「第三者委員会」が信用できないワケ 東京五輪、企業不祥事、いじめ問題が解決しないのはその構造に問題があった!
「第三者委員会」はあきれるずさんな後始末の“温床”か 東京五輪、企業不祥事、いじめ問題を取り巻く調査のワナ
おなじみの八田教授が、作家の佐藤氏(ウクライナ戦争に関してロシア寄りの発言をしているひと)の対談相手として、第三者委員会について語っている記事。佐藤氏の書籍からの抜粋です。教授は、教授がかかわっている「第三者委員会報告書格付け委員会」による評価結果にふれながら、持論を述べています。
「八田 第三者委員会を設置して、だいたい2~3カ月後には報告書が出ます。でもメディアは2~3カ月も待てないんですね。そのため、報告書が出たころには関心が薄れてしまっていて、記事は小さなものにしかならないし、その検証もしない。公明正大な第三者委員会が出した結論だから、それをメディアはそのまま受け入れてくれる。そうなれば、企業としては不祥事の幕引きができるわけです。
佐藤 そこには第三者委員会のメンバーへの信頼があるわけですが、ほとんどは弁護士です。八田さんは、弁護士の新しいビジネスだと指摘されていますが、その中でも特に「ヤメ検」(検察官OBの弁護士)のビジネスではないですか。
八田 そうですね。元裁判官もいますが、もっとも好まれて選ばれているのは、ヤメ検です。
佐藤 ヤメ検は、一時期は特捜部の扱う事件などの弁護で重宝されていました。ただ基本的に事実関係を認めて執行猶予を取りにいく戦法です。だから失敗すると実刑になるし、その確率も高く、費用もかかります。それで最近は人権派弁護士に頼むという流れができてきました。こちらは費用が安いし、執行猶予を取れる可能性も高いと私は見ています。だからヤメ検に格好のビジネスが見つかったのだと思いました。
八田 法曹界全体としてもそうで、司法制度改革で2004年に法科大学院が誕生し、司法試験合格者が大幅に増加します。それで大量の弁護士余りという現象が起きました。そこへ現れた第三者委員会は、弁護士業界にとっては「過払い金返還請求ビジネス」と並ぶ大きなビジネスチャンスでした。いまや第三者委員会専門の事務所もあるようです。」
会計不正関係では、メディアだけでなく、監査人や当局も、第三者委員会の結論をほぼそのまま受け入れているように見えます。だからこそ、何千万、何億とコストがかかっても、第三者委員会に頼るのでしょう。
「八田 私に声が掛かったのも、格付け委員会に会計の専門家がいなかったからです。私はもともと第三者委員会には懐疑的だったので、最初はお断りしようと思った。でも当時、第三者委員会が設置される案件の多くが不適切会計だったのです。
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八田 ところが自助努力の一つとなる第三者委員会のメンバーのほとんどが法律家で、彼らは会計の理論や基準をほとんど知らない。
佐藤 簿記もできないかもしれないですね。
八田 弁護士資格で税理士登録することは可能ですが、大半は会計を知りませんよ。彼らがかつて行われた会計処理や手続きの正当性、妥当性を判断している。そんなことは無理です。会計には主観的要素もあって、一義的に答えが出ないものがたくさんあるのです。」
いっそのこと、会計不正に関しては、大手または準大手の監査法人が、まるごと調査を請け負って、法律判断が必要な部分だけ、法律事務所に下請けに出すのが、合理的だと思います。はずかしい調査内容だと、ブランドが損なわれるので、ある程度の質は確保できるでしょうし、リスクアプローチを適用して、効率的に調査するのも得意でしょう。
官庁関係の調査は、さらにひどいようです。
「佐藤 東京五輪招致活動に関わる日本オリンピック委員会(JOC)「調査チーム」の報告書も極めて低い評価でした。最低評価のDが6人、不合格のFが2人です。
八田 この報告書は「疑惑の隠れ蓑」として機能した典型です。東京五輪の招致活動の際、国際陸上競技連盟会長で国際オリンピック委員会(IOC)委員でもあったラミン・ディアク氏の息子が関係する口座に230万ドルを振り込み、贈賄が疑われたケースです。コンサルタント契約と言いますが、相場の2倍の額で、そのお金でどんなロビー活動がなされたかはまったく解明されませんでした。
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八田 このケースがさらに酷かったのは、報告書を公開しなかったことです。記者会見で一部メディアに配ったものの、JOCのホームページにも載せず、一般公開しませんでした。竹田会長が国会で「調査チームを発足させ、送金の流れを調査する」と言っているにもかかわらず、です。当初、私たちも入手できず、報告書の格付け委員会の中心である弁護士の久保利英明(くぼりひであき)氏がメディア関係者から入手できたことから、格付けすることができたのです。
佐藤 税金を投入して開催する五輪ですから、国民すべてがステークホルダー(利害関係者)のはずです。
八田 そしてフランスの検察が竹田氏を事情聴取したことが明るみに出ると、この報告書を引き合いに出し「日本の法律において契約に違法性はなかった」と釈明しました。まさに報告書を「隠れ蓑」に使ったのです。」
第三者委員会を機能させるには...
「八田 まずはきちんとした委員を選ぶことです。「第三者性」を考えて選ばなければなりません。私の専門の監査論では、第三者という言葉はキーワードです。独立性、公平性に加えて、専門性、倫理性も含めて第三者性と言います。
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八田 その第三者性とともに大事なことは、情報開示です。報告書の開示はもちろんですが、第三者委員会の大きな問題は、報酬が開示されていないことです。どんな小さな委員会でも1億円近くのコストはかかるようです。事件の規模によっては、数億円から数十億円にもなる。
佐藤 だからビジネスになりうるわけですね。
八田 企業は不祥事で株価の下落などの損害を被った上に、第三者委員会設置のコストを負担するわけです。だからそれをちゃんと開示することで、ステークホルダーの信頼を得る必要があります。依頼主からお金をもらってその依頼主を調べ上げるのは、監査法人による会計監査も同じです。こちらは、有価証券報告書の中の「監査の状況」の項において監査報酬を開示することになっている。」
「八田 もっと言うと、開示は民主主義の原点です。国民が正しい判断をしたり意思決定したりする前提として、正しい情報を適宜適切にきちんと公開しないといけない。だからこの第三者委員会が信頼に足るものになるかどうかも、そこに懸かっていると思います。」