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財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ(ウェッジHD)

財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ(PDFファイル)

ジャスダック上場のウェッジホールディングス(9月決算会社)(代表取締役社長兼CEO 此下 竜矢)が昨年12月28日に発表したプレスリリース。平成29年9月期の内部統制報告書において、開示すべき重要な不備がある旨を記載するという内容です。

しかし、この発表文で最も重要なのは、プレスリリースの末尾でふれている、会計監査人(監査法人アリア)から無限定意見がもらえずに、限定付適正意見となっていることでしょう。

まず、「開示すべき重要な不備の内容」は...(GL: タイ子会社Group Lease PCL)

「当該事案の主な内容といたしましては、タイSECが、平成 29 年 10 月 16 日付で、タイ法務省特別捜査局(以下「タイDSI」という。)に対し、GL元最高経営責任者(CEO)であった此下益司氏が偽計及び不正行為を行った可能性を指摘し、同氏に対して調査を進めるようタイDSIに対し申し立てをしたことを公表したことによるものです。

調査の対象となった取引は、GLの連結子会社である Group Lease Holdings PTE.LTD.(以下「GLH」という。)が貸主となり、キプロス及びシンガポールの借主に対する 54 百万 US ドルの融資取引(以下「GLH融資取引」という。)が、此下益司氏の指示により貸主グループ会社間で送金され、最終的にGLHへの分割弁済に充当されていること、また、そのGLH融資取引に係る年利 14~25%の利息収入が過大に計上されることで、GLの連結財務諸表は適正な開示を行っていないというものです。

当該事案は、タイDSIの調査の結果、刑事告訴に繋がる可能性が含まれており、これにより、此下益司氏は、GLの取締役並びに経営者の資格を喪失し、同日付けでそれらの地位を退任することとなりました。

当社グループでは、これらの事象に対して、GLにおいて、問題となるGLH融資取引の特定を進めるためにタイSECに対し照会等を行うなど、該当期間の財務諸表並びにGLH融資取引に関して、調査及び見直しを進めてまいりました。

さらに、当社は、GLH融資取引の実態、取引の適正性を調査するため、平成 29 年 11 月 17 日に、第三者委員会を設置することを決議し、第三者委員会の調査に全面的に協力してまいりました。そして、平成 29 年 12 月 12 日には、第三者委員会の中間報告書を受領しましたものの、タイSECの指摘の根拠を特定するには至りませんでした。」

「GLHの特定の融資取引に関連して、親会社としての海外子会社管理・情報収集管理体制や決算財務プロセスには不備があると評価致しました。」

ということで、タイ当局が問題視している事項をきちんと調べきったわけではなく、また、財務報告に虚偽表示があったかどうかについてもふれることなく、海外子会社管理などに不備があったということでお茶を濁してしまったようです。

監査報告書の方は以下のように書かれています(一部抜粋)。

限定付適正意見の根拠

「追加情報」に関する注記(連結子会社Group Lease Holdings PTE.LTD.が保有する貸付債権等について)及び「重要な後発事象」に関する注記「1,タイ証券取引委員会(以下「タイSEC」という。)から公表された事項等について」に記載されているとおり、会社の連結子会社であるGroup Lease PCL.(以下「GL」という。)の子会社Group Lease Holdings PTE.LTD.が保有する貸付債権等(以下「GLH融資取引」という。)に関連して、GLはタイSECからGL元役員の不正行為や利息収入の過大計上などを指摘された。この指摘に対し会社では第三者委員会を設置しGLH融資取引を調査したものの、タイSEC指摘の根拠を特定することができなかった。会社は当連結会計年度において第三者委員会の調査結果等も踏まえて、今後、タイ捜査当局による捜査並びに指導により会計的な影響の及ぶ可能性等も考慮し、タイSEC指摘のGLH融資取引に関連する貸付債権全額(営業貸付金及び未収利息)に対して保守的な観点から貸倒引当金(6,287百万円)を設定し、営業貸付金元本相当については特別損失に貸倒引当金繰入額6,020百万円を計上し、未収利息相当については売上高を266百万円減額した。

当監査法人は、第三者委員会調査結果等の検討やGL会計監査人からの協力を得て独自にも追加的な検討を行ったものの、タイSEC指摘のGLH融資取引に関連するこれらの項目及び比較情報について十分かつ適切な監査証拠を入手することはできなかった。

したがって、当監査法人は、タイSEC指摘に関連する金額及び比較情報に修正が必要になるかどうかについて判断することができなかった。」

限定をつけたということは勇気ある判断と思いますが、これで幕引きなのでしょうか。会社も監査人も、「タイSEC指摘の根拠を特定することができなかった」と、タイ当局の指摘に根拠がないかのようにほのめかしていますが、重要海外子会社の責任者に不正の疑いがあるわけですから、日本の金融庁もタイから情報を入手して、独自に調査すべきでしょう。

(細かい点ですが、監査報告書で子会社の監査人に言及していいものなのでしょうか。実名さえ出さなければ、いいという考え方なのかもしれませんが...)

問題のタイ子会社は別の投資案件でも大きな損失を出しているようです。以下、有報の連結注記より。

「 (Commercial Credit and Finance PLC株式の評価)

当社連結子会社のGLは、平成28年12月6日開催の臨時株主総会において、その子会社のGLHを通じ、スリランカ民主社会主義共和国でファイナンス事業を手がけ、コロンボ証券取引所に株式上場しているCommercial Credit and Finance PLC(以下「CCF」という。)の発行済株式の29.99%を、GL取締役所有の会社などから取得することを決議し、2,462百万タイバーツ(日本円で7,165百万円、うちのれん相当額5,548百万円)で取得し、持分法適用関連会社としております。

当社は、当連結会計年度の決算を確定するにあたり、CCF株式の取得価額と市場の価格の乖離が著しいことや、後述の(重要な後発事象)に関する注記に記載の事象が生じたことなど現状の当社グループを取り巻く不透明感を踏まえまして、CCF株式関連に係る未償却ののれん代(5,047百万円)を全額償却することとし、あわせてCCFの持分法適用関連会社であるTrade Finance and Investments PLCの未償却ののれん代(102百万円)も全額償却することで、CCF株式等の帳簿価額を厳格に見直すことといたしました。」

監査報告書では、強調事項にも重要なことが書いてあります。

「強調事項

「重要な後発事象」に関する注記「2.JTRUST ASIA PTE.LTD.(以下「Jトラストアジア」という。)からの請求について」に記載されているとおり、会社の重要な連結子会社GLは「重要な後発事象」に関する注記「1.タイSECから公表された事項等について」に起因し、GLの株主で主要債権者であるJトラストアジアから平成29年11月30日付で、錯誤を理由として転換社債180百万USDの即時一括弁済などを請求された。会社グループは、法律専門家の意見等も踏まえ、GLがJトラストアジアとの契約に違反したことや、契約上も転換社債を即時返済する義務はなく、当該請求は法的に無効と考えている。

当該事項は、当監査法人の意見に影響を及ぼすものではない。」

(開示事項の経過)当社のGroup Lease PCLに対する現状の認識と今後の予想される方向性について(2017年11月)(Jトラスト)

Jトラストなどとの係争についての記事。

Former Glam Thai Concern Faces Corporate Warfare(2017年12月5日)

当サイトの関連記事(2017年11月のプレスリリースについて)

その2(タイ子会社における不透明な巨額貸付金発覚に関する2017年3月の報道について)

昨年3月からあやしいということがわかっていたのに、監査人は何もしなかったのでしょうか。
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