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多くの企業が東芝と同じ不正に手を染めている(日経ビジネスより)

多くの企業が東芝と同じ不正に手を染めている

東芝事件や日本企業の様々な不祥事について、警察大学校の教授に聞いたインタビュー記事。

こちらの本の宣伝記事のようです。
4526074543なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか-有名事件13の原因メカニズムに迫る- (B&Tブックス)
樋口 晴彦
日刊工業新聞社 2015-08-22

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このインタビューは、断定的なものの言い方がやや気になりますが、おもしろいことも言っています。

東芝のようなことをやっている会社はざらにあるそうです。

「今回の東芝の会計不祥事の内容についてどう見ていらっしゃいますか。

樋口:個別の手口を分析すると、はっきり申し上げて、よく聞く話ばかりです。ですから、東芝だけがやっているのではなくて、程度の差こそあっても、こうしたことをやっている会社はざらにあります。東芝は(売上高の)規模が大きいために金額が大きくなりましたけれど、売上高に占める比率から見ると、東芝並みの比率で不正をしている企業も、それほど少なくないのではと思います。」

人事の閉鎖性について指摘しています。

「東芝の不祥事におけるポイントの1つは、財務、経理部門にいったん配属されたら、ずっとそこに所属し続けることです。ある程度大きな会社では避けられないことですが、はっきり申し上げて、このように閉鎖的な人事ローテーションをすれば、内部統制環境がだめになるのは当たり前のことです。

同じようなパターンとして、新著で紹介した東海ゴム工業の労働安全衛生法違反事件が挙げられます。この事件で違反の舞台となったのは、プラントの補修課です。その課内で人事の長期化によって統制環境が悪化していたため、法的に問題がある補修工事に対して誰もが「おかしい」と内心は思いながらも、それを指摘することができなかった。」

「同じように財務・経理部門が暴走した典型的な事例が、やはり新著で紹介したオリンパスの不正会計事件ですね。あの場合には、財務部門の中でも限られたエリートたちが、まさに会社全体を支配していました。

不正会計の親玉に当たる人物が昇任により異動すると、その後任には一番の子分が就くといった形で、継続的に本社の中枢機能を支配していたのですね。このように人事ローテーションが閉鎖的であることは不正の温床になります。それを何とかしないといけません。他部門との人事交流などの形で、もう少し現場の風に当てることです。」

メルシャン水産飼料事業部の循環取引事件も例に挙げています。

監査役、監査委員の要件について

「さらに、東芝の監査委員会には社外の監査委員もいましたが、財務や経理に関して十分な知見を有した者はいなかったようです。これもまさにオリンパス事件や大王製紙会長による特別背任事件と同じパターンです。株主総会の議決権行使助言大手、米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)も問題提起していますが、はっきり申し上げて、財務諸表が読めない人を監査役に充ててはだめですよ。」

「監査役や社外役員の人選に問題があるというお話があったんですけれども、具体的におっしゃっていただくと…。

樋口:例えば、創業家出身の会長による特別背任事件が発生した大王製紙の場合、3人の社外監査役がいましたが、そのうち2人は創業家のドン(当時の役職は最高顧問)の高校時代の同級生でした。

高校の同級生ですか。

樋口:ちなみに、社外役員の「社外」の定義については、日本の基準がかなり歪んでいます。とにかく外部の人物であればいいという発想なんですね。一方、グローバルスタンダードでは、社外と独立性はイコールと認識されています。つまり、形式的には外部の人物であったとしても、実質的にはインナーであって独立性を発揮できないような人物は社外と見なされない。ところが日本では、実際にはインナーで独立性が全くなくても、社外役員と認められてしまうのです。

 例えば、ある社外役員について、彼の収入のほとんどが役員報酬であった場合、つまり、社外役員としての報酬に彼の生活がかかっている場合、それを社外と言えますか(笑)。」

「オリンパス事件の場合には、まさに滅茶苦茶でした。社外役員はぞろぞろいたのですが、全員が使い物になりませんでした。まずはノーベル賞を受賞した米国の経済学者で、取締役会への出席率はわずか4%。名義貸しのようなもので話になりません。次に医科系大学の元教授。この方は内視鏡関係の学会の理事長だった方ですが、その学会の設立運営にオリンパスが多額のお金を出していました

そして日本経済新聞社元取締役。当時は彼が代表取締役を務めていた広告会社とオリンパスの間で取引関係がありました。さらに野村証券の元社員。彼は、不正会計の指南役とされていた人物と野村証券で席を並べていたことがありましたので論外です。このオリンパスのケースのように、こんな人物を選んでは明らかにだめでしょうというケースが少なくないのですよ。」

こちらは同じインタビューの後編

東芝の不正に大きく影響した成果主義の弊害
企業不祥事研究の第一人者、樋口晴彦・警察大学校教授に聞く(後編)
(日経ビジネス)

監査についてもふれています。

「恐らく最初は良い意味のチャレンジから次第に変化していったのだと思います。「ちょっとこれは」という会計処理ではありますが、「よそでもやっていることだし、監査法人が目をつぶってくれているから」という意識で続けているうちに、いつしか不正処理が積もり積もって、非常に大きな規模になっていた。

ちなみに監査法人側の抱える問題については、「オリンパス不正会計事件の事例研究」と題する学術論文に書いています。これもネットで公開されていますので、よろしければ参考にしてください。この論文では、監査法人側が実際には不正会計に気づいていたのに、それに対して手を打とうとせずに会社側に迎合していた状況について、かなり細かく検証しています。社外役員と同様に会計監査人についても、「監視される側が監視者を選ぶ」という面で大きな問題があるのです。この件についての対策を問われると、有効なものがなかなか見当たりません。」

監査人の定期的交代は不正防止に有効と述べています。

「1つのポイントとして、オリンパス事件の中にヒントがあります。当初はあずさ監査法人が同社の監査を担当していました。あずさも「さすがにこれはひどくなってきた」ということで、2009年3月期決算の監査では、品質管理担当の専務理事を同社の担当に起用して、具体的な不審点を書面でオリンパスに提出し、オリンパスが設置した有識者委員会の調査報告書についても修正を求めるなど、かなり頑張りました。

しかしオリンパス側は修正に応じず、あずさも最終的に無限定適正意見の提出に同意しました。その途端、オリンパスは報復として新年度の会計監査を新日本監査法人に依頼したのです。」

「突然の交代に対して、あずさはどう対応したでしょうか。無限定適正意見の提出に同意、すなわち、オリンパスの決算にオーケーをいったん出したにもかかわらず、決算に潜む問題を是正するような措置を取らないと、正式な監査報告書を提出できないとして、オリンパス側に措置の実行を迫ったのです。「このままだと、新日本による会計監査で、これまでの会計処理の闇が明らかにされてしまうかもしれない。そうなれば、あずさの責任も必然的に追及されることになる」と恐れたのでしょう。

ここから分かることは、会計監査人が交代する際には、それまでの監査内容の問題点を別の監査法人に指摘されるのが怖いので、何とかして是正しなければならないという強いインセンティブが監査法人側に生まれるということです。そうだとすると、会計監査人を定期的に交代させることが重要だと思います。」

記事の中でふれている論文はこちら

オリンパス不正会計事件の事例研究
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