Kesaru Note

チベットの史詩『ケサル大王』を読みながら思ったこと

シッキムの旅

2015-11-23 16:17:53 | ケサル
阿来『ケサル王』 129  語り部 埋蔵
http://blog.goo.ne.jp/aba-tabi


この夏、シッキムに行って来ました。その時の感想を寒くなる前に。
予備知識を持たず辿り着き、検索しようにもネットがなかなか繋がらない山の中で、手探り状態でした。

インドの地図の右上―コルカタの真っ直ぐ北に小さく突き出たところがありますが、そこがシッキムです。ネパールとブータンに挟まれ、北の中国(チベット)とは、ヒマラヤで隔てられています。

シッキム王国の建国は1642年。
ガイドブックによると、「チベットにダライ・ラマによる政権が出来ると、ゲルグ派と対立するニンマ派の僧たちが亡命して来てシッキム王国を作った」とあります。ニンマ派はチベットで最も古い宗派でボン教をその元としています。特に集団を作っているようではなかったということなのですが。
チベットでは、後にツォンカバという天才的な宗教家が現われゲルグ派を起こし、他の宗派を抑え優位を占めるようになって行きます。

1642年、モンゴルから土地を寄進され、ダライラマ五世を主と仰ぎ、ゲルグ派の政権ガンデンポタンが成立します。新政権は、他の宗派も行っていた活佛の転生制度を採り入れます。それが今に続くダライラマの制度です。

ここで面白いのは、このダライ・ラマ五世はニンマ派の血筋から出ている、ということです。ゲルグ派が勢力の大きかったニンマ派を取り込もうとしたようです。ですので、新政権は他宗派に対して寛容だった、と「裸形のチベット」には書かれています。では、なぜ、ニンマ派の僧たちはヒマラヤを超えて行ったか、私にとってこれはまだ謎です。

一方のシッキム側ではどうだったのでしょう。
このあたりには早くからレプチャ族が暮らしていました。チベットから多勢が侵入して来てから、レプチャ族は彼らに服従するようになりチベット化していきます。これはチベットの侵略といえないでしょうか。ところが、そういう表現の記録は見つけられませんでした。

この辺りには古くからチベット系のプティア族も住み着いていました。亡命して来た僧たちは古のパドマサンバヴァの予言だとして、プティア族中でもすでに有力者だったプンツオク・ナムゲルを王として国を作ったのです。比較的穏やかな建国だったのかもしれません。ただし歴史とは勝者側によって書かれるものなので、真実がどこにあるのか知るのは難しいのですが。

同じ時期に、ヒマラヤを挟んで、ゲルグ派の政権とニンマ派の政権が出来上がったことに、興味を惹かれます。チベット建国が周りに与えた影響の一つです。
シッキムではその後、ブータンやネパールが領地を奪い合い、英国のチベット遠征の前哨地となりました。茶の栽培のためにネパール人が大量に使われ、今シッキムで一番多い民族はネパールだということです。

地図で見れば、山の中に閉ざされた辺境の小さな土地ですが、そこに様々な民族のせめぎあいがあり、共存があり、大きな歴史の流れを受け止めてきました。世界の縮図、いや世界そのものである地のように思えます。
このような過酷な地でも人々はそこを行き来してより強い世界を求めていくのだと、人間の姿を知らされます。民族問題は、今も昔も地球のどこでも逃れられないものであり、他からの介入を容易には許さない強いものなのだということを。

さて、ニンマ派といえばケサルです。
ケサルはニンマ派の大師・パドマサンバヴァの生まれ変わりともいわれています。ケサルの物語をいち早く集めたデビッド・ネールはシッキムの洞窟の中でケサルの話を集めました。その頃はこの地にも多くの語り部がいたのかもしれません。

州都ガントクにあるチベット学研究所でケサルのタジク版を見ることが出来ました。この研究所の創設者はシッキム国の血を引くタシ・ナムギャル。ニンマ派の末裔です。1957年にダライ・ラマ14世はこの研究所のためにここを訪れ自ら礎を置いています。
1957年といえば、亡命するほんの少し前。不穏な情勢の中、わざわざニンマ派系のこの地を訪れたのは、チベットの文化を守ろうというダライ・ラマの強い思いがあったのでしょう。そして、ダライ・ラマとは宗派を超えた存在であることを自ら示したのでしょう。

