K.H 24

好きな事を綴ります

重力 ルーラー⑨

2020-05-17 11:18:00 | 小説



⑨曲者達の陰謀

 あのテロリスト紛いの3人組は逮捕されると、これまでの経緯を簡単に自白した。ファーザーと言うどの国の人間かも知らず、スイス銀行から多額な送金が入り、命令を受けテロ活動の準備を進めていた事が分かった。また、ポケットティシュ配りの現場で川上巡査部長の公務執行を妨害した事も認め、裁判では、殺人予備罪の公務執行妨害罪で5年の実刑判決が下された。それと、マスコミには『似非テロリスト』とか『身の程知らずテロ』等と報道され、中川と田上、新田の3人の家族も住まいを移らなくてならないくらいのバッシングを受けた。逆に、『格差社会の弊害』と言う者達も居て、半年間くらい話題となり世間を騒がせた。それは、3人はそれぞれ別々の刑務所に収監されても、マスコミ関係者の取材による面会が少なくなく、テレビの特番が放映されたり、本や週刊誌の記事になったからである。その中で彼等を指揮してた『ファーザー』の存在が取り上げられたのだ。
 しかし、『ファーザー』を特定する手懸りはみつからず、謎の人物で終わってしまった。だが、〝我こそがファーザーなり〟とか、〝実はマーザーでした〟等と売名行為に走る輩が現れた。

 そんな中、当の本人のファーザーは、その輩達を秘密裏にヒットマンを遣い死にかける程の負傷を負わせた。命まで奪えなかったのは、正確に言うと、巫女代が力を遣い、死に至らせないようにしたのだ。自分自身が雇ったヒットマンが殺す事が出来ないのはあり得ない事だったため、巫女代の関与は疑っていた。それと同時進行に、特に、田上から巫女代の情報を聞き出すための人間を面会させたりと、情報収集も怠らなかった。
 ファーザーが得た巫女代の情報は情報は、20代前半の女性である事。瞬間移動が出来る事のたった2つだけだった。どうしても、巫女代を捕らえ、自分の指揮下に置きたいとの思いは強く、巫女代を拉致する事に苦慮していた。とにかく、巫女代が現れるような事件を次々と起こしてた。

