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下川裕治著「東南アジア全鉄道制覇の旅(タイ・ミャンマー迷走編)」発売記念トークショー

9月7日木曜日に開催された紀行作家下川裕治先生の「東南アジア全鉄道制覇の旅(タイ・ミャンマー迷走編)」発売記念トークショーに参加してきました。

以前にこのブログに感想文を書いたこともありましたが、私は下川裕治氏が好きで高校生ぐらいの頃から下川氏の本を読んでいたもので・・

http://yaplog.jp/kiyop/archive/2102
読書ー下川裕治著「世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ」
これとか・・・

下川氏のトークショーは新刊発売時などに時々開催されているようですが、神奈川県方面から西荻窪は行きづらくて夜開催だと帰りも厳しく、前から気になっていたものの参加するのは今回が初めて
今回は「東南アジア全鉄道制覇の旅(タイ・ミャンマー編)」ということで「鉄道の話」というもあって、初めて参加してみることにしました。
初めて実際にお会いできるということで楽しみにしていました




会場は西荻窪の「旅の本屋のまど」
西荻窪駅を降りて吉祥寺に向かって右側(北口)を出て吉祥寺方向に歩くこと10分弱
旅に関する本を新刊・古本の区別なく並べているという変わったスタイルの「旅行書の専門書店」のよう。
日本では配本制度なる新刊が問屋から書店に自動的に送られてくるシステムの関係でこういった特定のテーマに拘った書店というのは珍しいそうですね。


8月26日に申し込んだ時点では席に余裕があるので「知人友人にも是非紹介して・・」ということでしたが、実際は立ち見が出るほどの満員御礼な盛況ぶり。早めに申し込んでおいてよかったです。
会場は書店の店内を片付けてベンチ(というよりも縁側に置く台?)を並べたようなアジアな雰囲気本の内容に準拠しているような

参加費用は1000円(書籍代は別)。最初の受付で支払います。


ということで講演がスタートしたわけですが、
今日は西荻窪に来る途中でリポビタンDを飲んできた。今回のミャンマーの旅は思い出すだけで体力を削がれ栄養ドリンクを飲まないとやってられない・・
ミャンマーの鉄道は「魅力がない」「いいところが殆どない」「参考にならない旅」「聞けば聞くほど行きたくなくなる」「誰からも評価されない」・・・・その他

といった調子で今回の内容を一文にまとめれば
終始「行ってはいけない。乗ってはいけない。お勧めできないミャンマー鉄道」に尽きるような・・。ただ「鉄道ファンなら楽しめる部分もあるかも・・」と多少のフォローがありましたが・・。



こちらが本にも掲載されている(世界初)のミャンマー鉄道の路線図
ミャンマー国鉄本部でも地方ローカル線の存否・運行状態など全容は把握しておらず、この資料はミャンマー人の友人を通じて国鉄本部から入手した資料を元に、口コミや現地調査で判明した運行路線を追加したものだそう。

今までの旅はカメラマンと同行していたものの、今回のミャンマー鉄道制覇は大半は一人旅。制覇対象のミャンマー鉄道自体の全容がわからずいつ終わるか知れない旅に、他にも仕事を抱えているカメラマンを連れていけない事情があるそう。

またローカル線は遅い・揺れる・夏は暑く(灼熱地獄)冬は寒い・車内は虫だらけで虫と共に生きる世界で、軌道状態は最悪で、植民地時代よりも独立後の開通区間の方が酷い。老朽化というよりも手抜き工事が原因ではないか?といった話。運行速度は遅く時速15~20km程度。
よくテレビ番組で「旅情あふれる東南アジアの鉄道紀行」のように映像が紹介されるが、本当に酷い状態になっている時はとても動画や画像を撮影できないことを身をもって経験した・・



これがミャンマー鉄道ローカル線の代表的な車両の車内風景。
車両中央にベンチシートがあり窓に向かって座るスタイル。ローカル線では時折走行中に窓から木の枝が入ってきて顔を殴られるので窓沿いに座れない。という事情もあるそうで。「駅に行ってこのタイプ車両が止まっていたら乗るのは止めた方がいい」そうで・・。

