*** june typhoon tokyo ***

Leroy Hutson@Billboard Live TOKYO


 まさにスウィート&メロウの極致。グルーヴの魔法に包まれた75分。

 米・ニュージャージー州ニューアーク出身、加入を勧めたカーティス・メイフィールドと入れ替わってインプレッションズに参加し、アルバム2枚を発表。その後、ソロとして数々のヒットを放ったリロイ・ハトソンの初来日公演。72歳という年齢と近年はほとんどライヴを行なっていない様子ゆえ、当初は70年代のニューソウル・ムーヴメントを担った伝説のシンガー/プロデューサーを一目見ておこうという“記念受験”ならぬ“記念ライヴ観賞”の心持ちが多くを占めていたのが正直なところ。だが、蓋を開けてみれば、麗しいメロウなシカゴ・サウンドと甘く若々しいヴォーカルとともに、一瞬にして70年代当時の儚くも美しいグルーヴでフロアを包み込む。腕利きのバックバンドを従えながら、初来日の興奮とファンへの感謝を幾度も述べるハトソンを眼前にし、脳裏を過ぎるのは夢か現か。音の魔法に酔いしれて、幻想と享楽が全身を覆っていくのを実感した。

 リロイ・ハトソンといえば、やはりダニー・ハサウェイの「ザ・ゲットー」を共作したことが個人的には印象深い。4月中旬にはダニーの娘であるレイラ・ハサウェイ、その約半月後にはダニーとアパートのルームメイトだったリロイ・ハトソン。この短い期間でダニー・ハサウェイと縁ある人物のライヴを東京で体感することになろうとは、どうして予測が出来ようか。そういった胸の高鳴りも、自身が音の魔法にかかりやすい状況を作り上げていたのかもしれない。



 バンドメンバーは9名となかなかの所帯。後方左から清廉なホーンやフルートを奏でるジェイミー・アンダーソン、キーボードのカール・ハドソン、ベースのデレク・チャイ、以前はジャミロクワイにも参加していたドラムのニック・ヴァン・ゲルダー、ひょうきんなパーカッションのコフィ・カリ・カリ、サウスポーのギタリストのデイヴ・イタル、キーボードのポール・ジョブソン、前列左にはヴォーカルのアンドレ・エスプットと独ファンク・バンドのマイティ・モカンボスとの共演でも知られるジゼル・スミス(4月にPヴァインからアルバム『ルースレス・デイ』をリリースしているとのこと)が並び、センターのキーボード、ラップトップ、タンバリンが置かれた位置にリロイ・ハトソンが陣取る。

 場内BGMからバンドメンバーが登場し「クール・アウト」を演奏し始めてから2、3曲は、バックバンドのみの演奏でフロアを温める。というよりもファンク・バンドではよくある“焦らし”で、メインキャスト登場への期待感を煽るスタイルだったのかもしれない。約10分後、白いハンチング帽をツバ後ろに被り、白のスーツジャケット姿でリロイ・ハトソンが満を持しての登壇。キーボード上のラップトップを操作しながら、ドラムのニック・ヴァン・ゲルダーとタイミングを図った後、魅惑のソウル・ミュージックにさらなる磨きをかけていく。



 シカゴ・ソウルの特徴の一つともいえる流麗で洗練されたストリングスを中心としたアレンジは音源とキーボードが担い、豊潤と上品な艶を帯びたサウンドは瑞々しくフロアの隅々まで湛えていく。リロイ・ハトソンは弾き語りという場面はなく、一部で鍵盤演奏を披露するものの、ほとんどがヴォーカル。バンドが奏でる都会的なレアグルーヴ・サウンドに自らも揺られながら、ステージの左右を往来し、スウィートでセクシーな声色でオーディエンスを魅了していく。前半はメロウでエレガントに、次第にミラーボールが輝くなかでのスウィート・グルーヴへと展開。温もりに満ちながらも決して旧き良きだけで終わることのない洗練された音を連ねていく。「ラヴァーズ・ホリデイ」や“これは一番人気があるんじゃないかな”とのフリから「オール・ビコーズ・オブ・ユー」、“ここにいる全ての女性たちに送るよ”と付け加えての「ソー・イン・ラヴ・ウィズ・ユー」、“ラヴ・ラヴ・ラヴ”のコーラスに身体がくすぐられる「ラヴ・ザ・フィーリング」など、ジャズやAORのアーバンなムードを醸しながら、優艶で端麗なファンク/ソウルの澱みないグルーヴを敷き詰めていく。

