ソフトバンクグループが投資している未公開企業の評価の問題を取り上げた記事。会計処理についてもふれています。
投資先の評価額は大きく増えていますが、そもそも評価モデルが弱いのではないかというコメントを紹介しています。
「ブルームバーグ・ニュースの算出によれば、ソフトバンクGが他の投資家と共に資金調達に応じた数多くの未公開企業の価値は計1500億ドル余り増えた。投資先には動画共有アプリ「ティックトック」を運営する中国のバイトダンス(字節跳動)や配車サービスの滴滴出行が含まれる。評価額はそれぞれ750億ドルと560億ドル前後。幾つかのケースでは、こうした評価額の押し上げがソフトバンクGに含み益をもたらした。
しかし、ウィーワークの失敗でこうした評価額に疑問符が付いた。同社の価値は今年、ソフトバンクGの投資を受けて470億ドルのピークに達したが、孫氏の救済策では78億ドルとの見積もりに急減した。今は人員削減と事業縮小を進めている。
ニューヨーク大学スターン経営大学院のアスワス・ダモダラン教授(金融)は「ウィーワークは単なる失敗ではない。投資モデル全体の弱さの印だ」と指摘。「評価をあれだけひどく間違えているなら、ポートフォリオにある他の企業全てはどうなっているだろうか」と疑問を呈した。」
会計処理については...
「あまり理解されていないのは、孫氏にとって企業価値を高めるインセンティブだ(原文はWhat’s not as well understood is the incentive Son has to keep valuations rising.なので、「企業価値を高め続ける(あるいは高め続けなければならない)インセンティブ」では?)。ソフトバンクGが新興企業の株を取得し、評価が高くなって再投資すると、利益が出るという。会計上は合法だが、ソフトバンクGには一銭も入らない。価値が高まって変わるのは、例えば10億ドルの元々の持ち分の評価額が20億ドルに増える点だけだ。この差の10億ドルの少なくとも一部がソフトバンクの損益計算書やリターン計算で利益と見なされ得る。」
「ソフトバンクGは同社の会計はあらゆる基準を順守しており、一般的に認められる会計実務に沿っていると説明。新興企業の評価は自社で決めず、セコイア・キャピタルやテマセク・ホールディングスなど経験豊かな企業と共に投資するほか、評価を決める厳密な内部プロセスがあるなどとし、監査法人が計算をチェックするとも付け加えた。」
会計基準に問題があるのか...
「ユニコーンの価値を巡り従来はなかった臆測が浮上する時代に、現在の会計規則はそぐわなくなってきたかもしれない。ソフトバンクGが従う国際会計基準(IFRS)では、ポートフォリオ上の企業の価値決定に大きな自由裁量が与えられる。明確でないのは、同社ほどの規模でテクノロジー新興企業投資に伴う含み益を決定しようとする企業があったかどうかだ。
ニューヨークの税専門家、ロバート・ウィレンス氏は「未上場株投資に関し、これほどの規模の収益を記録する試みが見られたことはこれまでなかったと思う」と語った。」
「ソフトバンクはIFRSの規則の下、ビジョンファンドは主たる事業が投資であるため、ポートフォリオ企業に評価額変更があれば損益と捉えねばならないと結論付けたほか、同ファンドが連結対象であるため、ソフトバンクGの財務諸表に反映させねばならない。事情に詳しい関係者1人は、その結果の収益の数字に実質的な意味はないが、現行規則の下では他に良い会計手法がないとしている。」
そもそも、未公開企業に対する投資の会計上の評価額としては、(会計基準で認められないものを含めても)それほど多くの選択肢があるわけではなく、時価か、原価(+減損処理)か、連結して(あるいは持分法を適用して)投資先の個々の資産・負債に時価や原価などを適用するか、ぐらいしかありません。そのような限られた選択肢の中では、欠点はあるにしても時価を適用するのはおかしなことではありません。
時価を使う考え方の根底には「みんなの意見はだいたい正しい」という発想があるのでしょう。しかし、ソフトバンクグループの投資先については、孫氏ひとりの意見に基づく巨額投資それ自体が、時価に大きな影響を与えているようにもみえます。
時価を適用するしかないとしても、そういうぶれの大きなものだと覚悟して、出てきた決算数値を使うしかないのでしょう。
代替案としては、(会計基準上は認められませんが)持分比率が低くても持分法を適用することが考えられます。持分法適用により、投資先の実際の事業活動の結果が会計数値に反映されることになります。未実現の利益も、基本的には計上されません。もっとも、のれん相当額については、将来予測の要素が入ってきますが...。
記事原文。
After WeWork, SoftBank’s Startup Bookkeeping Draws Scrutiny(ブルームバーグ)
会計評論家の細野氏もソフトバンクグループの会計処理、開示のあり方、経営思想などを批判しています。
↓
「孫正義」一世一代の大芝居で取り繕う窮状 真っ赤っかどころか火の車「ソフトバンク」破綻への道(デイリー新潮)
全部が当たっているとは思いませんが、ソフトバンクグループの開示姿勢への批判については賛成できます。
「孫氏は6日の記者会見で「もはや私は会計上の売り上げとか純利益とかに目線を置いて経営をしていない。株主価値、これを最大のものさしとしている」と発言し、決算説明会のプレゼン資料等でも“株主価値”が増えていることを強調していた。
具体的には、SVFが3兆2千億円、アームが2兆7千億円、スプリントが3兆1千億円、ソフトバンク株式会社が4兆8千億円、アリババが13兆3千億円、その他が8千億円で、合計27兆9千億円の資産価値に対して純負債が5兆5千億円。正味株主価値22兆4千億円となり、これは第1四半期末より1兆4千億円増えているというのだ。
そもそも、会計上、株主価値なるものは定義されていない。SBGが独自に定義し、彼らだけに通用する株主価値というわけだが、当のSBGはその定義を明示していない。最近、日本においても財務諸表上の経営指標ではなく、会計上の定義がない独自指標を使って開示を行う企業が散見されるが、困ったことである。米国では10年ほど前に大流行したことがあり、米国証券取引委員会がこれを規制するに至っている。
今回は、ウーバーやウィー社の失敗で巨額減損が出たので、「国際会計基準では経営実態は分からない」などとして、独自指標の株主価値なるものを持ち出してきた。この人たちは自分に都合が悪くなると基準を変える。SBGの一般投資家に対する姿勢に疑問を感じる。」
これを見逃している監督当局(金融庁、取引所)も同罪でしょう。
細野氏については、日経夕刊の連載で取り上げています。
↓
「本当の粉飾」はこれだ 有罪判決の元会計士が開く闇 会計評論家・細野祐二さん(1)(日経)(記事冒頭のみ)
「会計評論家の細野祐二さん(65)は自らを「不正会計分析官」と称する。企業が公表している決算情報をもとに、これまで多くの粉飾を暴いてきた。本来チェックすべき監査法人は、企業との癒着から見逃しているという。原点には大手監査法人でパートナーまで務めながら、粉飾に関与したとして逮捕された挫折体験がある。」
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