乗客の7~8割は市場に農作物を売りに行く女性。ダイヤも1日1往復で、早朝5時頃に市場がある街に向けて出発して、市場が終わった昼過ぎに戻るという完全な物流列車の様相。また折返し駅では運転士・車掌は車内に寝て翌朝の乗務に就くそう。

早朝5時頃の発車が多く3時起きもザラ。ただ6時台ぐらいに途中駅で30分程度の朝食停車があることも。「だったらもう30分始発駅の発車を遅くしてよ」と言いたくなる



ターミナル駅で列車待ちをするおばちゃん軍団。
ホームに行ってこの一団がいたら、その列車は酷い状態なので乗ったらダメ。自分はこの一団がいるホームを探して乗るような状態だった。そう

災害等で運行不能区間が生じても分断区間では残った機関車・客車を利用して区間運転を行う(これまた状況が掴みづらく完乗が難しい)



タウンジの分断区間で運行されていた車両。
分断されていて車両を送り込めないので致命的に壊れたら廃線かも??と・・

しぶとく区間運転をしてでも運行を維持する理由の推測として
運行しないと乗務員・駅員など鉄道員(公務員)が失業してしまう
ミャンマー鉄道は運賃が激安(値上げされずずっと据え置き)で数十円の世界。バスと一桁違う運賃なので赤字前提の運営
政府には低運賃による低所得者層への社会福祉と説明して補助金を得ている。
という社会福祉的な建前で運行が継続(特に地方ローカル線)されているのではないか
といった話が・・・。



ミャンマー鉄道の切符
券番のフォントが妙に日本的なような・・イギリス式なんでしょうか??

車両は日本の中古車(日本車両は地方路線のエース)を大量導入し、劣悪な軌道状態などからも考えるに、赤字と言っても運行コスト自体がかなり安いことが推測できますが・・・この「低所得者層への社会福祉として形だけ運賃を徴収して補助金で運行を行う」というのはある意味で日本の自治体コミュニティバスの運営スキームに似ています。

日本では公共交通趣味界でも公共交通への補助金(公的資金)投入論は頻出ですが「口は出さずに自由に使える金が欲しい」といった類の「打ち出の小づち」的意見に終始しているのが多いことも含め、色々と考えさせられるものがあります。



日本から渡った車両も多数活躍していて地方路線のエースになっているよう。
昔乗った車両にもう一度乗りたい。といった懐かしの日本の旧型車両を目当ての日本人旅行者人気もある

紹介された動画では「キハ48 302」といった車番が確認できました
「学園都市線」のシールが残る車両がミャンマーではコンピューター大学への通学路線で使われているというのも面白いような。
ただ日本車両は車高が高く、まともにホームがないミャンマーでは乗り降りに一苦労のようで・・。乗客にはお年寄りもいるので乗客同士で助け合って・・だそうで。

旅行中に困ったことになっても、最近のミャンマーは意外に何とかしてくれるそうで・・・。
特に地方では外国人が入境できなかった時代の名残で捕まったり不審者として扱われることもあるとか



地方の小駅では運転士がポイント手前で列車を止めて手動で切り替えるのも当たり前だそう。

区間によっては運転士の好意で運転台に乗せてもらったりもしたそう。
運転台の表示等は日本時代そのまま。運転士によってはスイッチなどにメモを貼って対応しているそう。
運転風景も日本では考えられない状態で駅停車中はスマホをやったりも当たり前とか・・・
運転席の旅もよいが途中駅では物売りが来ないので、事前に用意しないと飲まず食わずの旅になるそうで・・

ここでスマホという言葉が出てきたのは衝撃的・・・
今まで現代日本社会とは隔絶された別世界な鉄道風景を写真・動画で紹介されてきたのですが、なんとここで「運転士がスマホを操作」という話が・・・こんな隔絶されたような別世界でも一方では日本と同じスマホ社会化しているというのはミスマッチ感というか衝撃的でさえあります。
今まで話に出なかっただけで、劣悪な環境の列車内でも乗客がスマホを使って・・とかなのかもですが。

