中央大学の高田橋教授に、米国のIFRS導入において検討されている「コンドースメント・アプローチ」についてインタビューした記事。
「―― この5月にSEC(米証券取引委員会)から出された「スタッフペーパー」(提言)のなかで、“Condorsement Approach”(コンドースメント・アプローチ)という概念が明確化されましたが、その内容を教えてください。
“Condorsement”とは、コンバージェンス(Convergence=収れん)とエンドースメント(Endorsement=承認)をかけ合わせた造語です。
IFRSの導入方法はこれまで、全面適用のアドプションと、EU諸国やオーストラリアなどが進めているエンドースメント(承認)、中国やインドなどのコンバージェンス(収れん)の3つがありました。エンドースメントとコンバージェンスの大きな違いは、自国基準を持ち続けるかどうか。エンドースメントでは、IFRSを基本にして一部修正・追加しながら使っていくことになります。自国基準を残すという意味ではコンバージェンスですし、必要なものを認める意味ではエンドースメント。コンドースメントは2つのアプローチを重ね合わせた方法といえるでしょう。」
「―― 「コンドースメント」が残された方法のひとつだったということですね。
米国はまず、米国の資本市場にとってIFRSが適切な基準かどうか判断するといった考えに立っています。これまでの基準では、米国から見たらIFRSは使いにくい。大きな理由としては昔からいわれているように、適用のガイダンスが少なすぎるということ。これはプリンシパルベースのIFRSとルールベースの米国基準の決定的な違いに結びつきます。
これらの問題がからみあって、インタープリテーション(解釈)やガイダンスを入れて米国的なIFRSを作らなければ使えないという合意が形成されつつありました。それを実現するのが、今回明確化された「コンドースメント」という考え方なのです。このアプローチを使うと、米国でIFRS導入が現実味を帯びてきます。この点で大きな意味をもっています。」
「―― 一方で、IFRSそのものが急速に変化しているという指摘もあります。
IASBとFASBが目的概念を共通化したことによって、IFRSのフレームワークも変わっています。これは非常にインパクトの強い事実ですが、あまり日本には伝わっていないようです。共通化された目的概念は、実はほとんど米国基準に合わせてある。日本のIFRS関連書籍などには「IFRSは公正価値会計でB/S(貸借対照表)中心」などと書いてありますが、それは古いフレームワーク。いまのIFRSは全く違います。
具体的には、P/L(損益計算書)の論理が復活しており、公正価値も全面適用でなくなっています。従来と逆に「企業評価ではない」とも明言しています。財務報告というより会計的なコンセプトになっている。2011年6月の「東京合意」におけるトゥイーディー前IASB議長のコメントのなかに「NEW IFRS」という表現があったのは、おそらくこのあたりが背景になっていると考えられます。」
日本の任意適用は、IFRSの基準ひとつひとつを承認しているので、エンドースメントということになるのでしょう(強制適用ではなく、非上場会社もあるので日本基準も残っていますが)。
日本の方向性はわかりませんが、今後米国の働きかけにより、さらに米国基準に近づいたものになるであろう新しいIFRSを、時期はともかく、エンドースメント方式によって導入するということになるのかもしれません。IFRSの方が日本基準に近づけてくれるということは、ほぼ100%ないでしょう。

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その2(SECの委員のIFRS推進発言について)
ちなみに、会計・監査ジャーナル(日本公認会計士協会の機関誌)2011年8月号に「IASB新旧理事に聞く、IFRSの今後の展開と日本の役割」という座談会記事が掲載されています。また同じ号に、東京大学の大日方教授による「IFRSと公正価値会計」という解説が掲載されています。後者の方は「健全な合理的批判精神を持つ者は、根拠のない主張に対して懐疑的な視線を向ける」ということで、非常に冷静(冷淡?)な議論を展開しています。
さらには、「IFRSの組込みに関する米国SECのスタッフ・ペーパー」をいう解説記事も掲載されています。コンドースメント・アプローチについてのかなり詳しい説明です。