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ジョン・ケージ プリペアドピアノのための〈ソナタとインターリュード〉全20曲 小型スタインウェイM170使用 東京初公演

2018年11月18日 | Weblog
1949年1月11日、M.アジェミアンによって《ソナタとインターリュード》が初演されて以来、様々なピアニストがこの曲のプリパレーションを研究、熟考し演奏を行なってきた。横山博さんは今回、可能な限り作曲当時に近い形、つまり、ケージが用いた小型スタインウェイ・ピアノでその響きをよみがえらせようとする。これは、バ ロック音楽を演奏する際に原典版楽譜に則り、ピリオド楽器で演奏するということを思い起こさせる。鍵盤楽器の歴史的奏法を学んだチェンバリストでもある横山さんの、独自の観点から実現されていく演奏は興味深い。
井上郷子(ピアニスト、国立音楽大学教授)








2018. 12. 22sat. 16:30open 17:00start

ジョン・ケージ作曲《ソナタとインターリュード》[1948]全20曲
小型スタインウェイピアノ使用東京初公演
古楽でよみがえる、20世紀の音色

主催:一般社団法人HIP、オフィス・ゼロ
助成:公益財団法人朝日新聞文化財団
料金:前売3,000円、当日3,500円 税込・全席自由

公演終了後18:30-19:00、プリペアド・ピアノの無料試奏をして頂けます。
お申込み・お問合せ:一般社団法人HIP
オンライン購入:https://prepared-steinway-piano.peatix.com
TEL&FAX. 028-673-4938
Email. office@cl-hip.org

会場:両国門天ホール
JR両国駅より徒歩5分

http://mercuredesarts.com/2018/11/14/select_concert-2018_12/
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●当日配布プログラムの解説

ピリオド楽器としてのスタインウェイ
   —————————— 横山博

 プリペアド・ピアノとは、ボルトやネジ、ゴム等をグランドピアノの弦と弦の間にピアニストが予め挟み込み、ピアノの音を鐘や鈴、太鼓などの音に見立て、ピアノ1台でパーカッション・アンサンブル、ガムランのような様々な音色を出す手法です。
 ジョン・ケージは1949年の文書で、「ソナタとインターリュードに好ましいピアノは、Steinway Mです」と述べています。このMというモデルはフルコンサートピアノではなく、スタインウェイが販売するピアノの中では奥行き170cmと、かなり小さなグランドピアノです。両国門天ホール所蔵のピアノはこのSteinway Mです。プリペアド・ピアノでは、ピアノの寸法と、音色、そして音高までもが深く結びついています。大きなグランドピアノ、また、他社のピアノでは、ケージの望んだ音をプリペアすることは実質不可能と言えます。つまり、スタインウェイ以外のピアノにプリペアする場合、弦の長さが足りない、長すぎる、ピアノのフレームが邪魔をして、ケージが指定した位置に挟み込めないという現実的問題が起こります。
 私は普段、チェンバロ、クラヴィコードを弾いています。調律、弦の張替えのメンテナンスは日常的なことですので、楽器内部をアレンジする事に対して何の抵抗もありませんでした。クラヴィコードは、金属と金属の接触によって、あの微細で神秘的な音色が現れます。もちろん、それが楽器にとってダメージだと考えたことはありません。
 シフトペダル(グランドピアノの左のペダル)について、ケージは、「シフトペダルの動きは、ハンマーが3つ全ての弦ではなく、2番目と3番目の弦を打つように調整してください」と出版後に報告しています。現行の国産ピアノは、工場から出荷される状態では、2本弦を打つようには設定されていないことが多いそうです。ほとんどの場合、シフトペダルはピアノの音色を「ソフト」にするものだと思われています。しかしここでは鳴り響く弦の「数」を変更する装置であり、それはチェンバロやパイプオルガンの音色を操作するメカニズムと似ています。

「私は海辺を歩きながら、自分の気に入った形の貝殻を探すように、プリパレーションの素材(マテリアル)を決めていきました」ジョン・ケージ

 ボルトの音色は日本のお寺や教会の鐘の音に似ています。高音域に多く用いられているネジの音色は鉄琴(グロッケンシュピール)のようにキラキラとしています。ポコポコといった弾力性に富むゴムのミュートが作り出す響きは、木魚の音にも似ています。
 天然素材を多く含み、一点一点形や音色も異なる古楽器製作家が作る楽器とは違い、工業製品である現代のピアノにおいては、ボルト、ネジといった金属部品は基本素材です。それらをピアノ線に挟み込み、そこから出る音色を変化させるという、コペルニクス的転回は(たとえそれが偶然の産物であったとはいえ)、私たちのピアノという楽器への理解に揺さぶりをかけるものです。1950年代から本格化する古楽器復興運動が似たような原動力を伴っていたように、プリペアド・ピアノの発想は、工業社会が生み出す完璧な楽器に対する「介入」であり「異議申し立て」でもあったのです。
 現代のピアノを調律するとき、調律師は、最初にラ(A)の音を440-442ヘルツに合わせます。しかしソナタ第16番終結部の左手親指に表れるラの音はプリペアされていないので、鐘のような音は鳴らずに、普通のピアノのラの音が鳴ります。何度も書き込まれているそのラの音を何回弾くかは、ピアニストに委ねられています。

「教会の鐘のような音はヨーロッパを連想させます。余韻があって太鼓のような音は東洋的です。この曲集の最後のソナタ第16番は、疑いようもなく「西洋人」である私の署名として作曲しました」ジョン・ケージ

●ツイッター感想集

ジョン・ケージ「ソナタとインターリュード」全20曲 小型スタインウェイピアノ使用東京初公演
典雅な演奏を至近距離で聴けた しかもその後事前申込制でプリペアドピアノを弾かせて貰えるという充実した貴重な機会
ケージ「ソナタとインターリュード」の演奏録音は沢山聴いたが生演奏を聴くのは今日が初めて
本日の横山博の至近距離生演奏は典雅で クラヴィコードでバロック以前の曲聴いているような心地良さだった
本日の横山博の演奏は 打楽器アンサンブル的でもガムラン的でもホケット的でもなく クラヴィコード的だった ネジでプリペアドされた高音域が適切なタッチで演奏され特に美しかった
ケージのプリペアドの指定の仕方はダンパーから何インチの位置に何々を挟めというもので ピアノのサイズにより弦分割の割合が変わってしまい音高も変わってしまう筈
本日のピアノはケージが想定したサイズのスタインウェイとのことで復元楽器的なアプローチ
しばてつ


横山博、ジョン・ケージ「プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード」全曲演奏会。50席ほどのこじんまりとした会場で、サロンコンサートの趣き。余計な残響が無い分、プリペアドされた複雑で繊細で多層化された豊かな音響を、直接音で間近に聴き取ることができた。至福の90分間。休憩中も、後半の途中(ソナタ13番の後)にも、ネジなどを再調整。強く打鍵するとネジなどがズレたり外れたりしてしまうので、繊細なコントロールであの複雑な音響を創り出しているのだと改めて認識。小さな会場、小型のスタインウェイMにこだわるのにも納得。
J. Y @j_y_suis
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