経済ジャーナリストの大西氏と磯山氏が、東芝の現況について語った記事。特に新しい情報はなさそうですが、さまざまな課題をだいたいカバーしているようです。
・半導体子会社の売却
「大西 東芝の綱川智社長は、SKハイニックスは出資ではなくて融資でおカネを出すので、技術流出する心配はないなどと言っていますが、それはあり得ないでしょう。
では、ハイニックスの経営陣は何千億円というおカネを出す根拠を自分たちの株主にどう説明するのか。「かわいそうな東芝を助けるためで、我々は技術をもらいません」などと言えば、株主から「バカかお前らは」と経営陣は即クビにされますよね。おカネだけ、というわけがない。」
「大西 そうして東芝が売却先を決められないうちに、半導体子会社の価値が失われていくリスクも出てきます。専門家に言わせれば、東芝の半導体技術はすでに韓サムスンの周回遅れで、ここから1兆円規模の投資をしないとキャッチアップできない。
売却交渉に手間取って投資が疎かになっている間に、すでに「2兆円」の価値を失っている可能性もあるわけです。」
・監査問題と上場廃止問題
「磯山 ...
監査法人は昨年末に突然、米原発子会社ウェスチングハウス(WH)の巨額損失が出てきたことへの不信感が強い。自分たちはその直前の四半期の決算書を承認していたので、コケにされたようなもの。だから、もう簡単にハンコは押せない。
大西 東芝は有価証券報告書の提出を延期したので、次の期限が8月10日になります。これまでに監査法人からハンコを取れるとは思えない。
磯山 だから、監査法人のハンコがない有報を出したとき、金融庁が受け取るかどうかという議論がすでに出てきています。とはいえ、そんなことを認めたら会計監査制度が根本からひっくり返るので、認められないでしょう。」
監査法人が「ハンコを押せない」というのは、日本のあらた監査法人が押せないというよりは、WHを監査している現地のPwCがどのような意見の報告書を出すのかにかかっているのでしょう。
また、意見不表明でも、監査報告書がついている限り、財務局は受け取らざるを得ないはずです。その場合に、上場廃止にするかどうかは別問題です。そのことにもふれています。
「磯山 ...だから、これから可能性が高いのは、監査法人が「意見不表明」という意見を付けた有報を提出するというシナリオです。すでに東芝は第3四半期決算時にこれをやっています。
そうなった場合、「判断」を迫られるのは東京証券取引所ですが、東証の本音はトリガーを引きたくない。
2期連続の債務超過か有報を提出できないというシナリオになれば強制的に上場廃止になるが、形式的とはいえ意見不表明付きの有報提出となれば、東証がどうするかを「判断」しなければいけない。」
なお、銀行は東芝が上場廃止になってもいいという考えに傾いてきているのだそうです。
・残っているリスクについて
「大西 ...たとえば北米で手掛けているLNG(液化天然ガス)事業やウラン関連事業などが、近い将来に巨額の損失に化ける可能性は高い。特にLNG案件は最大1兆円規模の損失リスクがあり、WH級になりかねない。
また、これからややこしくなりそうなのが、WHが手掛けていた原発の発注主である米電力会社との交渉です。東芝側は「和解した」と言っているが、電力会社側は「原発を完成させることが大前提」「それができないならトランプ政権に訴える」と牽制している。
磯山 東芝はWHにチャプター11(米連邦破産法11条)を申請して連結から外したから、「もう縁は切れた」「リスクは遮断した」と言っていますが、そんな虫のいい話はない。
原発1基を作るのに3兆円もかかると言われていますが、これからその請求書が東芝に回ってくる可能性があるわけです。払わないと突っぱねれば、それこそ訴訟ラッシュになるでしょう。」
これらのほか、WHに出資しているカザフスタンのファンドから株式を買い取る義務を東芝は負っており、その損失をいつ計上するのかという問題もあります。
東芝は、2017年3月期のバランスシートは、修正後発事象が出てこない限り、発表したもので確定だといっていましたが、本当にそうなのでしょうか。非常にあやしいと思います。(監査意見が不表明なら監査人は責任を負わないので、会社の好きなようにできてしまいます。上場廃止を覚悟しているのなら、その方が会社にとっては好都合なのかもしれません。)
当サイトの関連記事(WH株のIHIからの買い取りについて)
子会社が2兆円で売れたとしても…東芝が迎える「悲惨な末路」(現代ビジネス)
「東芝には粉飾決算、米ウェスチングハウスの買収失敗に続き、もう一つ大きな闇がある。2016年3月期の有価証券報告書に記された、米天然ガス液化役務提供会社(FLNGリクイファクション3社)との間で結んだ契約だ。
2019年から20年間にわたって一定量を利用する義務があるにもかかわらず、門外漢の東芝にはノウハウや販路がないため、販売できないリスクが存在することが記されているのだ。
その損害額は最大9713億円に達する見込みという。ここへきて、来年3月の本決算では、この損害を一括損失処理するよう迫られる可能性が高まっており、2兆円という巨額の子会社売却にもかかわらず、最終的に東芝に残る自己資本はわずか4000億円強、ということになってもおかしくない。」
来年ではなく、2017年3月期に処理すべきなのでは。
米原子力「WH問題」で東芝がはまり込んだ底なしの「無間地獄」(文春オンライン)(記事冒頭のみ)
![]() | 東芝 原子力敗戦 大西 康之 文藝春秋 2017-06-28 by G-Tools |