京陶器『陶花源』 ☆ 雑記 ☆☆

器、料理 etc. 文化に関するいろいろ

紅茶とコーヒー(その3)

2008年05月20日 | 異文化
  前回に続き今回もコーヒーについて話させて頂きます。今回も歴史が絡んだ話になりますが,退屈せずに呼んでいただけたら幸いです。
-アメリカンコーヒーとは?-
  昔ながらの喫茶店のメニューには必ずと言ってよいほど「アメリカンコーヒー」があり,年配者を中心に未だに一定の人気を博しています。ところで,アメリカンコーヒーとは如何なるコーヒーなのでしょうか。私は日本以外で「アメリカンコーヒー」なるメニューに出会った事が無く,少なくともネーミングに関しては日本独自のものと考えられます。たぶん(間違っていたらごめんなさい),第二次世界大戦後に進駐してきたアメリカ兵らの間で普通に飲まれていた薄味のコーヒーを,当時の日本人がアメリカンコーヒーと呼んだのではなかろうかと推測します。だとすれば,アメリカンコーヒーの起源は「ボストンコーヒー」だと考えられます。

 拙著『世界史総整理Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』(駿台文庫)
  受験用ですがアメリカの歴史などかなり詳細です
  ご存知の通り,アメリカ合衆国はイギリス領北米13植民地が独立して誕生した国家で,独立に際して激しい戦争(アメリカ独立戦争,1775~83年)がおこなわれました。この独立戦争勃発の大きな契機となった出来事にボストン茶会事件(1773)がありました。北米13植民地の住民は大部分がイギリス系で,イギリス本国と同様に,上層市民を中心に茶(紅茶)を飲む習慣が広まっており,本国とは別に,独自のルートで茶を輸入していました。しかし,本国政府は経営不振に陥っていた東インド会社を救済する目的から,東インド会社に茶貿易の独占権を与える趣旨の茶法(茶条令)を公布しました。そのため,北米植民地の住民は東インド会社を通じてしか茶を入手できなくなり,これ幸いにと東インド会社は茶の価格を吊り上げたのでした。これに反発したボストンの急進的市民約2000名が,ボストン港に停泊していた東インド会社の船舶を襲撃し,積荷の茶を海に投棄するに至ったのです。これがボストン茶会事件で,当然のことながら,これに怒った本国政府は,ボストン港の閉鎖,ボストンがあるマサチューセッツ植民地の自治制限などの報復措置を実施し,本国と北米植民地の対立は一気に深まっていったのです。そしてついに,1775年4月,ボストン近郊のコンコードとレキシントンの2カ所で,イギリス本国軍と北米植民地民兵との武力衝突がおこり,ここに独立戦争の火ぶたが切られたのでした。
  ボストン市民は,ボストン茶会事件の前後から茶を飲む習慣を止め,代りにコーヒーを飲むようになったのです。ただ,紅茶に慣れていた彼らはなかなかコーヒーに馴染めず,コーヒーをとても薄く抽出して飲むようになったのです。この薄く抽出されたコーヒーは「ボストンコーヒー」と呼ばれるようになり,独立後のアメリカ合衆国で最もポピュラーなコーヒーとなっていったのです。そして,時と共に「ボストンコーヒー」という名称は忘れ去られ,このような薄く抽出されたコーヒーがアメリカンスタンダードとなったのです。ただ,近年ではアメリカ本国でもここまで薄いコーヒーは好まれなくなっており,“絶滅”の日が近づいているようです。
-アメリカンコーヒーは胃にやさしい?-
  “薄くて胃にやさしいから”という理由でアメリカンコーヒーを飲む人々がかなりいます。それと反対に,エスプレッソを“濃くて胃に悪い”と極端に嫌う人々も少なくありません。本当にアメリカンが胃にやさしくて,エスプレッソは胃に悪いのでしょうか。コーヒー豆の量を少なくしたり,普通のコーヒーをお湯で薄めて,それをアメリカンコーヒーと言っているのであれば,多少は胃にやさしいかもしれません。ただ,本来のボストンコーヒーをもってアメリカンコーヒーと言うのであれば,アメリカンコーヒーほど胃に悪いコーヒーはないはずです。
  ご存知のように生のコーヒー豆は白っぽいクリーム色をしていて,それを焙煎(ロースト)することで褐色のコーヒー豆になります。その焙煎濃度によってコーヒー豆の刺激性がある程度決まるのです。黒色に近い状態まで焙煎されたものはイタリアンローストと呼ばれ,エスプレッソやカプチーノなどに使われます。濃いこげ茶色になるまで焙煎されたものはフレンチローストと呼ばれ,カフェオレや濃い目のノーマルコーヒーなどに使われます。そして,薄い茶色程度までにしか焙煎されてないものはアメリカンローストと呼ばれ,これが本来のアメリカンコーヒーに使われるものなのです。生のコーヒー豆は多くの刺激物が含まれており,焙煎することによりそれら刺激物がある程度は抜けるのです。ですから,十分に焙煎されたイタリアンローストは刺激物が少なく,焙煎が弱いアメリカンロースは生の豆に近く,そのため多くの刺激物が含まれているのです。しかも,本来のアメリカンコーヒーは粗く挽いた豆をパーコレータなどでグツグツと煮出して抽出するのため,胃に悪いような刺激物がたっぷりと湯に溶け出しているのです。ですから,豆に含まれる刺激物という観点から判断すれば,エスプレッソよりもアメリカンの方がはるかに胃に悪いということになるのです。ただ,あくまでも自分の知っている一面を述べただけで,医学的には別の観点があるのかも知れません。また,コーヒーそのものよりも,それに入れる砂糖の方がずっと胃に悪いと忠告してくれた医師もいました。

トルコのコーヒーカップ(ガラスと銅の小ぶりのカップです)
  今回も歴史が絡み少々くどくなってしまい失礼しました。コーヒーに関してはまだまだ話したい事がありますが,それらはまたの機会にさせていただきたいと考えております。

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