「依存症」

自分自身の体験をベースにした小説。鬱、情緒不安定性人格障害(パニック、摂食)フィクションとノンフィクションです。

着信

2008-09-29 16:57:39 | 小説
マイは行くあてもなく裏路地に座る

ヒロに会いたい
呼吸がしたい
電話しようと携帯を取り出す

携帯が鳴った
着信画面を見て、そのまま鳴り続ける携帯を地面に置く
止んだ
ほっとする
直後にまた着信音

・・・・・・

迷いながらも電話にでる

「キミ、何やってんの?何で電話に出ないの?何処にいるの今?」
まくしたてる声
聞きたくない声
「いつもの所にいるから。7時だから」

・・・・・・

ヒロの声が聞きたかったが、発信ボタンが押せなかった

7時にその場所に行く
道路脇に止まっている車に乗る
そして、いつもの通りホテルに行く

最初は好きだった
温かい大きな手が頬に触れると、昔の父の大きな手を思い出す

マイはただ、ベットで抱かれている間無言で事が終わるのを待つ





目覚め

2008-09-22 14:43:23 | 小説
どの位、時がたったのだろう
目が開いた

カイが抱きしめていてくれた

まだ
まだ、足りない
消えるには

周りをゆっくり見渡したが薬が見当たらない
「薬は?」
「俺が持ってるから」
「もう少しだけ。もう少しだけでいいから必要なの」
「・・・・・・・・」
「ごめんな。今はもうあげられないんだ。分るか?」
カイの体温が嬉しい
温かい


何日眠っていたのだろう
カイが起しにきて
「なんか旨いもんでも、食いにいこうぜ」
と、私を車に乗せてくれた

大きなウィンナーやらビールを飲んだのは覚えているが、何の話をしたのかなど覚えていない
ぐるぐるとまわった景色だった

朦朧としたマイをまた車に乗せて部屋まで運んでくれた

目が覚めたらとても気分が良かった
まだ薬が残っているのだろう

今日は何日?

どうでもいい。気分も天気も良いから外に出る
マイは幼いころから住むこの街が好きだ
特に、夜になる前の家の灯りや夕食の匂い
家庭の温かさを感じる

愛する住宅街を歩く
ひとつひとつ、家を見て歩く
楽しい
幸せな気分になる

気になったマンションのエントランスに入ってその豪華さに喜ぶ
アパートの2階3階に昇り、そこから見える景色を楽しむ
自分じゃない他の人の目線になってみたかっただけ
それを好奇心が強過ぎるというのか


「そこで何をしているんだい?」
通りすがりの人が声を掛けたのかと、振り向く

警察官だった
不審者と思った誰かが警察に通報したらしい
マイは答えない
「持ち物を見せてくれるかな」
拒否する
別に怪しいものなどもっていない
でも拒否し続ける

マイは過去に補導経験がある
売春や、未遂や、夜の街で

どうせ身分証ですぐに照合できて、犯罪者扱いするに決まってる
最近は空き巣が多いと聞いていたから余計に抵抗する

でも、逃げられない
仕方なくバックを渡す
持ち物をいちいち質問してくる
「これは?」
「化粧ポーチ」
「これは?」
「タンポンとナプキン。見たければどうぞ」
「これは?」
「財布」
「中を見てもいいかね」
「嫌です」
「怪しいものは見つかりましたか?なければもう行きます」

傷付いた
台無しだ
気持ち良かったのに

マイがマンションからの眺めが好きなのは今の家に来る前に住んでいたマンションと関係している
当時はまだ2歳ほどで、マイの世界は父と母を通して見るものだった
動物の子供のようなマイに父はたくさん遊んでくれた
愛でいっぱいだと思っていた

まだ知らなかった。父が母にしてることを


愛のない屈辱のセックス
ことのあとには毎回風呂場に連れて行かれ、膣の中にホースを突っ込まれ
洗い流される
時に包丁を突きつけ、時に頭を鷲づかみにされ毛束が抜ける

父は感情を持ったものを憎む
動物しか相手にしない
だから何も知らない2歳の私は遊んでもらえたのだろう




底の無い

2008-09-19 00:37:09 | 小説


手を伸ばしても何も届かない
まだ落ちていく
底が無い闇

震えが止まらない
体が勝手に反応する恐怖

今の父との接触がきっかけか、思い出した体験のせいなのか
とにかく頭が、心臓が、心が、苦しい
視界がスクリーンを張ったように白くなり眼に入ってくる物が理解できない
頭が締め付けられ、耳が聞こえない
もうすでに正常な意識はない

