夢の劇場:
映画館での仕事も結構大変だ。
この筒みてえな形をした機械はかの天才トゥーランガリラ博士の発明なんだが、手回し式で、けっこう体力がいる。月の光をこいつにぶち込んでハンドルを回せば、月光仕掛けの映像がうじゃうじゃ出てくる。
火花を飛ばしながら飛び回る銀河蝶、ガラス製の彗星、サテンの夜の女王、金星シロクマが勝手に機械で圧縮した惑星、星の光を原動力にして走るカステラ汽車(こいつの煙にまかれると、30分くらい体が青いルビーになる)不定形の蒸気ナメクジ…云々…。
まあ、こういう感じのものがいつも筒から出てきては、この古いボロ映画館の中をドタバタ駆け回っている(この連中がまた、実に騒々しいときていやがる)。
こういうことを、まさか夜に屋外でやるわけにもいかんからあらかじめ月の光をストックしておくわけだが、いつもいい月夜があるとはかぎらんからなあ。夢を売る仕事も結構大変だよ。
しかも筒から出てくる連中ってのはけっこう火の気があって、うちのようなオンボロの木造映画館だと危ないんだ。だから俺は建物を鉄筋コンクリートにして防火対策を徹底しろと、再三上にいってやっているんだがね。