会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

ゴーン元会長の未払い報酬90億円 日産の支払いで意見二分(日経より)

ゴーン元会長の未払い報酬90億円 日産の支払いで意見二分(記事冒頭のみ)

日産ゴーン事件で、費用計上がもれていたとされる未払いの役員報酬約90億円を、ゴーン元会長に支払うべきかどうかで意見が割れているという記事。

(1)支払うべき、(2)支払うべきでない、という考え方をそれぞれ紹介していますが、問題の立て方が不十分なように思われます。(3)費用計上する必要はなく(虚偽記載はなく)、支払う必要もない、という選択肢も考えるべきでしょう。

(1)支払うべき、という説は...

「ある弁護士は「費用として処理したのだから、原則は支払い義務がある」と指摘する。日産が実際に支払わなければ報酬が確定せず、「検察側の認定と食い違って公判立証が成り立たなくなる」との声もある。」

(2)支払うべきでない、という説は...

「専門家には「今回は例外にあたるため、支払う必要はない」との見方も少なくない。日産社内では「重大な不正を犯したゴーン元会長に支払うべきではない」との意見が優勢という。

会社法に詳しい鳥飼重和弁護士は「日産が支払いを拒否してもおかしくはない」と話す。「ゴーン元会長への未払い報酬は、取締役会の決議を経た内容ではなかった」と手続きの正当性を問題視。「日産が会社法上の手続きに問題があった支払いをすれば、公序良俗に反するため支払いの取り決めは無効と主張できる」という。」

たしかに、正式の手続を経た内容でない報酬を支払う義務は、会社にはないでしょうし、ゴーン氏の場合は、退任後のコンサル報酬という形式のようなので、役員報酬ではなく、利益相反取引のように思われますが、正式の手続を経ていない利益相反取引に基づき、会社が支払いを行う義務もないでしょう。(公序良俗を持ち出さなくても無効のようにも思われますが)

手元のやや古い会社法の教科書を見ると、以下のように書いています(神田秀樹著「会社法」の古い版)。

取締役会の承認を得ないで利益相反取引がなされた場合に、その効力がどうなるかについて、会社法は規定を設けていないので、解釈問題となる。一般に、その取引は無効であるが(ただし追認されれば効力を生じる)、会社の利益を保護する趣旨であるから、取締役の方から無効を主張することはできないと解されている。」

「定款または株主総会決議によって報酬の金額が定められなければ具体的な報酬請求権は発生せず、取締役は会社に対して報酬を請求することはできない

それでは、会計処理はどうなるのかという話になりますが、無効な取引や報酬に基づき、費用計上することは、普通考えられません。取引がまだ行われていないのであれば、会計上は無視すればいいでしょうし、支払いが行われてしまった場合は、費用計上ではなく、支払先への債権として未収入金を計上することになるでしょう(回収できそうにない場合は貸倒引当金も計上する)。

(ここでこれを参照するのはやや大げさな感じもしますが)ASBJの「財務会計の概念フレームワーク」では、負債を以下のように定義しています。

「負債とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源を放棄もしくは引き渡す義務、またはその同等物をいう。」

「ここでいう義務の同等物には、法律上の義務に準じるものが含まれる。」

つまり、決算日時点で、会社に「義務」が生じてなければ負債(ゴーン事件では「未払役員報酬」)を計上してはならないということになります。

いずれにしても、「義務」は、まずは、法律的な意味での義務でしょうから、法律関係がどうなっているのかを決めてもらわないと、費用計上すべきかどうかという会計処理の問題も解決しないということになると思います。毎年20億円の報酬が発生しているのに10億円しか計上せず、差額を退任後に先送りしようとしている、費用の期間帰属がまちがっている、けしからん、という常識的な判断は危険でしょう。

少なくとも、日産自動車は、役員の横暴から会社財産を守るべき立場にあるのですから、ゴーン氏らが裏で何を画策しようと、適切に承認手続が行われるまでは会社を拘束するものではない、無効だ(したがって会社に支払義務はない)と主張すべきでしょうし、そういう主張と整合的な会計処理は、費用・未払金計上しないというものでしょう。

コメント一覧

きんちゃん
詳しい解説ありがとうございます。
現在長期勾留されてるゴーン氏ですが、裁判でゴーン氏を有罪にできるのかますます疑問になりますね。
日産で最強の矛をもっていたゴーン氏ですが、同時に最強の盾も持ってるいるように見えますね。
kaikeinews
まさに日産の主張が矛盾しているのではないかということをいいたいのです。
ゴーン氏が、開示されていない追加の報酬約90億円をいろいろな名目をつけて受けとろうとしているのは、あまりにも強欲だ、けしからんと、日産は主張しているわけです。そうであれば、ゴーン氏らが作成した契約書などの書類は、承認されていない以上、法的には何らの効力はなく、日産には支払義務はないと主張すべきなのです。

それでは、支払義務はないという考え方と整合的な会計処理はどういうものかという話になりますが、それは、会社に支払義務がない以上、会社の費用でも未払金でもない、したがって、何も会計処理をしない(役員報酬の開示も訂正しない=ゴーン氏はこの点に関しては無罪)というものではないかということを書いたわけです。
きんちゃん
重要な結論が書いてありませんよ。
つまり、正当な手続きが取られていないで決まってるので確定報酬ではないということですね?
ゴーン氏はまさに、このことを言ってるんでしょ。
取締役会でも承認してるわけではないから確定報酬ではないと主張してます。
確定報酬ではないのにゴーン氏を有罪にしたいから日産は確定報酬にして、しかも支払わないってことですよね。
日産のやってる事の方がおかしくないですか?
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