会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

アングル:新日本監査法人に初の課徴金、監査法人は淘汰の時代へ(ロイターより)

新日本監査法人への処分についての報道をいくつか集めました。

アングル:新日本監査法人に初の課徴金、監査法人は淘汰の時代へ

「2008年に導入された監査法人への課徴金制度。旧中央青山監査法人に出された業務停止命令の際に、監査を受けられない企業が大量発生した「監査難民問題」を回避するために設けられた制度だ。しかし、監査法人の財務基盤が弱ければ、経営そのものに影響を与えかねず、その半面で金額が少なければ処分のインパクトも小さくなるとして、運用が難しいとされてきた。

今回、金融庁があえて課徴金命令に踏み切ったのは、東芝の不正会計問題を看過できないと判断したためだ。同社は、指名委員会等設置会社にいち早く移行し、他の上場企業に先行してガバナンス体制を整備してきたとの評価を得てきた。ましてや、金融庁が旗振り役となって策定したコーポレートガバナンス・コードが導入された矢先に勃発した問題でもある。「長年にわたって不正会計を見抜けなかった新日本監査法人にも相応の処分を課すべき」との意見が庁内で大勢となった。

新日本監査法人の2015年6月期の監査業務収入は775億9700万円。課徴金の金額20億円は決して大きくはない。しかし、同法人が大きく信用を失うのは必至だ。9月末時点で公認会計士3504人、被監査会社4123社を抱える国内最大手の新日本監査法人は、今後、顧客流出や監査報酬の引き下げ要求に直面するリスクがある。」

東芝のコーポレートガバナンスがまずかったからといって、なぜ監査人が責任を取らないといけないのでしょうか。役に立たなかった社外取締役の責任を追及するならわかりますが。

特に納得できるような理由がないのに、監査報酬引き下げを要求してくるような会社とは、監査品質管理上も契約すべきでないでしょう。ダンピングで契約を引きとめようとすれば、金融庁からさらにいちゃもんをつけられます。

記事後半では、会計監査のあり方に関する懇談会での議論についてふれています。

「「日本の監査制度の品質を高め、国際競争力を持たせるためにも、良い意味で監査法人が淘汰されることが必要だ」。懇談会ではこんな意見も出ている。

今回の新日本監査法人の処分をきっかけにガバナンスコードが導入されれば、200を超える監査法人は生き残りをかけた競争の時代に入る可能性もありそうだ。」

懇談会で淘汰という話が出ているのは、中小監査事務所のことでしょう。ビッグ4傘下の大手監査法人を対象にした議論ではありません。

とはいえ、新日本の場合、一挙に淘汰されることがあるとすれば、提携しているEYが、あらた監査法人をお手本にして、新監査法人を作った場合でしょう。ビッグ4との提携関係が切られれば、海外に拠点を持つような大企業が多数離れてしまうおそれがあります。(普通に考えれば、余計な動きをしないよう、金融庁がEYと話をつけているはずですが、そうでなければ、想定外のことが生じる可能性があります。)

東芝不正会計問題 新日本監査法人を処分(NHK)

「「東芝」は「新日本監査法人」から来年度、監査の契約を辞退する申し出があったことを明らかにしました。辞退の理由について新日本監査法人では「不正な会計処理の問題に関する第三者委員会の報告書で、東芝では長年にわたり、組織的な隠蔽が行われていたと指摘していることを踏まえた」としています。これを受けて東芝では、代わりとなる新しい監査法人を選ぶ作業を進めていて、決まりしだい、公表することにしています。」

「長年にわたり、組織的な隠蔽が行われていた」会社と新規契約するのは、どの監査法人なのでしょうか。

金融庁、新日本監査法人に一部業務停止命令(読売)

「金融庁によると、新日本監査法人の7人の公認会計士が、東芝が作成した虚偽の財務書類を見逃し、「監査法人の運営が著しく不当と認められた」としている。このため、7人の公認会計士についても最大6か月間の業務停止を命じた。」

当サイトでふれたあずさやトーマツの例を見ても、「虚偽の財務書類を見逃したこと」=「監査法人の運営が著しく不当」ではないはずですが、金融庁がそのようなミスリーディングな説明をしているのでしょうか。

新日本監査法人処分 甘い体質、改革迫る 金融庁監視継続(毎日)

「「企業統治の先進企業と言われた東芝に対する安心感が大きかった」。金融庁幹部は22日、報道各社の取材に新日本の監査が甘くなった背景をこう説明した。

新日本は同じ公認会計士が長年、東芝の監査を担当してきた。東芝は早い段階で社外取締役の役割強化などに取り組んでおり、金融庁は「その間に疑いの目で臨む姿勢が失われた」と断じた。」

コーポレートガバナンスは、粉飾防止に役立たない、だから、それが整備されていても、疑いの目を失ってはならないということでしょうか。それなら、コーポレートガバナンスを強調したりしなければいいのではないかと思います。

「金融庁は「あらゆる手段で調べたが故意の見逃しは認められなかった」とし、カネボウ粉飾決算事件で中央青山監査法人(当時)に業務全般の停止を命じたケースとは区別した。一部業務停止の期間も、東芝の不正金額が資本金を大幅に下回っていることを理由に3カ月にとどめた。」

監査難民が生じた中央青山の例とは違うということを、いいたいようです。

「新日本は処分を受けても「開示資料がすべてで守秘義務がある」などとして記者会見さえ開いておらず、情報開示姿勢に批判も出そうだ。

既に他の監査法人では「監査人への就任を打診される数が増えている」といい、新日本の顧客が流出している可能性もある。金融庁は「処分を受けた監査法人に巨額の報酬を支払って監査を依頼することに企業や株主は理解を示さない」とみている。新日本の経営への影響は不可避の情勢で、信頼回復は容易ではない。」

こういうのは役所による口先介入とでも言うのでしょうか。新日本にとっては営業妨害、他の監査法人にとっては応援団といえます。

「監査の現場では、個々の会計士の力量不足を指摘する声もあり、改革の道のりは険しい。

大手法人は全国的に事務所を展開しており、本社が全社的な監査の質を管理している。だが、金融庁によると「各地域の事務所や個別の会計士に指導を行き届かせ、一定の質を維持するのは容易ではない」。監査の適正さにはバラツキがあるのが実態という。再発防止策を作っても、監査法人全体に浸透させる実効性が問われる。」

あずさやあらたのコメントも出ています。

新日本監査法人への処分、早く結論出したい=会計士協会会長(ロイター)

「処分の場合は、規律調査会、綱紀審査会を経て正式に決定する。森会長は会見で「3段階で深度ある調査をすることになっているので、時間はかかる。しかし、本件はとにかく早く結論を出すように急いで作業を進めたい」と述べた。

協会の処分には戒告、会員資格の停止、退会勧告などがある。」

今までの積み残し案件をそのままにして、今回だけ処分を急ぐのは、かえって不公平で、協会への信頼をなくすことになるのでは。金融庁の処分が決まってしまったのですから、いまさら急いでもしかたありません。
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