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読書-大賀寿郎著「路面電車発展史」

さて今回は久しぶりに鉄道書の紹介です。

今回紹介するのはこちら



大賀寿郎著 「路面電車発展史」(世界を制覇したPCCカーとタトラカー)
2016年3月 戎光祥レイルウェイリブレット1 1620円

本書は全143ページ(うち16ページは巻頭カラーグラフ)
「第1章・技師の時代」「第2章・研究実用化の時代」「第3章・拡散の時代」「第4章・脱皮の時代」
の4章構成になっています。



全体的に写真や図版が多く、登場する色々な車両がビジュアルで見てとれますね。

以下に各章ごとに紹介と感想を書いていくとします。

第1章では「電車」の登場のその背景とその前段となる「馬車鉄道」や「都市型ケーブルカー」も紹介し「電車」が登場した時代を紹介。
都市型ケーブルカーは有名なサンフランシスコケーブルカーがこのタイプですが、日本では存在したことがないシステム。サンフランシスコのものは子供の頃に見た絵本で印象が強いですが、実に電車が発明される前の輸送システムであり、米国ではそこそこの都市で採用されていたよう

近代になってエジソンやベルといった有名な発明家達が、現代の私たちの生活に根ざしている色々なものを発明しますが、この第1章で登場する米国の技師「フランク・ジュリアン・スプレイグ」氏は現代に通じる実用的な「電車」を発明した人。
「鉄道を発明した人」としては蒸気機関車を発明したスチーブンソンが有名ですが、こちらスプレイグも覚えておきたいものですね。

第1章では当時の米国での社会情勢など、後のPCCカー登場の背景となる部分が多く記述されています。


第2章では1930年代の米国、自動車の普及などによる急激な電車の衰退に危機感を持った、電鉄会社、車両メーカー・機器メーカーが協同して開発グループ(ERPCC)を立ち上げたことがメインテーマ。

ここで米国で一時代を築くPCCカーが登場し、PCCカーに採用された当時最新の技術を紹介。直角カルダン駆動・弾性車輪・自動進段制御・停車寸前まで減速できる電気ブレーキといった、その後の日本の普通鉄道でも続々採用される技術が登場します。

ここで私が特筆したいのは、
ERPCC委員の一人であった(電車の専門家ではない)研究者ハーシュフェルド氏の提言
「今回実用化する電車の設計寿命は10年程度としたい。10年を経過するとデザインも技術も陳腐化する。バスや自動車と互角に競争する為には、車両の更改を続けなければならない」
というもの。結局は電鉄経営者からの反発で「15年程度」となったとのことですが・・・

現代日本でも当時の米国と同じく鉄道車両の寿命は30~40年もの長期間。最近は鉄道車両も進化が遅くなった感がありますが、デビューから10年も経てばとても新車とは呼べなくなり陳腐化しています。

例えば00年代初頭に登場したJR・E231系も既に陳腐化しているものの、鉄道の世界ではまだまだ新車と呼ばれている有様。多くの事業者ではデビューから20年近く経つと更新工事で車内や機器がリニューアルされますが、バスや自動車に較べると遅いサイクル。
90年代になり「走るんです」と呼ばれたJR209系のように陳腐化に対抗して15年程度で捨てても惜しくない車両。が試行されたりもしていますが、この「鉄道車両の長すぎる寿命と陳腐化」について、1930年代の米国で既に提言され克服への挑戦が起きていたことは注目したいです。


第3章では、米国で一時代を築いたPCCカーが第2次大戦中後の米ソが仲がよかった時代から東西冷戦成立のギリギリのタイミングで、東側とライセンス契約が結ばれて製造されたチェコ製タトラカーを主体に記述。

タトラカーとはチェコのタトラ社で製造された路面電車シリーズの総称(のようなもの)。1952年から90年代までの長期間、2万両以上も大量生産され東ドイツから北朝鮮にいたる東側陣営の多くの都市を支配するかのごとく走り回ります。