今、思ったのですが、その時のヒマラヤ超えの行程が2年後の亡命の役に立ったのかもしれません。
これはあくまでも私の想像の世界です。





リンとカチェの戦い

2015-11-17 02:14:54 | ケサル

阿来『ケサル王』 129  語り部 埋蔵
http://blog.goo.ne.jp/aba-tabi



ケサル物語のカチェ国とはカシミール、モスリムの国とされています。
インドとパキスタンの国境地帯。今でも争いの絶えない地域です。
ケサルはこれまで倒した国々の大将もリンの大将に任じて、共に敵を倒していきます。

     *

「リンとカチェの戦い」

リンの西にカチェという国があった。国王チタンは羅刹の生まれ変わり。二十七歳の時、ムカ国を征服し、その姫を無理やり妃とした。

三十六歳、横暴を極める国王は盛大な宴を催し、得意気に語った。
「インド、漢、リンを除くすべての国が我々に帰順した。いよいよこの三国を征服せねばならない」

その得意気な様子に、妃は父の恨みを思い出した。
「あなたより力のあるのはケサルです。ケサルを倒さずして天下無敵の大王などと言えるものですか」
妃に馬鹿にされ、チタン王はケサルと戦う決意を固めた。

傍に仕える百十三歳の大臣ゼンバが進言した。
「周囲の国を倒すのに二十七年かかりました。我が国がどんなに強くともケサルにはかないません。敵にすれば国を亡ぼすことになりましょう」
この言葉に国王の心はかえって燃え上がり、リンへと向かう日取りを決めてしまう。

この少し前、ケサルがこもって修養していると、突然パドマサンバヴァが空行母を連れて現われ
「カチェ国がリン国に邪念を起こしている。兵を集めてカチェ国を倒せ」と告げてて去って行った。
ケサルはサンを焚き、兵を集めて敵を迎える準備を整えた。

総統ロンツァタゲンは壮観な陣営を目の前にし、万感胸に迫って歌った。

 ケサル王の威力は天より高く、英雄は雷より猛々しい。
 戦神ウェルマは電光よりも早く、何物も恐るるに足らず

カチェでは、王の兄ルヤと二人の大臣が同時に同じ夢を見た。カチェの隊列に猛虎が飛び込み、カチェの英雄すべてを呑み込んで牙を真っ赤に染める、という夢である。不安に思った二人の大将は乞食に化けてリンへ偵察に向かった。
それを知ったケサルは二人を捕まえ、自ら二人の乞食に化けて、カチェ国に行き偽の報告をした。
「今はリンを攻めるに良い時期です。国王チタン様も兄王ルヤ様も将軍たちも力に満ち満ちています。それに引きかえ、リンは防備を怠り、ケサル王は不在です」

次の日カチェが兵を進めると、待ち伏せしていたリンの三万の兵が襲いかかって来た。謀られたと知った大将ドグイは叫んだ。
「迎え打ちにしてくれる」
だが、すべてケサルの化身が仕組んだことと知ると、カチェ軍は退却して行った。

さて、トトンはといえば、のらりくらりと自分の利益と逃げ出すことばかり考えていた。思えば、ケサルがホルに行った時は自分が王の位に着き、なんと幸せだったことか。王であってこそ名が四方に伝わるのだ。そう考えると、またまた悪だくみを胸にトトンはカチェへと馬を走らせた。

カチェへ着くと、トトンは大将たちに話をもちかけた。
「カチェが外からリンを攻め、このトトンが中からリンを崩せばリンは必ず敗れるでしょう」
トトンの授けた作戦通りに、カチェはまずウェンブの牧場を攻めた。実はトトンのダロンはウェンブに対して恨みがあった。そこで、かたき討ちも兼ねて、まずウェンブを攻めさせたのである。トトンはしめた!と大喜び。

次に、トトンはケサルに提言する。少数のカチェの軍がリンのウェンブに攻めて来たが、そんな小事はほっておき、先にカチェへと攻め入るべきだ、と。だが、ケサルとロンツァはまず攻めて来たカチェ軍を倒すべきだと意見が一致したので、トトンもそれに従うしかなかった。次の日の戦いでカチェが敗れ、トトンの夢は砕け散った。

