異例の「保釈後の再逮捕」から垣間見える特捜部の焦燥
日産ゴーン事件でゴーン氏再逮捕の理由となったオマーンルートについて、特別背任の立証はできないという解説記事。会計評論家(元会計士)の細野氏が書いています。
細野氏は刑事事件の専門家ではないので、立証できない(無罪だ)といわれても、ゴーン氏はうれしくもないでしょうが、そうかもしれないなという部分もあります。
「SBAの経営者スヘイル・バウワン氏はゴーン元会長の知人であり、40社超の企業を擁する「スヘイル・バウワン・グループ」の創業者である。日産からSBAにわたった資金は総額で約35億円に上り、このうち相当額がレバノンにある投資会社「グッド・フェイス・インベストメンツ」(GFI)名義の預金口座に流れていた。GFIの経営者はSBA幹部のインド人であるが、レバノンはゴーン元会長の出身地であり、GFIの所在地も元会長の知人(故人)の弁護士事務所となっている。」
「ここで、オマーン・ルートの資金の流れは、中東日産からSBAに流れた1500万ドル(流出資金)とSBAからゴーン元会長の口座に流れた500万ドル(還流資金)に分解されるが、特別背任では、まず流出資金1500万ドルの背任性が問題とされなくてはならない。還流資金の500万ドルは、流出資金1500万ドルの背任性が認定された後の(会社に与えた)損害額認定の問題である。
流出資金の1500万ドルは、SBAに対する販売促進費などの名目で送金されたというのだから、問題は、ここでの1500万ドルが取締役の背任にあたるような不当に高い販売促進費であったかどうかの一点にある。仮に、この1500万ドルが正当な販売促進費の範囲内であれば、それを貰ったSBAがその金を何に使うかは自由で、そこに東京地検特捜部が民事介入すべき事件性はない。オマーン・ルートが特別背任罪に該当するかどうかは、一に1500万ドルの販売促進費の妥当性にかかっている。
オマーンでの日産の自動車の販売実績は年間540億円程度で、これに対してSBAに対する販売促進費は2年8カ月で1500万ドル、すなわち、年間約6億円(≒1500万ドル×@112円60銭÷2.67年)である。売り上げに対する販売促進費率は1%(=6億円÷540億円)となる。
そこで、日産自動車は、(本件販売促進費が)「販売実績に比べて金額が突出している」などとして特捜検察の援護射撃を行うのであるが、この日産側コメントは間違っている。なぜなら、自動車メーカーからの販売奨励金は販売実績に基づき支払われるのではなく、メーカーの販売政策に基づき決定されるからである。もとより、アラビア半島の自動車市場には日本の販売手法が通用しない。アラブに対する販売奨励金を日本の常識で判断することはできない。
中東湾岸諸国に住んでいる居住者の圧倒的多数はインドやフィリピンからの出稼ぎ労働者で、彼らは車を買わない。車を買うのは少数のアラブ人富裕層に限られている。だから、テレビコマーシャルもさしたる効果がない。中東での自動車販売は、日本のようにキャンペーンやチラシを配ったりしてチマチマやるのではなくて、有力者のところにまとめてお金を落とすというやり方をする。アラビア半島は部族国家なので、部族を押さえれば車は必ず売れる。それがアラブの正義なのである。
サウジアラビア・ルートのファリド・ジュファリ氏に対する約16億円の販売促進費も同様であるが、オマーンで年間6億円程度の販売促進費はまことに正常で、むしろ安いくらいと考えるべきであろう。大手メディアは、これらの販売促進費がCEO予備費から支払われたことをもって、CEO予備費が不正の温床と断罪するが、それは、むしろアラブに対する販売促進費の支払手法として機動性と柔軟性に優れていたと評価することもできる。」
「部族を押さえれば車は必ず売れる」というのが正しいかどうかはわかりませんが、たしかに、日産の子会社が支払った先は、それなりに大きな自動車販売事業をやっており、東京オリンピック誘致の際のわいろ疑惑と違って、ペーパーカンパニーではありません。明らかにおかしな金額というのでなければ、経営者の裁量の範囲内でしょう。しかも、ゴーン氏が決められた裁量の範囲を逸脱していたというのならともかく、ゴーン氏は日産から合法的にCEO準備金という形でそういう裁量を与えられていたわけてす。結果として販促費支払いが販売増に結びつかなかった場合、経営責任を問うことはできても、すぐに刑事責任に結びつくというのは理解できないところです。
「特捜検察は、①SBAからゴーン元会長の実質保有する銀行口座に500万ドルが還流していること、並びに②この還流資金が「ビューティー・ヨット」のクルーザーや「ショーグン・インベストメンツ」の投資資金に使われていることを理由として、だからということで、日産自動車に500万ドルの損害があったことは明らかとしている。しかし、還流資金がゴーン元会長の親族のクルーザーや投資に使われたことと、日産自動車に損害が発生しているかどうかの判断は、会計上何の関係もない。
ここでの還流資金500万ドルは、SBAからGFIを通して「ビューティー・ヨット」や「ショーグン・インベストメンツ」のクルーザーや投資金に化けている。...