 一方、巫女代は、一連のマスコミによる報道で、あの3人がアングラの強者の手下だったのが分かり、また、ヒットマンの存在もファーザーの手下と予想し、巫女代自身との接触を図ろうとしていると考えた。
「信子(しんこ)さん、困った事になってるんですが、聞いてもらえませんか?」
 巫女代の力を覚醒させてくれた、巫女代の祖先である鎌倉時代に活躍している信子にタイムスリップして会いに行った。
「巫女代さん、ここまで来れるようになったのですね。凄いですね。頑張りましたね。どうぞ遠慮なく言って下さい。」
 信子は驚きもせず、嬉しそうに言った。
「実はですね。私を捕らえようとしてる人物が居て、色んな事件を起こしてるんです。その度に大事に至らないようにしてるんですけど。なかなかその人物を探し出せないで居て。」
 巫女代は、困惑してる表情を顕に信子に言った。
「困りましたね。恐らく、その人物は、独りではなく複数の人が1つの名を名乗ってる可能性がありますよ。巫女代さん独りで探し当てられないのなら尚更、そう疑います。私、お手伝いします。巫女代さんの時代に行きますよ。」
 信子は頼もしかった。
「そこまで、考えきれませんでした。なるほど、いつもだと、犯罪を犯す人の本心が見えるんですが、誰かに命令されてやった事の先がはっきりと感じられないんですよ。そうか、独りの思いではなくて、複数人が関わってるから、複雑になってるのか。」
 信子の言葉が巫女代にとって、ファーザーを見つけ出す糸口になった。
「巫女代さん、私、何件か抱えてる事があるので、それを済ませて明後日の朝に伺いますね。」
 信子は巫女代がきっかけをみつけたのに気づき、笑顔で巫女代を見送った。
 信子も巫女代も人の怨念や怒りが表情には出しきれてない物が見えるのである。内に秘めた恐ろしい表情が見えて来るのである。信子が言ってたように複数の表情が重なり合うと複雑になって、鮮明な映像にならない訳である。『ファーザー』を特定する事で、また、巫女代の力がレベルアップするのは間違いないだろう。
「巫女代さん、おはようございます。その後、どうですか?」
 爽やかに信子が巫女代の部屋に現れた。丁度、外出する準備が整った時だった。
「はい、まだ、ボヤけているんですが、4人の顔が浮かんで来て、書いてみました。」
 カバンからA6サイズのスケッチブックを出して信子に見せた。一頁に2人づつ描かれて居て、信子は時間をかけてひとりひとりの顔を見た。
「近くに居る人が4人です。後は外国の方です。お役人さん?財閥の長(おさ)、ですかね?」
 信子はポーカーフェイスで巫女代に言った。
「お役人さん?財閥の長?なるほど、警察か検察の上の人。それと、大企業の社長か会長さんかなぁ。ネットで検索しますか。」
 巫女代は、カバンを置き、パソコンを立ち上げた。
「これって、カンピータって機械ですか?巫女代さん高価なものをお持ちなんですね。」
 興味深そうに信子は言った。
「この時代では、庶民にだいぶ普及してるんですよ。パーソナルコンピュータです。略してパソコンって言うんです。とても便利なんだけど、弊害もあってですね。」
 巫女代は検察長庁のホームページから当たって見た。
「この人、似てますね。検事正(けんじせい)と読むのですか?長岡さんかしら。読み方は。」
 信子は、スケッチブックの一頁目の人物を指刺して言った。
「はい、そう読むと思います。うん、似てる。でも、実際に会わないと分かりませんね。私、この人の腹の中見えないです。」
 巫女代はやっぱり時間がかかりそうだと腕組をした。
「このパソコンは電気信号や電波を使ってるのですか?私、入って行けますよ。」
 信子はまたサラッと爽やかに言った。
「えっ、そうなんですか?そっか、電磁波のコントロールするのも応用出来るんだ。大丈夫ですか?身体に負担になりません?」
 巫女代は驚いて、信子の左手を握って不安そうにした。
「はい、大丈夫ですよ。それなりの体力を使うくらいですよ。では、行って来ます。」
 信子は、ホラー映画とは逆のパターンでパソコンのディスプレイの中に入って言った。巫女代は空いた口が塞がらなかったが、自分自身の力に対して、何か固定観念があるのに気づき、もっと色々な体験をしないとならないと思い、同時に信子が簡単にやり退けるのに感銘を受けていた。
 巫女代は信子を待ってる間、ディスプレイに手を翳して、そこから放たれる刺激を感じ取り、手首までディスプレイに入れる事が出来た。すると、信子が戻って来るのが分かった。手首を抜いて待ち構えてると、自分の側に信子が立っていた。
「びっくりしたぁ。お帰んなさい。どうでした?」
 巫女代は驚きを隠さなかった。
「はい、4人が分かりました。電波や電気信号の速度はなかなか速いですね。思ったより楽に出来ましたよ。」
 相変わらず、信子は爽やかな表情のまま。
「えっ、信子さん、初めての試みだったの?」
 益々、巫女代は驚くばかり。
「はい、そうですけど。えっと、最初の人は検事正でしたね。後は、野党第一党の自衛民衆党の党首で、中平で、3人目は、同じ党の岩原(いわばる)で4人目は、日菱銀行の頭取で奥山でした。この人達は社会的に活躍されておられるようですが、裏稼業が悲惨ですね。私利私欲ばかり考えてます。怖い人達です。」
 信子は冷静に巫女代に告げた。
「信子さん、本当に身体、大丈夫?」
 改めて、巫女代は信子な身体を案じた。
「大丈夫ですよ。これでも、巫女代さんより歳下なんですから。私、13歳になったばかりですよ。」
 信子は笑みを返した。
「そうだよね。一応、私のご先祖様だからさ。」
 巫女代に笑顔が戻った。
「巫女代さん、近くに居るこの4人を見てきてもらえませんか?実際に目にするともっと情報がえられると思います。その間、私は外国人をパソコンから追ってみます。」
 信子は新たな提案をした。
 2人は、違う時空に別れ、調査を再開する事にした。
 結果、『ファーザー』は総勢12人だった。3つの国に4人づつの構成になっていた。それぞれの国の権力者で、トップより1段階、2段階、下の者達の集団だ。丁度、お互いが自国で動き易い立場で、最先端の電算機器や兵器を調達し易い立場で、テロリストと言うよりも、テロルを利用して、クーデターを起こし、『ファーザー』メンバーが自分の手を汚す事なく自国の統治者となり、その3国で世界制覇を目論んでる事が分かった。また、巫女代の個人情報も集めていた。家族構成と生活様式、巫女代が力を発揮した時の監視カメラ映像等だった。だが、何故、巫女代がそんな力を持てるようになった理由と信子の存在は分かってなかった。
「巫女代さん、この人達の企み止めないといけませんね。この人達の影響で犠牲者が多くでます。そして、世界征服したとしても、この人達のエゴを優先して、また、対立が出来て、人類が危機にさらされる可能性が高いですよ。」
 信子は冷静に提案した。
「うん、私も同じように考えていた。どんな方法が良いかしら。私が、私の力で抑え込むのはナンセンスよね。私を利用しようとするわね。信子さんの存在は知られたくないし。」
 巫女代は結論を出せないでいた。
「巫女代さん、話し合いです。それしかないですよ。その時は、この時代に巫女代さん独りで居た方が良いから、将嗣(まさつぐ)さんや将臣(まさおみ)さん、当然、橙子さん達を私の時代に連れて行きます。そして、解決したら戻ってもらう。と言うのは如何ですか。」
 巫女代の信子に対するリスペクトは益々強い物になって言った。
「その方向で進めた方が良いね。もっと具体的な計画立てなきゃ。」
 巫女代は腹を括り挑む事にした。

つづく




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