一方ウェンブの商人がたまたまトトンのたくらみを耳にし、ジャンの王子ユラとマニン長官に告げると、怒った彼らはトトンのテントの前に立ちはだかり、大声で責め立てた。

聞くに耐えなくなったトトンは姿を現し反論した。
「恨むならカチェを恨め、仇を取るならカチェへ行け。ワシを責めるのはお門違いだ」
危く仲間割れになるところを大将たちになだめられ、共にカチェを攻めるため全員で気勢を上げ、妃たちのいれた茶を飲み、出発した。


リンのウェンブ軍はカチェの中部を攻め、二人の王子の助けを受けてカチェの二人の将軍を倒した。城を守っていた大将は、王子たちの勇猛さを見てこれは敵わぬとリンに投降した。

ダロン軍はカチェの上部を攻めた。ダロンは徐々に追い詰められ、トトンは洞穴に逃げ込んでしまう。ダロン軍は後退するばかり。それを陰から見ていたトトンが霰を降らせる呪いを唱えると、天はにわかに黒く染まり、雷鳴が轟き、霰が降り始め、両軍ともに退散し戦いは中止となった。だが、次の戦いでトトンの息子・大将ラグォが深い傷を負い、ダロンは敗れた。トトンはラグォの瀕死のあり様に悲嘆にくれ、泣き喚いた。

トトンの哀しみようは尋常ではなかったが、皆で懸命になだめると気持ちが落ち着き、ダロンを取り戻すために戦おうと、即刻出発する。
リンはカチェの城を囲み、雨のように矢を放った。タンマがカチェの大将を倒すと、リンの兵たちは鬨の声をあげ猛虎のようにカチェ軍に襲い掛かった。長鉾は流星のよう、刀は閃光のよう、人の頭は穂が落ちるように転がり、死体は山をなし、血は河となって流れた。リンの大勝利である。

こうしてラグォの仇を打ってケサルは喜んだ。力の尽きかけたラグォがケサルの前に運ばれて来た。ケサルが敵の大将の首を見せると、ラグォはケサルに感謝し、いつか浄土で会おうと言って、息を引き取った。

カチェは負けが続き、ついにチタン王が登場する。まず、兵器庫から石の大砲を運び出し、城に据え付けた。大砲によってリンの兵は次々と倒れて行った。リンの城も破壊されていく。ユラ、ユチ二人の王子とマニン長官は、城を出てカチェ王の弟トドマリと戦うこととなった。ユチが傷を負い、ユラはケサルにトドマリを倒す方法を尋ねた。ケサルは笑って答えた。
「トドマリの前世は人だ。死後十三回転生してイノシシとなり、何度も焼かれて苦しんだ後、カチェの王子として生まれたのである。今、ヤツのへそと頭にはイノシシの毛が生えている。ヤツを降伏させる方法は分かっている。ユラよ、心配しなくて良い。七日間陣を守りなさい」

こうしてケサルの約束した日となった。カチェの兄弟がリンと戦っていると、突然弟トドマリの前に戦神が立ちはだかった。そのいでたち、形相を見てトドマリはこれはケサルだと分かった。すると、戦神ケサルが言った。

  国王チタンは太陽である。私は太陽を呑み込む光である。
  兄王ルヤは月である。すでに下弦となった。
  そなたトドマリは星である。私は雲となってそなたを覆い尽くそう

聞いたトドマリはケサルに襲い掛かった。だが、ケサルの宝剣で一刀のもとに頭を切り落とされ、頭のなくなった体は馬もろとも真っ二つ。すると、死体から一輪の鳩が飛び立った。これはトドマリの魂の変化である。ケサルは鷹に変身して鳩を捕まえると、三角形の深い穴を掘って死体と鳩を共に埋め、その上に黒い塔を建てた。こうして妖魔は鎮められた。

弟の死を目にした兄王ルヤが逃げようとしたその時、王子ユラは矢を放ち、ルヤの心臓と肺を打ち砕いた。それでも戦おうとするルヤに向かって王子ユラは大刀を振るい、哀れルヤの体は肉の団子となった。