ミャンマーでの携帯電話・スマートフォンの普及状況・通信環境に関しては、携帯電話研究家・山根康宏博士のレポートでも紹介されていますが、日本が辿ったような固定電話→フィチャーフォン型携帯電話のような進化を飛ばして、一挙にスマートフォン時代に突入。ヤンゴンのような大都会では有名メーカーが巨大な広告看板を出し街には販売店が並び・・・といった状況になっていることが既に紹介されています。

通信環境の話では下川氏もある時、SIMカードを求めたら300ドルと言われて断念したのが、1~2か月後に訪れたら3ドルだった。とか、データパックを買ったものの、使っても使っても上限に達せずしかも激安。といった話も。

日本の常識と遠く離れた「鉄道の原風景?亜風景??」のような鉄道風景が展開されている中で、急速に進化しているミャンマー社会の対比を考えると、新興国のパワーの一端を伺えるような気もします。



軍事政権時代に建てられたものの、まともに使われていない駅舎
当時の標準設計??



まるで貨物列車の車掌車のようなローカル線の客貨車。



旧式のディーゼル機関車
田舎に行けば珍車・レア車にも出会えるかも・・・のような

鉄道のみならずミャンマーの旅。に関する話としては
中国雲南省の昆明から国境を抜けラーショ・そこからヤンゴンに抜ける旅も長旅になるがお勧め。
タイとの国境はかなり開いているが、中国国境も一部開いていて旅行者も通過可能。
ただバングラディシュ国境に関してはロヒンシャの問題など少数民族対立の関係などで無理。
いわゆるゴールデントライアングルと呼ばれるエリアは、周辺国が社会主義化するなかで米国が資金投下するなどで関与。のちに米国に協力した民族は迫害を受けるなど苦難に。米国のどこぞやにミャンマー移民(難民)が多いのはそのためといった暗い話題も・・。

明るい話として、ヤンゴンの西パティンにはこれからミャンマーに行くならぜひ行くべき。昔の貿易港で中国とインドの文化が融合した古い街並みが楽しめる。ヤンゴンからバスで5時間だそう

ミャンマー鉄道で幹線格のお勧め出来る列車・区間は乗客の格好からして違う
お勧めできない市場列車とは明らかに違う。
ローカル線ではヤンゴン~マンダオ・ミッチーナ。ヤンゴン~パコはまぁ乗ってもいい。
夏冬意外で2時間程度が限度

最後にタイ鉄道の話にも触れ
ミャンマーとは雲泥の差である。
南の方の各駅停車は昔ながらの物売りがいて、しかも美味しい弁当が買える
一方で優等列車は空調完備で車内食が配られるものの電子レンジ調理。急行・特急はアジアらしさがない
各駅停車は福祉政策(政権の選挙対策)で無料で0円の切符を発行する。外国人は有料(といっても300円とか)
地方では窓口に0円きっぷがおいてあり自由に取れる。そこにパスポートを提示して外国人切符を強引に買おうとすると「仕事をしたくない駅員」を困らせ、手を煩わせることになりあれこれ・・。よってそういう場合は無料切符でキセルをするのが正しい旅行者の在り方

ただタイは遅れが多く出発は定時だが到着は2~3時間遅れもザラ。一方でミャンマー鉄道は遅れない。おそらく時速10~20km程度の運行を前提にダイヤを組んでいて余裕があるのでは?
またタイでは乗換え・乗り継ぎの概念はない。

強引に切符を買おうとすると・・・の件は、私が以前に日本の神奈川県のJR御殿場線で、無人駅間で乗車した時に、車掌のところに行き切符を求めたら「忙しいから・・」とかなんとか言われて言外に「払わないでいいから着いたら勝手に降りて」と言われたのを、無理やり切符を売らせたことを思い出すような・・・
やはりあれは正しい乗客の姿ではなかったのか


ミャンマーのヤンゴン市街では最近駅が実質的に機能していない(利用されていない)反面、踏切では踏切番が切符販売を行い踏切が駅のようになっている。(もちろん列車は踏切で止まる)
乗客にとってもミャンマーでよく利用されているバイクタクシーへの乗り換えも駅よりも踏切の方が都合がよい(バイクタクシーが客待ちしやすい)ので踏切の駅化が便利。とか・・