苦しい

手探りで母の薬を探す
レキソタン、ロヒプノール、ベンザリン
それぞれを飲み込む

足りない

レキソタンを1シート
ロヒプノール、ベンザリン、更に飲む

意識を消したい
消えてしまおう

まだまだ足りない
もっと飲む

「ただいま」
突然、部屋のドアが開いた
カイ
マイは大量に空の薬のシートに囲まれ、手には新たなシートを持っていた

「マイ!何してんだよ!?」

朦朧とした意識の中でカイがマイの手から薬を取り上げ、マイはゆっくり床に倒れた

「大丈夫かよ!どの位飲んだんだ!?」
口が動かない

マイはカイの膝の上で何かを呟く。言葉になっていない
目から涙がこぼれ落ちた

そのまま意識がなくなった


記憶

2008-09-16 03:16:01 | 小説
幼少時代から父と向き合いたくて、よく話をしに行った

愛して欲しかった
抱きしめて欲しかった
求めてることを信じて欲しかった

父の部屋の扉を開ける度、恐怖で足の震えが止まらなかった
勇気を出して父に会いに行ったはずなのに、堂々と話をしようと決心したはずなのに
目から涙が零れ落ちる
泣きたくないのに

その度に結局ありったけの物を投げつけられ、逃げ回ってもどこまでも追い詰める
鬼、そう表現するのに相応しい顔
「お前は嘘つきの最低な奴だ!目を見たら判るんだ、お前は俺を憎んでる」
そうじゃない育ててくれたこと、父親になってくれたこと感謝してる
信じて!!
心で叫ぶが、恐怖で声が震えて言葉にならない

床に押し付けられ、首を絞められる
「お前なんか、自殺しろ!!」

ずるい
どうせだったら、その手を汚して殺してほしい

よく言われた
「子供なんて作るもんじゃないぞ。どうせお前みたいな奴が産まれてくるんだ」
「俺は子供なんて欲しくなかった」

マイは過去の記憶が途切れている
母やカイに「マイはこんなことあったよね」と言われても
そんな体験はした覚えがない
その直後には指摘された体験がなんだったのか、また消えてしまう

私の中に、もう一人の私が存在している
そう思うこともあった


マイはいつも死ななくてはいけない、と考えていた
そうしたら父は涙を流してくれるだろうか?
喜んでくれるだろうか?

愛情は全部、母が教えてくれた
母を悲しませるのは嫌だ
カイを悲しませたくない

しかしどうやって死んだらいいのか、いつも考えていた

この年になってから、母から聞いた
「いままでお父さんの暴力が怖かったから、マイに矛先が向いた時正直ホッとしたの。ごめんね、守ってあげられなくて」
ショックだった

足音

2008-09-15 18:26:30 | 小説

家に帰り猫のように足音をたてずに階段を上り、部屋に着く
昼夜問わず音をたててはいけない
この家のルール
それでも、微かな音で父は壁を激しく、狂ったように叩く
昼間でも
急いで部屋に逃げる
また父の部屋から「ドンドンドン」と鳴り響く
謝らなかったからなのか、怒りが収まらないらしい
「ごめんなさい」
父の部屋の扉の前で言う
「ちょっと来い!!」
恐るおそる扉を開ける
「ごめんなさい」
「そこに座れ!」
怖い
従う以外ない
「俺は疲れてるんだよ!」
確かにアメリカ大使館に勤め役員で一日英語で仕事をするのは疲れるだろう
「俺を殺す気か!俺が死んだらどうするんだ!」
月に100万は給料あるくせに、家には16万しか渡さない
母は苦しいだろう
19歳のマイとカイ、父、家族4人で16万
「すみませんでした。感謝してます。気を付けます」
そう言って、部屋出た
緊張して喉が渇いた
水を飲もうとキッチンに行こうとしたら
父の部屋が開き、階段を下りる音がした

父の足音はかなり響くくせに

マイは父がまた部屋に戻る音を確認し、少し様子を覗ってからキッチンに行く
たいていそうしているので、同じ屋根の下、父と顔を遭わすことはめったにない


快楽

2008-09-12 11:40:07 | 小説
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人恋しい
携帯の電話帳からかけまくる
たいてい繋がらない
ヒロは留守電だ。無言メッセージを残してやる
レミにかけたら元気な返事が返ってきた
「暇なら飲みに行こうよ」
「いいよー」

