ラサ商事(東証1部)のプレスリリース。
旭テックという連結子会社の従業員が不適切な会計処理を行っていた疑いについて調べていた社内調査委員会の報告書を受領したとのことです。
その従業員が、「自らの担当する特定の取引先との取引において、赤字工事の発覚を免れるために、工事番号を付け替えることにより売上及び売上原価を先送りするなど不適切な会計処理をしていた」という不正です。
調査のきっかけは...
「ラサ商事株式会社(以下「当社」という。)は、2021 年 3 月 19 日、当社連結子会社である旭テック株式会社(以下「旭テック」という。)第一工事事業部担当部長 A(以下「A」という。)の申告により、旭テックの売上及び売上原価を先送りにするなど不適切な会計処理をしていた疑いがあること(以下「本件事案」という。)を認知した。」
問題の子会社について...
「旭テックは、1988 年 8 月に千葉県市原市内で設立され、石油精製、石油化学プラントの設計、施工、メンテナンス工事、大規模インフラ設備(建築施設の冷暖房、地域冷暖房、ごみ焼却場、下水処理場)の設計、施工、メンテナンス工事等を業務内容としており、2014 年 12 月に当社の完全子会社となった。」
不正は主に特定の取引先(報告書では「甲」)向けの工事で行われていました。
「甲は、各種プラントの機械設備・電気制御設備・受配電設備の企画・設計・建設、メンテナンス等を業務内容としている。旭テックに対しては、プラントの機械設備のメンテナンス等の業務を発注しており、甲構内に常設の事務所を設置させている。」
不正は2008年から行われていました。最初は売上(入金)の付け替えだけだったようですが、徐々に未成工事支出金に原価がたまっていくようになりました。入金の消し込みもこの担当者任せだったようです。
「A は、金属精錬業において多数の赤字工事が発生していることが旭テックに発覚すれば、自身の責任問題に発展する可能性があるため、赤字工事の発覚を免れたいと考えた。そこで、A は、甲の金属精錬業では月次工番を採用していたことにより工事番号の付替えが発覚しにくかったことに加え、旭テックの経理担当者が工事番号と甲からの入金の関連性を十分に理解しておらず、自身が両者の対応関係の照合を全面的に任されていたことを利用し、2008 年頃から工事番号及び売上の付替えを繰り返すようになった。
その結果、実態としては甲の金属精錬業では赤字工事が多数存在していたにもかかわらず、甲から工事代金の入金を受けると、工事番号を付け替えて別の工事に充当することにより、赤字工事の存在が隠ぺいされた。また、2015 年頃からは受注数と売上が減少傾向になったことに伴い、新規工事に基づく甲からの入金も減少したため、工事番号を付け替えて別の工事に充当するための原資が徐々に不足していき、完成工事として計上できずに未成工事支出金が増加し続けることとなった。この点、A が甲の担当を引き継いだ 2007 年頃には未成工事支出金はほぼ存在しなかったものの、その後、金属精錬業の受注が増えるにつれて増加していき、B が旭テックの代表取締役に就任した2011 年頃には約 1 億円にまで達した。」
役員に対しては虚偽の説明をしていました。
「B は、代表取締役に就任した 2011 年 8 月に甲との取引において未成工事支出金が存在していることを認識し、回収の見込みを A に尋ねた。これに対し、A は、未成工事支出金を確認してありのままを B に報告すれば、長期間にわたって回収できていないことが露見するおそれがあると考え、未成工事支出金はまだ甲に請求していないものであるが回収できるなどと虚偽の説明をした。」
「2015 年頃、B は、甲の金属精錬業に関する支払の有無をリスト化するように A に指示し、工事名のほか、依頼日、着工日、完了日、下請会社への支払の有無、甲への請求の有無が記載されたリストを作成して管理するように改めた。
そして、A は、このようなリストを作成して整理していくうちに、甲から回収できるものはほぼ回収しており、回収できない金額が約 2 億 4000 万円にまで達していたことを認識した。しかし、A は、このような不正な処理をしていたことやノルマを達成できないことへの非難を避けたいとの思いから、旭テックには申告しなかった。」
