オリンパスが、問題の国内3社を買収する際、当時の取締役会が、3社の企業価値を算定した報告書ができる1週間前に買収を決めていたという記事。
「朝日新聞が入手した内部資料によると、オリンパスは2008年2月22日の取締役会で、資源リサイクル会社アルティス、健康食品販売会社ヒューマラボ、調理容器製造会社NEWS CHEFのベンチャー3社の株式を最大613億円で買い取り、子会社化することを決めた。しかし、民間の信用調査会社によると、当時の3社の売上高は合計でも数億円。よほどの急成長を見込まなければあり得ない高額買収だった。
ところが、この買収額の裏付けとなる3社の企業価値を外部の公認会計士が算定した報告書は、この取締役会の決定後に作成されていた。うち1社のアルティスの報告書は、買収を決めた取締役会の1週間後の2月29日付で、2012年度の売上高が194億円に急増するという過大な事業計画にもとづき、335億~469億円の企業価値があると試算。取締役会が決めた巨額支出を事後的に正当化する内容になっている。」
このことは雑誌FACTAのブログ(当サイト関連記事)ですでに取り上げています。
オリンパス、6ファンドへ700億円 損失穴埋め流用か(朝日)
国内3社を買収した際の資金流出先のファンド名が出ています。すでに、海外メディアで報じられた先のようです。(当サイトの関連記事)
会合2回10時間の調査で買収「適正」 21年にも第三者委設置(産経)
「関係者によると、オリンパスの会計監査を担当していたあずさ監査法人が、英医療器具会社「ジャイラス」買収の際に助言会社に支払われた報酬や、国内3社の買収費を問題視。オリンパスの監査役会が21年5月、弁護士、公認会計士、元大学教授の3人でなる三者委を設置した。
だが産経新聞が入手した報告書によると、三者委の会合が行われたのは(1)5月14日午前9時から午後1時(2)同17日午後7時から18日午前1時までの2回のみ。時間は計10時間だった。
調査では森前副社長ら数人に対する聞き取りが行われたが、報告書では「ヒアリングの対象者が極めて限定されていた」と指摘。オリンパス側からは財務決済書など約60点の資料が提供されたが、「開示資料を網羅的に精査できていない」「発見できたであろう事項が発見できていない可能性もある」とする一方、最終的に「不正は認識できなかった」と結論付けた。
この調査結果は元英国人社長が高額な買収費用を指摘した際、森前副社長が「適正な支出だった」とする根拠としても示されたという。」
これも海外メディアで報じられています。(当サイトの関連記事)
いい加減な評価計算書を提出した公認会計士や形だけの第三者委員会の委員に就任した公認会計士は、報告書に報告の性質(手続が限られていたことなど)に関する記述を行い、責任を負わないようにしているのだと思われますが、職業倫理的にはグレーゾーンになりそうです。
ところで、オリンパスの不正経理問題では、2つの大きな不正があります。
ひとつめは、10年以上前から行われてきたといわれている、損失先送りスキームです。これについては、その規模、手口などほとんど明らかになっていません。断片的で、かつ抽象的な情報は報じられてますが、固有名詞(ファンドの名前、関与した金融機関の名前、社内のだれがやっていたのか、どのような金融商品に投資していたのかなど)や不正が行われた具体的な時期(2001年3月期からといわれていますが、報道によるとそれ以前からグレーな会計処理をしていたようです)、不正の具体的な手口、不正の規模等、具体的な情報はほとんどありません。
(それなのに12月14日までの四半期報告書提出は確定しているように報じられているのは不思議です。)
もうひとつは、国内3社や英ジャイラス社の買収にかかわる不正です。これについては、FACTAの報道やウッドフォード元社長が依頼したPwCのレポート、その後の内外メディアの報道により、かなりわかってきました。ただ、これは損失先送りスキームの後始末のための不正であり、長期にわたる損失先送りがこれで発覚したという意味はありますが、やはり、重要なのはひとつめの長期損失先送り問題でしょう。
また、買収関連の不正でねん出した資金が、どのようなルートや方法で損失先送りスキームの清算に充てられたのかという点も不明のままです。
この大きな2つの問題と関連して、監査に不備がなかったのかという点も問題となっています。
監査人交代(引き継ぎが適切に行われたのか、引き継ぎの結果が手続にきちんと反映されたのか)、他の監査人の利用(英ジャイラス社の監査人からの報告をどのように扱ったのか)、異常な買収価格、異常なアドバイザリー報酬(金額、支払い形態とも)といった異常な取引についてどのような手続を行い、それをどのように集約して結論を出したのか(第三者委員会(2009年)を設けさせる、減損処理を求めるなど、できるだけのことはやっていたようですが)、金融商品の時価会計導入時に有価証券投資の状況やその会計処理を十分に検討したのかなど、多くの論点が考えられます。
会社の第三者委員会の報告、当局や会計士協会による捜査や調査の結果によって、これらが明らかになることを期待します。
責任の追及はそのあとでもよいように思います。
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