レミはいつも元気で、遊び盛りの子猫のよう
居酒屋で待ち合わせ
たくさん飲んで、たくさんしゃべった

アルコールでいい気持ちになってくる
女の子とキスがしたくなる

以前、レミのファーストキスはマイが奪った
それから、レミは前にも増してマイにじゃれついてくるようになった

レミとキスする
「マイー、大好きー」と抱きついてくる

携帯が鳴った
ヒロだ
「着信あったけど、どうしたの?」
「もう、いいだもんねー」
またキスをする





キャンパス

2008-09-12 09:47:41 | 小説
今日は朝からハイテンション
薬を飲んだ翌朝は気分がいい

身支度をして学園に向かう
滑り止めで入学した短大だ。単位を取って卒業証書だけもらえばいい
他になにも求めていない
友人も作る気はない

それでも、講義室に入ると
「席取っといたよ」と手招きする子

昼休み食堂ではテーブルの輪に呼ばれる

「入学初日に席近くだったんだよ。」
マイは覚えてない
「綺麗な人だなって、ずっと友達になりたかったんだ」
『友人』としてキャンパスで一緒にいる子達はいう
ありがたいことなはず
みんな良い子たち

でも、キャンパスを出てまで、ついて来られたくない
駅で「私こっちだから」と離れる事にしている

最寄駅で電車を降りた

来た

また、頭が絞めつけられる
心臓が苦しい

こういう時は人だかりを歩くのが辛くなる
誰も見たくない
誰にも見られたくない

雑貨屋に入る
客がほとんどいなくて静かだ
少しだけホッとする

店内を一回りして
ピアスを手に取り鞄に入れる

店員はレジで書類チェックに没頭している

店を出て歩いているうちに頭痛は楽になってきた
でもまだ心臓の苦しさは消えない
途中、他の店に入ろうかと思ったけど、やめた

母が食事を作り待っている
そして
食べて、吐く

毎晩の日課

帰宅後

2008-09-12 00:06:52 | 小説
家に帰ると寂しくなる

家族は同じ屋根の下にいるのに、独り

帰り途中コンビニで買ってきた菓子パンを食べ、

指をつっこみ、吐いた

母から譲ってもらう安定剤を適当に飲む

ベット横の窓を開けて外の風に触れる

夜の中、オレンジ色に光る高速道路が見える

薬が心地いい

ぼんやりしてくる
横になりオレンジの光を眺めながら
眠りに堕ちた

帰宅

2008-09-10 23:51:15 | 小説
バイトが終わり、着替え更衣室を出る
出口でヒロが荷物をいじっている

マイも先に着替え終わる時は支度をしているフリをして
お互い暗黙の了解で帰るタイミングを合わす

そして、居酒屋で飲む
ヒロといると、気が楽だ
ありのままの自分でいられる

呼吸ができる

バイトを始めて、一番最初に声をかけてくれたのがヒロだった
それから何度か一緒に出掛け、今ではマイの心の中で一番好きな友達だ

深夜12時

そろそろ帰る時間かもしれない
明日は朝から講義がある
帰りたくないが、帰ることにする


家に着くと、リビングで父と遭遇した
どのくらいぶりだろうか
わからない
父はマイの方へ顔を向けることなくキッチンに行く
マイもそのまま自分の部屋へ行く

父とは何度も衝突してきた
幼いころから
何度も
その結果父の存在を消すことにした
それしかできなかった

喫茶店

2008-09-10 13:17:06 | 小説
今日は午後イチからバイト
ウェイトレスの制服が気に入って、自宅から近いからそこの喫茶店に決めた
時給は850円

マイは服を4枚重ね着して、その上に制服のブラウスとエプロンをする
寒いからではない
バイト仲間やお客から、細い体を指摘されるのがいやだったから
身長170cmで46キロの体は制服を着ると細すぎて見える
服を着込んでいても隠しきれはしない

フロアに出てざっと店内を見回す
レジで客の清算をしている、ヒロを確認する
今日はシフトが一緒だ
マイは少し嬉しくなる
テーブルへ水を運んでいき接客も調子がいい