
わが家にある3冊の「ことわざ辞典」
古くから言い回しや教訓を簡潔に表現するための言葉としてことわざがある。このことわざには相反するようなことわざがある。意味が反対のことわざと言った方がわかりやすい。そもそも、相反することわざが存在すること自体、ものの見方は単純にひとつだけではないのだということを象徴的に示している。さらに言えば、そもそも、人生の教訓や知恵を短い言葉で表現することの限界や無理もあるのだろう。「十人十色」という言葉に示されるように、人の数ほどの考えがあるということだ。それはともかく、例えば、その代表的なものとしては、「善は急げ」 と 「急がば回れ」を上げることができるだろう。
前者の「善は急げ」は、良いことはすぐに行動に移すべきだという意味だ。「思い立ったが吉日」に通じる考え方だと思う。まさに「チャンスの神様は前髪しかない」ということわざが言うように、タイミングやチャンスを大事にしなければならない場合が私たちの人生には時々ある。
一方で、「急がば回れ」は、急いで行動すると失敗することがあるため、慎重に考えてから行動すべきだという意味だ。「急いてはことを仕損する」に通じる考え方だと思う。どちらも「急ぐ」ということがキーワードになっているが、実はそれぞれ主題が違う。前者は善なること、つまり良いことという条件が付いている。良いことは急いでやったほうがいいということを強調しているのだ。このことわざには続きがある。それは「悪は延べよ」という。意味としては、悪事は容易に実行できるから、これをしばし延ばして、良心に照らしてよく考えてみようという戒めなのだろう。本当に悪事なら延ばすだけではなく、中止にするくらいの決断が求められるところだ。おそらく、リスクの伴う案件の話は時間を先延ばしにして熟慮を重ねるくらいでちょうどよいということなのだろう。
後者の「急がば回れ」の主題は何か。急ぐ場合に注意すべき考え方や行動パターンだと思う。とかく、人間は急ぐ場合は焦ったり、緊張したりして、冷静な時の注意心や警戒心などが低下する。さらには、「近道」というルートや方法を取りたくなる。非常事態だとして、「裏技」や「奥の手」なるものを使う場合もある。こういう場合は、近道やいつもの道ではなく、遠回りするくらいでちょうどよいという考え方なのだろう。とかく安易な方法や近道には落とし穴や危険が隠されている。それを避けるための教えなのだ。いずれにしても、この二つのことわざは、ときと場合によって、使い分けたほうがよいということだろう。
有名な意味が反対のことわざリスト
●あばたもえくぼ 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い
●危ない橋を渡る 石橋を叩いて渡る
●月とすっぽん 紙一重
●三人寄れば文殊の知恵 船頭多くして船山に上る
●渡る世間に鬼はなし ひとを見たら泥棒と思え
●二度あることは三度ある 三度目の正直
●武士は食わねど高楊枝 腹が減っては戦が出来ぬ