齋藤百鬼の俳句閑日

俳句に遊び遊ばれて

「句集 いとう句会」(小島政二郎)

2007年10月30日 | Weblog
さいばら元気さんらがやっている『週刊俳句』が、角川俳句賞の落選句を載せている。ただし作者の応募による。
こういう企画は面白い。昔も似たものがあった。芥川賞にノミネートされ、惜しくも落選となった作家に「芥川賞落選の弁」を書いてもらうという某書評紙の企画。
選考理由に対して、落ちた者にも言い分があるということだろう。
『週刊俳句』の場合は、少し趣旨は違うようだが、僕など落選作品のほうに興味が湧くほうだから、これは面白かった。また、やってほしいものだ。

◎・・今回は小島政二郎。俳号はそのまま「政二郎」です。五十句収録。
芥川、菊池寛などとの文学修業時代の交友を書いた『眼中の人』は興味深く読んだ。「眼中の人」というよき言葉もこれで知ったと思う。
それにしても政二郎の句に、詞書が多いのに驚いた。五十句のうち、なんと半分の二十五句に付けている。

  自嘲
 いくとせや貸家住ひの三ケ日

  山科
 竹藪の静かに春を茂りけり

 どうだんの花のまはりの甘さかな

  宮田重雄画伯筆「微笑仏」の前にて
 春の耳ゆたかに垂れておはしけり

  無季
 朝水や喉ひとすじの風の味

  河童忌、写真に香を焚く
 すがすがと仏はいます暑さかな

  はや十四年とはなりぬ
 河童忌やわれ老ひらくの歯のゆるみ

  全集出でて二十年
 河童忌や表紙の紺も手ずれけり

 さんらんと蜥蜴一匹走るなり

  寺田青瓜君新婚
 ころもがへ華やぐ一ト間一ト間かな

  東大寺金堂の礎石の前にて
 秋風の行きつ戻りつ石の上

 うつくしき鰯の肌の濃さうすさ

 秋風や吸取紙の白きまま

 下京や粉雪のなかにともりけり

  軍部に睨まれて小説を書く自由を持たず
  まさに門前雀羅なり
 小春日や爪の垢とる影法師

  けふこの頃の心境
 行き行きて行きつく先は小春かな

  病む
 膝うづく木枯の日のつづきけり

 かき餅や炬燵の上の焼きざまし

◎・・最後の二句が、どうも可笑しな句で理解しかねていますが、小説家はここまで描写しないと納得できないということなのだろう。僕はこういう句は、嫌いじゃありませんが。

 おならしつつ行く人のある夜寒かな

  老来
 鼻くその小さく凍ててこぼれけり

2 コメント

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阿部様へ (百鬼)
2007-10-30 20:12:25
『週刊俳句』はネット・マガジンですから、検索すればすぐ無料で読めます。落選者の中にSで一緒だったNさんもいます。是非ともご覧になってください。僕のブックマークからも入れます。
小島政二郎さんは真面目な方でしたよ。芥川、菊池という天才、奇才に挟まれて若き時にコンプレックスに苦しんで大衆小説に行って花が咲きました。「眼中の人」は俳句の話も出てきて面白い本です。
「おなら」と「鼻くそ」を採られましたね。笑。こういう句は句会ならではの句ですね。結社では、それこそ怒られます。笑。有難うございました。
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懐かしい (阿部  昭)
2007-10-30 17:41:47
落選句だけを取り上げる雑誌もあるのですか。これに掲載されるのも難しいのでしょうね。でも、講評も書かれてみたいですね。

小島政次郎 懐かしい名前に逢いました。(人妻椿の作者ですね)作品は読んだことはありませんが、名前だけは知っていました。
司書が多いのは憶測ですが。真面目すぎる性格ではないでしょうか。それは兎も角、参考にはなりますね。

好きな句としては

すがすがと仏はいます暑さかな
河童忌やわれ老ひらくの歯のゆるみ
秋風の行きつ戻りつ石の上
秋風や吸取紙の白きまま
小春日や爪の垢とる影法師
おならしつつ行く人のある夜寒かな
鼻くその小さく凍ててこぼれけり

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