魑魅魍魎が跋扈、いまだに残された未解明の謎
30年前の今頃、中心人物たちが逮捕されたイトマン事件を振り返った記事。当時取材していた元記者が書いています。
「温暖化がここまで人の口にのぼっていなかった1991年7月23日、大阪は気温36度の猛暑を記録した。
その日、中堅商社イトマンの河村良彦元社長と伊藤寿永光元常務、不動産管理会社の許永中代表らが大阪地検特捜部に商法(特別背任)違反などの容疑で一斉に逮捕された。日本中が沸き立ったバブル経済にとどめを刺す一矢となった。」
「イトマン事件とは、バブル経済期最終盤の1年足らずの間に住友銀行(現・三井住友銀行)系の商社・伊藤萬(その後イトマンに社名変更)から数千億円が引き出され、株、土地、絵画、ゴルフ会員権などを通じて広域暴力団山口組ともつながる闇の世界に流失、大阪地検特捜部などが主要人物らを逮捕、起訴、有罪に持ち込んだ事案だ。事件により、日本を代表する企業の経営者多数が辞任に追い込まれ、イトマンや大阪府民信用組合をはじめ多くの組織が消滅した。」
河村氏の「犯行動機」が謎のままなのだそうです。
「イトマンは、粉飾しても経常利益が100億円程度に過ぎない会社だ。バブル崩壊がなくてもいずれ行き詰まることはプロの経営者でなくても容易に想像がつく。経営破綻すれば、買い占めた自社株も紙くずになる。「会社に損害を与える意思はなかった」という弁明は否定されて当然だが、一方で「自己利益」になろうはずもない。にもかかわらず泥沼に突っ込んでいった理由が不明なのだ。この最大の謎に対して、検察の立証と裁判所の認定には隔靴搔痒の観が否めない。」
捜査当局は銀行にはほとんど手をつけなかったそうです。
「検察は、アングラ勢力に対するもう一方の当事者である住友銀行にはほとんど手をつけなかった。河村氏の動機が不明である理由の1つはそこにある。
メインバンクの住友銀行は、伊藤氏が入社する前からイトマンの変調と河村氏の暴走には当然気づいていた。それでも、同行が首都圏で地歩を固めた平和相互銀行の吸収合併で、磯田氏の意を受けて大きな役割を果たした河村氏に強く意見をすることができなかった。
一方の河村氏も磯田氏のマンション購入の手続きから賃借人のあっせんまでを引き受け、磯田氏の娘婿の会社を物心両面でバックアップした。そもそも事件となった絵画取引の発端は、磯田氏の娘が河村氏に持ち掛けたことである。」
「検察は、河村氏の動機を解明し、事件の全体像を示すために当時の銀行内部の状況を検証する必要があったはずだが、最も重要な証人であり当事者である磯田氏や磯田氏の長女夫妻について、証人申請はおろか調書の証拠申請すらしなかった。
銀行の経営陣のなかで唯一申請した巽外夫頭取(当時)の調書を弁護側が不同意としたのに対し、証人申請もしなかった。意図的に避けたことは明らかだ。
捜査は、広島高検検事長を務めた住友銀行の顧問弁護士(故人)と同行融資3部が描いたシナリオに沿って進められた。銀行をできるだけ傷つけずに、暴力団につらなるアングラ勢力だけを摘出する。関西の検察幹部らは住友銀行の経営陣と定期的な会合を持つなど以前から親密な関係にあった。資本主義の総本山を守り、アウトローを排除する。所詮、検察は体制の安定装置にすぎない。国家権力の都合に合わせて捜査したということだろう。」
住友銀行は山口組に乗っ取られかねない状況だったそうです。
「巽氏は磯田氏に取り立てられて頭取になった。イエスマンともみられていたが、1990年5月、磯田氏から迫られた退任を拒否してイトマン処理の前面に立った。ある住友銀行幹部は「あのとき、巽氏が腹をくくらなかったら銀行は山口組に乗っ取られていた」と話していたのを思い出す。」
「住友銀行は結局、イトマンへの直接の貸し出しだけではなく他社分も含め数千億円の不良債権を丸抱えする形で「戦後処理」をした。信用秩序の維持を名目にしていたが、実際には司法の裁きを受けない見返りに、磯田氏らトップの公私混同や行内の派閥争いによるトラブルを預金者の金で補填し、決着をつけたということだ。」
1991年の段階で、住友銀行を徹底追及し、それと同時に、他の金融機関の乱脈融資にも厳しい目を向けていれば、バブル崩壊の影響はもっと小さくて済んだのかもしれません。
いずれにしても、この事件と比べれば、企業不祥事の多くは、取るに足らないものといえるでしょう。だからといって許されるわけではありませんが...。
会計士の実務補習などでも、上場企業や金融機関のガバナンスが崩壊するとどうなるのかという実例として、みっちり教えるべきでしょう。
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