兄弟を殺されたチタン王はケサルを亡き者にしようと刀を振り上げた。そこへリンの英雄たちが襲い掛かるが傷つけることさえ出来ない。チタンはケサルに向かって叫んだ。
「今日こそ恨みを晴らしてやる。お前たちの肉を食い血を飲み干し、リン国を粉々にしてくれる」

この凶悪な様を見て、ケサルは一太刀のもとチタン王を叩き切った。こうしてまた人間界から大きな災いが除かれたのである。

カチェの老臣ゼンバは兵を率いて投降し、ケサルを平らな岩の前に連れて行った。ケサルが白梵天から授かった金剛杵で叩くと宝の蔵が開いた。青玉の度母像、玉のホトトギス、十対の如意、金銀の目出度い宝物、十二部の典籍、法具、そして玉や真珠現われた。リンの兵はそれらの宝をリンに持ち帰った。

この時、カチェの王子はまだ五歳。ケサルは老臣ゼンバに国を管理させ、母子をもとの城に住まわせた。カチェの臣民はケサルの幸いを願った。





リンとタジクの戦い

2015-11-07 02:14:36 | ケサル
阿来『ケサル王』 123 物語:アク・トンバ
http://blog.goo.ne.jp/aba-tabi/e/b568c2a84923c9667c2539203aa9fa82



ケサルは、語り部ジグメと夢の中で交感している間にも三つの国を征服しています。
タジク、カチェ、ジュグです。
今回はタジクとの戦いをご紹介します。タジクとはペルシャ、今のイランの辺りです。

              *


リンとタジクの戦い


ケサルの叔父トトンは、自分勝手な行動から、常に戦いを引き起こすトラブルメーカーでもある。
今回も、英雄タンマの娘の美しさを伝え聞き、年甲斐もなく妻にしようとあれこれ想像を膨らませていた。

娘を手に入れるには、大王ケサルからタンマに取り持ってもらうのが一番だ。タンマはケサルの言葉なら何でも聞き入れるだろう。聞くところによると、タジクには「青色追風」と名付けられた、一瞬のうちに人間世界を一巡り出来る素晴らしい名馬があるという。まずそれをケサルの甥ザラに贈ってケサルに取り入ることにしよう。

そう考えたトトンは、手下を使ってタジクの馬を盗み出させ、ついにタンマの娘を妃にする。
トトンが幸せに浮かれていたある日、タジクの臣下たちが馬を奪い返しにリンにやって来る。見つからないようにと死んだふりをするトトン。当然見破られてしまうのだが、言葉巧みに言い逃れ、おまけに、再び彼らに襲われるのを恐れて、ケサルにタジクと戦うようけしかけたのである。

タジクの王もトトンが馬を返さないのに憤り、戦う準備を始めていた。
両軍は陣を敷き向かい合う。
始めの小競り合いの中で、なんと、トトンの息子ポンペンが敵の大将と相打ちになり、命を落としてしまう。

その知らせに父親トトンはもとより、ケサルも顔を曇らせた。そして、心の中で思った。
今回の騒ぎはトトンの悪企みがきっかけとなって、戦いに至ったのだ。だが、予言によると「木の虎の年、タジクの宝の城を攻め、リンの財源を潤す」とある。今がタジクを滅ぼすべき時なのだろう。ならば、この戦いに王子ザラを出征させよう。
総統ロンツァ・タゲンがザラを祝福する。
「ザラよ、そなたは穆冬氏の後裔、大英雄ギャツァの子、獅子王ケサルの代理である」

戦いは一進一退だった。タンマ、ユラトジ、シンバメルツ、アダナム…リンの英雄たちが、次々とタジクの将軍と一騎打ちの戦いを繰り広げる。
タジクの王子が戦いの場に登場した。ザラは自ら相手しようとするが王子の身を案じたリンの大将たちがザラの前に立ちはだかり、行かせなかった。