監査法人もだましていました。
「2020 年 7 月に当社会計監査人に就任した八重洲監査法人は、当社に対し、旭テックの財務諸表及び内部統制監査において、甲の未成工事支出金の残高が売上に比して過大であることや、発注書が発行されないまま施工している工事が存在することなどを指摘した。当社は、旭テックをして、甲との取引実態に関して調査させることとし、これを受け、B 及び C(以下「B ら」ということがある。)は、A に対し、甲の現場における未成工事支出金が増加した理由などを調査するように指示した。
これに対し、A は、未成工事支出金のうち回収不能なものが多数含まれていることが発覚するのを免れるため、甲が発行した検収通知と旭テックにおける工事番号を照合するための対照表(以下「対照表」という。)を偽造し、当初想定より工事が長期化していることや甲の都合により支払が遅延していることが原因であるものの、回収することは可能である旨虚偽の説明をし、自ら作成した内容虚偽の対照表をBに提出した。
すると、A は、B から、甲がその内容を了承した証跡とするために、対照表に甲担当者の押印をもらうように指示されたため、甲に許可を得ることなく同社担当者名義のゴム印を偽造するなどした上、対照表に押印することにより、甲も了承しているように装った。B らは、甲と直接交渉して支払を求めることも検討したものの、甲との関係の悪化を恐れてこれを行わず、A の説明を信じて継続的に改善を図るよう指示をしていた。
その結果、B らは、未成工事支出金に滞留リスクはあるものの、甲の現場では年間約3 億円の売上があり、全体の収支が赤字にならないのであればメリットがある旨判断した。しかし、その後も未成工事支出金の滞留は十分に解消されることがなかったため、B らは A に対して更なる改善を求めたところ、A は、甲との間では未成工事支出金に係る支払遅延を解消するべく継続的に交渉しているなどと虚偽の説明を繰り返し、交渉経過を記録した甲名義の書類を偽造して提出するなどしていた。」
担当者が不正を自白した経緯は...
「A は、甲担当者と C を面会させるとこれまでの説明が虚偽であったことが発覚するなどと考え、面会予定日の前日である 2021 年 3 月 15 日に、B らや旭テック関係者に告げずに逃走した。B らは、A と連絡が取れなくなったことで警察に A の捜索願を届け出た。C は、A から甲担当者との面会を設定していると聞いていた日時に甲を訪問したものの、面会は設定されていないことが判明し、当該甲担当者は他の予定があるという理由で面会は実現しなかった。その後、A は、警察により発見され、未成工事支出金が増加した原因は工事番号を付け替えたことが原因であることや、甲との交渉経緯を記録した書類は偽造したものであるなどを自認した。」
報告書では、2015年3月期以降の損益への影響額が示されています。
そのうち、2000年3月期は...

これをみると、未成工事支出金(過大計上分)が約5億円もたまってしまった四半期もあります。
よくありがちな不正だと思われますが、普通はもっと早い時期に発覚し、金額が小さい内に処理できることが多いでしょう。担当者も「逃走」せざるを得なくなるまで追い込まれることはまれでしょう。
この子会社独特の給与制度も不正の背景にあったようです。
「旭テックは、年俸制を選択した工事担当者に対しては、前年度の粗利等を基準としたノルマを個々に設定していたところ、2014 年 12 月頃まではノルマを達成した場合には、前年度の基本給から昇給するとともに粗利の 3 割が賞与となる一方、ノルマ未達の場合には、次年度の基本給が減額され、さらに、ノルマとの差額の 3 割を負債として負わせるという極めて特殊な業績連動型の給与制度(以下「業績給」という。)を採用していた。」
ノルマ未達成だと借金を負わされるというのはこわすぎる。(今はそういう制度は廃止されているとのことです。)