅し水を飲むのを待った
が、父はキッチンには寄らずそのまま部屋へ入って行った
匂いでばれる
マイは我に返り、父が部屋から出るまでに急いでペットボトルの水を捨て
代わりに水道水を入れた
手が震えた
階段の上から背中を押そうとしたこともある
思い出して躊躇した
神経質な父は遺書を用意してあると言っていた
中身は知らない
わかるのは財産は家族に渡らないよう記してあるということだけだ
生命保険だって受取人は誰だかわからない
悔しい
今まで家族にひもじい思いをさせてきたくせに
金が欲しいと思った
マイにはなにも出来ないこともわかっていた
ある日
夕食にご飯一膳と小さな鶏肉の欠片が3つ出された
勇気を出してマイは言った
「もう少し食べたいんだけど・・・お母さんはもっと食べさせてくれた」
それが父の逆鱗に触れた
頭を鷲づかみにし、マイを冷蔵庫まで連れて行った
寂しい冷蔵庫の中から茶色の卵を取り出し
「これがいくらするか知ってるか!315円もするんだ!どういう意味かわかるか!」
マイは首を横に振る
「最高級の体に良い物を買っているんだよ!知ったような口をきくな!
お前たちのことを考えて一生懸命やってやってるんだ!」
顔を近づけて、脅されているような気分だった
それからは上か下か判らないほどに張り倒され、蹴飛ばされた
マイは這いずり夢中でキッチンから包丁を取った
負けたくなかった
包丁を構え、父に向き合った
取っ組み合いになり、結局男の力には勝てなかった