最後に若干の質疑応答があり21時30分近くに終了。その後に本の販売とサイン会に。
実のところ西荻窪22時には電車に乗らないといけなかった私にはかなり厳しい時間で・・・運よく最初の方でサインを書いてもらえたので、早々に会場を後にしてなんとか間に合いました。
本当はサイン会終了の最後の最後までいれば、1.5次会ではないですがちょっとした裏話の披露とか+αもあるかもなので最後までいたかったのですが・・・。

30分早めて19時スタートならよかったまぁ講演終了で22時30分とかなら、帰るのを止めて新宿あたりのネカフェで夜を明かすとか諦めも付くのですが



サインを書いてもらった今回の著作。690円
下川氏の著作は文庫本が多くてリーズナブルなのが嬉しいですね。

長年好きだった・・といっても初期の頃は図書館で借りてとかブックオフで・・とかなので誇れるものではないのですが・・・。このブログに感想を書くようになってからは新刊で買ってます

ちなみに下川氏はこの後は羽田空港から飛んで、現在進めているカンボジア鉄道完乗の旅に向かうそうで・・。
翌朝6時発の香港エクスプレスでしょうか??ということは空港で寝るのかな??ワイルドですね



記念撮影にも応じていただけましたが、緊張しますね
初めて実際に下川裕治氏にお会いすることが出来て嬉しいです。

下川氏の姿は著作の中で時々写真が出ていたり文中「僕ももう還暦を過ぎ・・」のような記述が時折出ますが、ユーラシア大陸バス横断とかこのミャンマー鉄道全線完乗にしろ、ハードな旅をこなしているとは思えないような柔和な方でした。


日本の鉄道の常識が全く通用しないようなミャンマーの鉄道。モリゾウ国の鉄道は日本の鉄道のようなシステム化されたものではなくミャンマー鉄道のようなスタイルなのかな・・と想像が

日本の鉄道趣味界では、一定のエリアを区切り「〇〇全線完乗」(〇〇鉄道全線とかJR全線とか日本全線とか)を目指す。というのはメジャーな趣味スタイル。全線完乗をしたとか目指しているという話はよく聞きます。
また旅行などで初めて訪れた都市で1日乗車券のようなものを使い、とりあえず地下鉄や路面電車など都市鉄道の全線完乗を目指しながら回る。というのはあるあるです。

今回の下川裕治氏の東南アジア鉄道全線完乗、ミャンマー鉄道全線完乗というのはそういった鉄道趣味のスタイルからみればオーソドックスなものの一つと言えそうですが、「現地に行かないと運行ダイヤが分からない」以前に全線完乗すべく鉄道の全容が把握できない。
それこそ現地に行かないと路線の存在が分からない。乗っても乗っても新たな路線が現れる。というのはいわゆる「全線完乗」からは想像も出来ないものでしょう

日本で日本全線完乗を目指していても、廃線や新規路線の開業に振り回されるのはよく聞く話ですが、ミャンマーではそもそも日本のような鉄道路線の明確な廃線という概念は存在はなくあくまで休止(日本のような手続き上の廃止前提の休止ではなく本当の休止)
今月休止だった路線が翌月には突然に運行が再開される。というのもあるあるで、尚更に全線完乗を難しくしているそうで・・。

日本の鉄道趣味界では海外鉄道は非常に不人気。不人気以前に嫌いなのでは?というぐらいで、鉄道雑誌では海外記事が載っているだけで売上が下がる、批判の投書が来る。という話もあるぐらいです。
その不人気の理由の一つに「情報がなく全容どころか状況が分らない」など情報のなさも言われますが、情報がない中で、全線完乗を進める中でミャンマー国鉄本部ですら持っていない路線図を作り上げる下川氏の姿は、開拓者精神そのもの。鉄道ファンとしての下川氏の姿は是非見習いたい姿とも思います。

今回のトークショーでは「行ってはいけない。乗ってはいけない。お勧めできない」の連発でしたが「鉄道ファンなら楽しめる部分もあるかも」というフォローも。
下川氏の鉄道旅の著作は「意外に乗り気でスタート」のような雰囲気を感じたりしますが、やはり鉄道ファンな下川氏だからこそミャンマー全線完乗を目指せるのかもですね。


話の流れ、紹介順は記事構成・執筆の関係で、実際とは違っています。

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2017/9/9 5:00(JST)
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