この「タトラカー」は鉄道雑誌などでも旧東側都市の訪問記などの中で写真も時々登場。窓が大きく美しい車体デザインが目を引き知られている?ものの、残念ながら技術面での詳細は不明なものでした。
私もタトラカーの特徴的な美しい車体に惹かれ興味はあったものの、実は米国PCCカーの直系の後継車であり、更に初期のタトラカーは、日本唯一の純PCCカー都電5501号の兄弟車であることなどをはじめて知ることが出来ました。
本書では日本語で読めるタトラカーに関する書籍としても貴重なものになっています。ただ紙数の都合からかタトラカーのあたりは少々駆け足になってしまっているのは残念ですね


第4章では、戦後日本の和製PCCカーと呼ばれる高性能車両。現代の超低床車両のさきがけとなった東急200系(ペコちゃん)などから、近年の超低床車両時代となり欧州各社・国内各社で試行錯誤されている超低床車両も紹介されています。

この中では1978年にスタートした軽快電車プロジェクトも紹介。ここで軽快電車プロジェクトの成果の一つとして「軽快電車」という造語であり「軽快電車」という言葉こそLRT・LRVの和訳として最適ではないかと提案。
本書でも触れられていますが、この軽快電車で超低床車を考慮していなかったのは残念。この後、VVVF制御などの進化はあるものの、超低床車は90年代終わりに広島や熊本で導入された車両のように欧州からの技術輸入まで実現しません。

路面電車が元気な広島や熊本なども「軽快電車」の時代以降、続々と高床(通常型)の新型車をデビューさせるも、名鉄800形のような部分低床車すらなかったのはなんとも。

世間では「LRT=超低床の新型路面電車」とする風潮もありますが、超低床車は欧州であってもまだ発展途上である中で、米国や世田谷線・大雄山線のような高床車両+高床ホームも一つのバリアフリーへの解ではないかと提案しています。


本書は「路面電車発展史」というタイトルになっていますが、電車(電気で走る鉄道車両)の技術というのは、そもそもは路面電車からスタートしたもの。路面電車で実用化された「電車」が徐々に進化して普通の鉄道、そして新幹線など超高速鉄道へと進化を辿ったものといえます。
その意味では、特に第1章の内容は路面電車に限らず「電車の起源」を辿る意味でも有意義なものといえます。また第2章、第3章では、米国で成功し電車の救世主となったPCCカーに刺激を受けて、地下鉄など普通の鉄道にPCC技術が採用された例も紹介しています。

全体的にPCCカーがデビューした米国と拡散した欧州での記述が中心ですが、日本国内での動きに関しては、戦後PCCカーライセンスで製造された東京都電5501号・和製PCCカー、近年の軽快電車から超低床車時代が紹介されています。


ちなみに本書の著者は芝浦工業大学名誉教授の大賀寿郎氏。
本業の音響工学では大学の教科書などの出版経験があるものの、鉄道書は初めてだそう。
ちなみに近年の鉄道雑誌執筆では、鉄道ピクトリアル2015年1月号(899号)にて、「111年前に時速210キロで走った電車」として、1903年にプロイセン国鉄で達成された電車での時速210キロの高速試験走行に関するレポートがあります。
(詳しくはこちら)
http://yaplog.jp/kiyop/archive/2376

大賀氏の話では、当初本書の企画を知人の紹介で鉄道書の出版実績が多い出版社にも持ち込んだものの、鉄道趣味の中でも特にマイナー分野となる「海外」かつ「路面電車」というマイナーの2乗で売上が期待できないと断られたそう。その中で歴史書の出版が主体なものの最近に鉄道書の出版も積極的に行なっている戎光祥出版からの出版となったそうです。

日本の鉄道趣味界では海外分野は非常にマイナー。辛うじて日本の隣国の韓国や台湾は、車両や運行、実際の乗車に至るまで割りと情報がありますが、全体的に情報不足となっています。
こういった中で、本書は米国で一時代を築き、共産圏の顔となったPCCカーと後継のタトラカーに関して手軽に日本語で読める本。また「電車」技術の発祥と基礎をわかりやすく知ることが出来る面でも意義があります。


本記事では路面電車ではない、普通の電車のことを便宜的に「普通鉄道」としました。
この路面電車とそうでない電車。という分け方は本書の内容からにあまり適切ではないと感じます。
ちなみに本文中では日本の大手私鉄などを「私鉄高速電車」として日本独自のカテゴリーとしています。


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2016/4/14 12:06(JST)
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