『木くばり屋』

身の回りの自然と付き合って生きるのが、山に生きる人の暮らしだと思います。のんびり実践しながら、報告してゆきます。

緑のダムと健康な森づくり ~恵那市中野方町~ 感想

2008年09月06日 | 森の話
「緑のダムと健康な森づくり」

チラシ、案内文はこちら



本日、「恵那笠置山 森のデザイン実行委員会」と恵那市、地元・中野方のまちづくり委員会、NPO法人夕立山森林塾
が主催をして、上記のイベントを開催した。
私、&は事務局としての参加である。
この一週間はほとんどこのイベントの事務に時間を割いていた。

今回のは「えなの森づくり基本計画」策定記念事業でもあるので、地元ケーブルテレビが最後まで取材に入った。そのうち、コミュニティチャンネルで嫌になるほど延々と繰り返し放映されるのだろう。


今回のイベントは、タイトルどおり
おそらく誰もが理解しているつもりの、「森林」と「水」との密接なかかわりについて学ぶことが目的だ。
行事は二部構成で、
一部で、源流にある二つのダムと、その背後の森林の状況を見て、
二部で、森林と水の関わりを科学的に研究されている第一人者から
その実態を講演いただく、というものである。

「緑のダム」という言葉は様々なところで使われているのを見かけるし、
なんとなく理解している気がするものの姿をきちんと捉えなおそうという試みである。




◆第一部
「二つのダム」のうちの一つが、
日本棚田百選の一つ、坂折棚田。

ダムじゃない? そんなことはない。

そもそも、ダムは単に「堰き止め」の意味であり、コンクリート製のものを指す言葉ではない。
四川省や山古志村の地震で出来た崩壊による堰き止め湖も当然ダムである。
田んぼはたくさんの水を蓄え、多すぎたら排水する。
降雨の流出を平準化する作用があるという意味で、田んぼも立派なダムにあたる。

また、坂折棚田は水源となる「ため池」が存在しないのが面白いところ。
坂折川からの引き込みと、湧水によって水を賄っている。
坂折川の源流は山上の尾根と尾根のくぼみ(たわ)にある湿地である。
湧水があるのは、「赤河断層」という構造線上に位置するためだろうか?

当初、1時間くらい取れるハズだったのだが、
広報してからもう一度企画してみると30分も取れないことが判明。
解説に多く時間が費やされ、
10分程度しか自由時間が取れなかったのは残念。
湧水の様子等々の坂折棚田の仕組みは、僕自身知識としては聞いていても、
仕組みとしてどうなっているのかは分かっていなかったからだ。

この日は残暑が厳しく、連夜の雨の名残で湿度も高くかなり不快で、
日陰に逃げたかった。主催事務局としては反省したが、
この後、暑さのせいでけっこう疲れが出て、
プロジェクターを用いた適度な暗がりの中での講演会で
寝ていた人も多かったことを考えると……。???
欲張りすぎてはいけない。




二つ目のダムが、中野方住民の飲み水であり、農業用水でもあり、治水用でもある「中野方ダム」。
平成18年ごろ竣工された新しいダムだ。
ダムから取水する水を利用するのが中野方の人たちだけを対象に設計されているこのダムの特徴は、
地形的制約ゆえに堤の幅は400mもの長さを誇るが、集水面積はたったの1平方kmほど、湖面は三角形で奥行きがほとんどないことだろう。
「どれだけ立派なダムかと思って覗いてみるとほんのちょっとしかない(地元のSさん)」。
堤の上から遠くを見ると、坂折棚田のほか、ちらほらと湖水面より上に家が分布しているのが見える。
7、8箇所でポンプアップして、ため池があって、そこから各家庭に引いているそうだ。
また、上水道加入率は高いものの、基本料金だけ払って今でも井戸や山の水しか使わない人がかなりいるようだった。

さて、今回この中野方ダムを見学したのは、水源の森を見たいという地元の意見と、「水の量が減った」という地元の実感である。
水が減ったことを証明しているのは、当初このダムが予期していなかった、笠置河合地区へのダムの水の配水という事態である。
河合地区は中野方川の下流にある。当初、河合は裏山の沢の水で調達する予定だったのだが、渇水によりダムの水を使うことになったのである。
当初は考慮してなかった地区が新たにダムの恩恵にあずかるには、配管の延長工事、水利権の問題など、いろいろ問題があったことが想像されるが、
ともかく今年4月から、笠置河合も中野方ダムの水を引いているのだった。




ダムの源流の森へ入ってゆく。
歩く道は「黒瀬街道」という、苗木藩と黒瀬湊(八百津)を結んでいた旧街道である。
源流の森はほとんどが人工林なのだが、管理は行き届いていないよう。
中には植えてから一回も間伐していないだろう箇所もあった。
立ち枯れも多かったが、実生のヒョロっとしたものがしぶとく生き残っており、けっこうな量があるのが少々意外だった。
(とはいえ枯れるのは時間の問題)
間伐をしてもお金がかかるだけがから、投資意欲が低下する。
地元案内人のSさん、地元の主催人のIさんらは自身で山林を間伐・伐採して製材に出している森林管理に積極的な方たちだが、
その方たちの、「ホームセンターで買ったほうが圧倒的に安い」という言葉には実感がこもる。
それでも山の手入れに使命を持ってやっておられた。本当に頭が下がる思いがする。
Sさんは、伐った木を自宅のリフォームに使われるそうだが、最低三年間は置いておけ、という教えに従って自宅にストックされていた。
Iさんは搬出用に自分で架線を引いたらしいが、10年ほど使わずにいたら錆びてしまった……とおっしゃられていた。



黒瀬街道はダムに注ぐ最も大きな沢沿いに進む。最も大きなといっても、集水面積が狭いのでたかが知れている。
適当なところで、足助きこり塾の稲垣さんが「森の健康診断」の手法により調べると、
この辺りでは100平米で20本(さらに古損が9本)=1haあたり2,000本(古損含め約3,000本)植わっていた。
ある程度の年令の適正な人工林では、1haあたり800~1,000本が理想なので、
このダムの集水域の森を人工林として適正に管理するには、半分以上の間伐が必要だということになる。


ダムの上には砂防ダムが一つ設置されていた。
無論、ダムに土砂、流木が流れ込むのを防ぐためである。
土砂がダムに流れ込めば、ダムが埋まって貯水量が減る。
流木などの有機物が流れ込めば富栄養化して水質が低下する。


終わりがけ、案内人のSさんが、ヒノキを削って作った箸を一膳ずつくださった。
普通の箸なら特に感慨は感じないのだが、
この箸は、Sさんの既に亡くなられた先輩が作って遺したものだった。
そういう一言を、背景を知るか知らないかで物への入れ込みは変わるのだろうか、
山で生きてきた人の息遣いを感じられる、雰囲気のある箸に思えた。