GFIの決算書には、「ビューティー・ヨット」に対する貸付金と「ショーグン・インベストメンツ」に対する出資金が500万ドルとして資産計上されているはずで、さらにSBAの決算書には、GFIに対する貸付金が500ドルとして資産計上されているに違いない。すなわち、還流資金の500万ドルには損失が発生しておらず、ここには日産の損害が認定できない。これでは、公判で弁護側がGFI及びSBAの決算書を証拠提出して会計上の損害がないことを立証すれば、検察官に勝ち目はない。本件オマーン・ルートは、1500万ドルの流出資金に背任性はなく、還流資金に損害は認定できない。こんなものが特別背任になることなどあり得ない。」
要するに、SBAがゴーン氏関連といわれる会社(GFI)に貸付を行っても、それがビジネスとして成り立つような貸付であれば、SBAからゴーン氏への利益供与ということにはならず、したがって、特別背任にはならないということなのでしょう。(細野氏の主張とは違って、結果としてSBAに損失が生じたとしても、貸付を行った時点で、合理的な取引であれば、問題はないように思われます。)
もちろん、仮に、利益供与でないにしても、経営者が会社の取引先からこっそり貸付を受けるというのは、ビジネス倫理上、大きな問題です。それを理由に、取締役としての責任を追及する、場合によっては解任するというところまではわかるのですが、直ちに刑事責任の問題になるのでしょうか。
検察・日産べったりの産経新聞も、問題の販売代理店に実態があることは認めています。
↓
ゴーン容疑者のオマーン友人、「カルロス」と呼ぶ蜜月関係(産経)
「関係者や同社のホームページなどによると、バハワン氏は1960年代から、弟と世界各国の有力メーカーの販売代理業を営んで富を築いてきた。トヨタの輸入も手がけ、「再輸出分も国内での販売として登録していたので国内シェアは8割と圧倒的な知名度だった」(関係者)という。
2003(平成15)年頃に兄弟関係の悪化から、同社の資産を分割し、弟がトヨタを、バハワン氏はそれ以外のメーカー二十数社の販売代理業を担った。
この頃、日産子会社の中東日産(アラブ首長国連邦)にバハワン氏側から接触があったという。オマーンでは「国内シェア3%程度」(関係者)だった当時の日産にとって魅力的な提案だった。翌年4月から日産はSBAに販売代理業を委託。SBAは豊富な資金を元に、首都マスカットに世界最大級(当時)のショールームを建設した。
05(同17)年6月、3000平方メートル超のショールームが公開され、ゴーン容疑者もオープニングイベントに参加。関係者によると、ここでバハワン氏と初めて対面したとみられる。」
世界最大級のショールームをつくるぐらい自動車販売代理業に力を入れているわけですから、そこに販促費を多く投入するというのは、別におかしくはありません。
「バハワン氏はオマーンを訪問した日産関係者に、数百万円の高級ブランド腕時計などを贈ることもあったという。関係者は「ゴーン容疑者には、その十倍くらいの贈り物をしていたのではないか」と話した。」
小ゴーンがいたということになりますが...。(もちろん、高級ブランド腕時計は、相手側の顔を立てるためにいやいや受け取ったのでしょう。)
ビルの1室に40社登記、実態なしか 日産資金の還流先(朝日)(記事前半のみ)
「関係者によると、特捜部は昨年、日産を通じベイルートの前会長宅にあったパソコンなどを入手し、大量のメールなどを分析。」
まさに、日産は、検察の手先になって動いていたようです。それにしても、前会長の私物を勝手に持ち出して、レバノンの法律に違反しないのでしょうか。また、検察はレバノンの主権を侵害しているようにも見えます。
最近の「不正経理」カテゴリーもっと見る

特別調査委員会の調査報告書公表に関するお知らせ(コレックホールディングス)ー子会社において不正な助成金申請代行業務ー
中国貴州省の女性官僚(61)、政府のサーバーでビットコイン荒稼ぎ(Yahooより)
上場廃止等の決定:(株)創建エース(東京証券取引所)-「2022年3月期から2024年3月期までの連結累計売上高約87億円のうち、架空と認められた売上高約73億円(約84.7パーセント)が取り消し」ー
菓子製造会社から3億9260万円業務上横領の罪 元・経理担当の男に検察が懲役10年求刑=静岡地裁沼津支部(SBSより)
《ブラジル》「犯罪の天才」は日系税務官=母親の資産激増で発覚(Yahooより)
オルツ、半期報告書の提出延長申請を検討 「決算数値確定に時間」(日経より)
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
2000年
人気記事