走る9番ライト II

2005年12月のホノルル マラソンを目指して走り始め、それに合わせて始めたブログ、今は雑記帳として使うことにしました。

ブラジル点描 20:パラチ(6)

2006年06月13日 | 雑記
フィルムがなくなったので(当時はまだデジカメをもって
いませんでしたからね)、カメラ屋さんへ行きました。
観光案内所の隣にお店を構えた小さなカメラ屋さんですが、
コダックだ、フジフィルムだ、どこでも同じです。
まぁ、どれでも同じだろう、などと言いながら買ったりした
のですが、その店のご主人、東洋系で年のころは60過ぎほどか、
ハンチングをかぶっている。おや、気がついてみると、
日本海軍の旭日旗バッジがついているではありませんか。
「あれ?あのバッジ見てご覧」
なんて二人で話していたら、そのご主人、ニタニタして
「あなたたち、日本から?」
何とこの方、日本出身でした。こんな小さなところに、日本
人が3家族いるそうです。その1つがカメラ屋さん、もう1
件がお寿司屋さん、最後は忘れました。

ブラジルへは日本からの移民が多い。先日も統計が発表され
ましたが、海外で日本人が多いのは1番がアメリカ、2番が
ブラジルだそうです。それからイギリスが続きます。それほ
ど日本に近い国でありながら、知られることの少ない国ですね。


パラチには有名な人形劇があります。Grupo Contadores de
Estorias という人形劇団ですが、Teatro Espaco という劇場
を根城に公演をしています。この劇場、100名を収容するのみ
という小さなもので、中は階段状の座席が5列くらい。舞台が
すぐ目の前にあります。
入場料を払って中へ入るとすぐに団扇を渡される。冷房がなく、
暑いのです。日本でも、昔の映画館などでは畳の桟敷があったり
して、団扇を持って出掛けたものですけどね。

暗い舞台の中央に照明を当てて演じられる人形劇は、まるで
浄瑠璃を思わせます。黒子がいて、人形を抱えるようにして
操作している。ただし、言葉はありません。音楽が流れ、
15分間ほどの小さなストーリーが披露されます。テーマは様々
ですが、いずれも人形が生きいきとしている。
ここでは1つだけ、観てみることにします。バックに流れる音楽は、
ブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスの静かなギター音楽。

舞台の中央にテーブルが1つ。
夕食も終り、お婆さんが椅子に座って裁縫をしています。
お爺さんは手持ち無沙汰に、テーブルの上で木の実を転がして
遊んでいます。
お婆さんは黙々と裁縫。お爺さんはつまらない。
木の実を転がし、お婆さんを盗み見る。お婆さんは知らん振り。
お爺さんは、木の実を1個、テーブルからコロンと落とします。
木の実はコロコロと床を転がって、お婆さんはチラッとそれを見、
何事もないかのように裁縫を続けます。
お爺さんは、クスッと笑って、木の実をテーブルで転がす。
そして、もう1個木の実をコロコロッ、床に落とす。
お婆さんは裁縫の手を休めて、木の実の行方を追い、クスッ
と笑います。
そこへ、また木の実がコロコロッ、お婆さんは口を押さえて
クスクスッ。
お爺さんは、お婆さんの傍に寄り、耳元へ何か囁く。
と、お婆さんは口を押さえて笑う。お爺さんもヒッヒッヒッ
と笑い、また何かを囁き……、二人はクスクス笑いつづける。

ストーリーはこれだけ。おそらく、今まで共に生きてきた日々が
心の中に積っているのです。その挙句の夜の時間の沈黙、そして
二人のクスクス笑い。
この2人の人形は、はっきりと人生の黄昏を描いていました。



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