 後半にはコーラスのジゼル・スミスがヴォーカルを執った2曲。レアグルーヴ・シーンで注目を浴びたニューヨークのゴスペル・グループ、ザ・ヴォイセズ・オブ・イースト・ハーレムの「キャッシング・イン」と、リロイ・ハトソンが手掛けた1975年のアーノルド・ブレアのモダン・ソウル・クラシック「トライング・トゥ・ゲット・ネクスト・トゥ・ユー」を。ジゼル・スミスはそれほど声圧で迫るようなファットなヴォーカルとまではいかないものの、声をそのものはパワフル。それだけでなく、メロウ・ポップな音にも対応出来る器用さを持ち合わせていて、レアグルーヴやモダン・ソウルあたりのサウンドとの相性は良さそう。暑苦しくないフットワークの軽さも、リロイ・ハトソンのアーバンな音鳴りにフィットしていた。
 終盤はエリカ・バドゥ「ノー・ラヴ」で借用された「ラッキー・フェロー」、ナズ「ザ・ワールド」でサンプリングされた「ドント・イット・メイク・ユー・フィール・グッド」とR&B/ヒップホップ・シーンで重用されるトラックを続け、演奏中にバンドを残してステージアウト。



 鳴り止まないアンコールの拍手がフロアいっぱいにさざめくなか、再びリロイ・ハトソン一行が登場してやおら、感謝の言葉に次いで“では、もう1曲…んーいや、2曲やろう”との言葉に微笑みと拍手が飛び交う。ジェイミー・アンダーソンの艶やかなサックスが官能の夜へといざないながら、ご機嫌なメロウ・グルーヴが雲なき夜空に輝く星たちのように降り注ぐと、洒脱なミッドタウンを文字通りアーバンでソフィスティケートに染めていく。“初来日公演は忘れられないものになったよ”と感激を示したリロイ・ハトソンは、オーディエンスを呼び寄せながらシェイクハンドやハグを交わしてステージアウト。主役が退いた後のバンド演奏でも拍手が止まないフロア。演奏を終え、バンドメンバーが一礼して去る間際から、またしてもアンコールの拍手の波へ。ダブルアンコールはならなかったが、明転した後もフロアには充足した表情のオーディエンスが終演を惜しみ、余韻に浸っていた。

 楽曲自体は70年代のもので、目新しさはないだろう。だが、この時代に通底していた上質で気品あるソウル・グルーヴは、現在もこれからも共感を得る“美しさ”を持っている。ソウル・ミュージックの好事家のみならず、その人なりや実績は知らずとも、80、90、2000年……と多大な影響力をもたらしたリロイ・ハトソン。穏やかで紳士的な振る舞いも含め、強引に焚きつけることなどなく、オーディエンスやリスナーの方から耳目や身体を寄り添いたくなるような甘美で芳香なステージは、まさに夢心地のマジックワールド。艶やかな大人の嗜みを音の世界を通じて体験させてくれたスウィート&メロウ・グルーヴの極致、一度きりではもったいないと誰もが感じたことだろう。再来日を是非とも期待したい。


◇◇◇
 
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Cool Out(BAND ONLY)
02 Getting It On(BAND ONLY)
03 Don't It Make You Feel Good(short ver.)
04 Lover's Holiday
05 It's Different
06 All Because Of You
07 So In Love With You
08 Love The Feeling
09 Never Know What You Can Do (Give It A Try)
10 Cashing In(Vocal by Gizelle Smith)(Original by The Voices Of East Harlem)
11 Trying To Get Next To You(Vocal by Gizelle Smith)(Original by Arnold Blair)
12 Lucky Fellow
13 Don't It Make You Feel Good
≪ENCORE≫
14 So Nice
15 Positive Forces

<MEMBER>
Leroy Hutson(vo, p)

Gizelle Smith(vo)
Andre Espeut(vo)
Carl Hudson(key)
Paul Jobson(key)
Dave Ital(g)
Derek Chai(b)
Jamie Anderson(sax,fl)
Nick Van Gelder(ds,perc)
Kofi Kari Kari(perc)





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