会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

経営リスク開示見直し、前3月期から適用 企業会計審が決定

NIKKEI NET(日経ネット):経済ニュース 〓マクロ経済の動向から金融政策、業界の動きまでカバー

金融庁の企業会計審議会が9日に総会を開き、継続企業の前提に関する開示の見直しを正式に決めたという記事。

「重大な経営リスクを示す「注記」の開示を少なくするとともに、情報開示の頻度を2段階にして、きめ細かく投資家に情報を提供する体制に改める。2009年3月期から適用する。」

正確な情報については、金融庁のホームページに9日の総会の資料が掲載されており、公開草案からの修正点なども明らかにされているので、そちらをご覧下さい。

企業会計審議会総会・第20回監査部会合同会合 議事次第

これを見ると、総会に提出された案はほぼ公開草案と同じです。報告基準の改正部分が若干公開草案から変わっているだけです。その他、意見書の前文で現行の規定を説明した部分を修正しています。

「・・・継続企業の前提に関する注記の開示を規定している財務諸表等規則等やその監査を規定する監査基準において、一定の事象や状況が存在すれば直ちに継続企業の前提に関する注記及び追記情報の記載を要するとの規定となっているとの理解がなされ、一定の事実の存在により画一的に当該注記を行う実務となっているとの指摘がある。」

公開草案では「一定の事象や状況が存在すれば直ちに継続企業の前提に関する注記及び追記情報の記載を要するとの規定となっている」というように言い切っていましたが、総会に提出された案では、そのような(間違った?)「理解がなされ」ていたにすぎないと読めます。現行基準に関する評価が少し変わったようです。

公開草案へのコメントも掲載されていますが、この変更のきっかけとなったと思われる意見もあります。

「現行制度についての説明で、一定の事象や状況が存在すれば直ちに継続企業の前提に関する注記及び追記情報の記載を要するとの記述がありますが、現行の監査基準の前文では、単に事象や状況が存在するだけで直ちに注記するとは言っておらず、重要な不確実性が残る場合に注記すると言っています。

同様に日本公認会計士協会の監査委員会報告第74号でも、重要な不確実性が残ることにより重要な疑義が存在する場合に注記が必要となると言っており、やはり今回の公開草案における現行基準についての記述とは異なります。

このあたりをもう少し正確に記述する方がよいと思われます。」

改正そのものに関する意見ではありませんが、この意見のとおりだと思います。改正内容はともかく、金融庁は、重要な基準を改正しようというのに、現行の基準をろくに読まないで作業しているようで、非常にずさんな感じがします。

そのほか、以下のようなコメントもありました。

「監査基準と財務諸表等規則との間の不整合は財務諸表等規則に原因があり、財務諸表等規則を改正すれば解決する問題である。」

「・・・「継続企業の前提に関する重要な疑義」と「継続企業の前提に関する重要な不確実性」とが別々の概念として捉えられる構造となっており、両者の定義の違いの説明が必要。」

「「継続企業の前提」のような重要な項目については、時間をかけ、検討状況をホームページ等で知らしめながら議論すべき。

 平成21年3月期をにらんで不況企業対策のため実施したととられかねない。」

日経記事によれば「政府・与党がまとめた追加経済対策でも会計基準の動向に注意を払う文言が盛り込まれており、金融庁もこれに合わせてルール見直しを早めた」そうですから、「とられかねない」というより、まさに不況対策としての改正です(効果は疑問ですが)。

(補足)

現行の監査委員会報告第74号より

「経営者は、継続企業の前提に関する評価の結果、期末において、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在し、その解消又は大幅な改善に重要な不確実性が残ることにより継続企業の前提に重要な疑義が存在すると認識したときは、当該疑義に関する事項を財務諸表に注記することが必要となる。」

このように現行基準でも「事象又は状況」の存在と「重要な疑義」の存在は別物です。「「重要な疑義」の存在=「継続企業の前提に関する注記」」ですが、「「事象又は状況」の存在=「重要な疑義」の存在」ではないため、「「事象又は状況」の存在=「継続企業の前提に関する注記」」とはなりません。
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