代わりに相手を買って出てたのはタンマである。タンマは山をも動かす宝の弓を放ち、タジクの王子の心臓を射抜いた。それを見たタジクの王は目を真っ赤にしすさまじい形相でタンマに襲い掛かった。そうなると、タンマの矢も王を倒すことが出来なかった。リンの王子ザラは大将たちに止められ戦いに臨めず、勢いに乗ったタジク軍によって、リンは大敗を喫することとなった。

ついにケサルの登場である。

それを聞いたタジクは恐れ慄いた。三百六十人の呪術師を集め、硫黄、鳩の糞、蛇の骨など九つの物を七日間錬成して燃やし、その火で城を囲んだ。これならケサルも近づけないだろうと考えたのである。

だが、ケサルはタジクの城から上がる火などには目もくれず、三つの河の集まる辺りで兵を休ませていた。
その時、近くに三人の美しい娘が現われた。
ケサルが娘たちを指さしながら言った。
「あの三人は夜叉の娘だ。追いつけば欲しいものは何でも手に入リ、おまけに娘たちを新しい嫁に出来るぞ」

やはり、トトンただ一人が娘たちを自分の物にしようと走り出した。皆はそれを見てせせら笑った。
トトンはかまわず、逃げる娘たちを追いかけ、高い石の崖を登ると、娘たちの声が聞こえて来た。声のする洞窟に入ったその時、洞窟の入り口がふさがれた。
罠にはまったトトンは、羅刹王の前に連れて行かれ、人間の皮の袋に押し込められてしまった。

またまたトラブルメーカーのトトンである。だがそれがリンを動かす力となっていく。

さて、河辺で休んでいるケサルの耳元でミツバチがささやいた。
「トトンは羅刹に捕まった。早く羅刹城を攻めないと、長寿の秘法がタジクの王に奪われる。そうなったらタジクは倒せない」
これは白梵天の指示に違いないと考えたケサルはすぐ出発、羅刹を倒し、トトンを救いだした。こうして、この世を統べる縄と長寿の法を手に入れると、ケサルはすぐさまタジクを攻める決意を下した。

その時、ケサルの愛馬ジャンガクルカルが、突然ケサルに話しかけた。
「王様、タジクに勝つには法術師が作った法物を手に入れなくてはなりません。今からお連れしましょう」
言い終るとジャンガクルカルはケサルを乗せてタジクへと向かった。そこで、ケサルは雀に、馬は烏に変身して宝物の箱の前まで飛んで行き、誰にも知らずに法物を手に入れた。

暫くして法物がなくなったことに気付いたタジクは、強い不安に覆われていた。ケサルが襲ってくる危急の時だったが、法術師にもう一度作り直させ、兵の心を落ち着かせるしかなかった。
ザラはどうしてもタジクの大将ツァンラ・トジと戦いたかった。リンの倒された英雄の敵をとるため、ザラは死を恐れずに戦い、大将の首を取った。

いよいよケサルとタジク王の一騎打ちである。
だが、タジクの王はすでに勝敗は見えたと、名馬・善飛野牛に乗って逃げて出した。ケサルはあっという間に追いつき、タジクの犯した罪を数え上げると、剣を振り上げた。

その剣とは、東方のマハ国の王が六種の鉄と妖魔の死体の六種の毒と六種の妙薬を錬成して作ったものだった。
タジク王はもはやこれまでと、跪いてケサルを拝んだ。
「私は以前マニを作りましたが一度も経を読みませんでした。財宝すべてを大王に捧げます。どうぞ、死後地獄に落ちないよう、得度してください」
ケサルはタジク王の首を落とし、願い通りにその魂を浄土に送った。

手に入れたタジクの宝はあまりに多く、分けきれそうもなかった。そこで、まず神々に捧げ、残りをリンの臣民に与えることにした。
ケサルはサンを焚いて、神々を招いた。ネンチンタラ、カワカボ、アニマチェン…神々が集まって来て、賽を振ってその目によって宝が分けられた。分けられた宝はそれぞれの地を栄えさせた。
ケサルは黄金、ザラは白銀、タンマはメノウ…将軍たちもそれぞれに宝が配られた。

リンに帰ると、ケサルはその後九年間こもった。その間、周りの国々は兵を休め、次の予言を待った。
ケサルは両手を合わせ、神々がこの地で楽しみ、国が平安であり、民が安楽であるよう願った。




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