*** june typhoon tokyo ***

PREP @代官山SPACE ODD



 心地よい浸食をもたらす、プレップ流リゾート・サウンドスケープ。

 ペースはゆっくりと、しかしながら着実にその楽曲性が浸透し始めている。昨年5月に初来日公演(その時の記事はこちら→「PREP@代官山UNIT」)を開催した英・ロンドンを拠点とするソウル・ポップ・バンド、プレップ(PREP)が約1年ぶりに再来日。前日に〈SUMMER SONIC〉の「BEACH STAGE」で演奏した勢いのまま、〈SUMMER SONIC EXTRA〉としての単独公演が東京・代官山SPACE ODDで行なわれた。昨年の初来日公演が評判を呼んだこともあり、チケットも即日完売かと思いきや、当日券も出るほどだったのは意外だ。センチメンタルなメロディライン、シティポップやAORの影響を垣間見せながらもUKらしいナイーヴなサウンドスケープと哀愁を漂わせるヴォーカルなど、日本人の琴線に触れる要素も多く、近年、たとえば、同郷のロンドン出身のエレクトロ・デュオのホンネ(HONNE)や米・ロサンゼルスを拠点とするライ(RHYE)などのネオソウル、フュージョン系統のスタイルのグループの来日公演が盛況なのを聞くにつけ、ソウルやシティポップマナーに通底しているプレップの音楽性がウケないことはないと思うのだが、韓国やタイ、インドネシアなど東・東南アジア圏での彼らへの熱狂ぶりとは温度差も感じられるのは何故だろうか。同じ代官山でも、前回の来日時のUNITよりもキャパシティが小さいSPACE ODDが会場というのもややダウンサイズ感が否めないこともあって、そのあたりもメンバーの“ノリ”にも影響するのではと微かに脳裏を過ぎることもあったが、蓋を開けてみれば、昨年よりも“プレップ濃度”を高めたオーディエンスがフロア一杯に集い、つづらに寄せる心地よいグルーヴの波の上をたゆたう光景に満ちていた。

 メンバーはおそらく前回同様、トム・ハヴロック(vo)、ダン・ラドクライフ(g,key)、ルウェリン・アブ・マルディン(key)、ギョーム・ジャンベル(ds)のプレップ本隊に、フルート&キーボード、ベースの2名を加えた6名編成。開演定刻より12、3分時を刻んだところで暗転。スモークが青白いライトに照らされて幻想的なムードを醸し出すステージにメンバーが登場。最後にヴォーカルのハヴロックが見えると、フロアは一段と大きな拍手で迎える。“ズッタッ、ズッタッ”というドラムのリズムから軽やかなフルートの音色が重なるとフロアに歓声がこだまし、「ザ・プレッシャー」から本編が幕を開けた。

 続いてステージ奥のスクリーンにPVが流れ出したのと同時に鳴らされたのが「コールド・ファイア」。腕に施された“COLD FIRE”のタトゥーの文字を映し出すPVとともに「コールド・ファイア」を演奏することを確実に理解したオーディエンスは、直情的ではないものの、内から溢れ出す静かなるエナジーとパッションを肢体を揺らしながら露わにしていく。前回もそうだったと思うが、PVやこれまでリリースされた3枚のEPのヴィジュアル・イメージをスクリーンに投影しながらの演奏は、シティポップやAORというジャンルの音楽がある程度ヴィジュアルやデザインを想起させやすい意匠を伴っていることもあるのか、聴覚と視覚の相乗効果もあって、明確な音像を届けるのに奏功していたと思う。

 楽曲構成はさほど変化はなく、前回公演を踏襲しながら、昨年11月にリリースした3枚目のEP『ライン・バイ・ライン』(Line by Line)の収録曲を散りばめた形か。音源ではポール・ジャクソン・ジュニア(マイケル・ジャクソンのサポートも務めた“セッション王”)のリズムギターが加わる、春の小鳥のさえずりのごとく心浮く軽快なフルートに寄り添うかのようにハスキーながらもナチュラルなヴォーカル&コーラスが降り注ぐタイトル曲「ライン・バイ・ライン」、ドナルド・フェイゲンにも通じるようなアンビエンスと洗練性を帯びながら微かなニューウェイヴ感も垣間見えるイントロと、カラッとしたポップネスに乗せた高音ヴォーカルが映えるコーラスパートとの対比が興味を注ぐ「リーニング・オン・ユー」、夏というよりも秋深い時期の夜のセンチメンタリズムとノスタルジーをムードあるシンセ・サウンドと趣深いギターで紡ぐ「ドント・ルック・バック」、リズミカルに走るビートとそよ風が注ぐような清爽な開放感とが合わさったシティポップマナーのアーバン・ポップ・ファンク「アイ・キャント・アンサー・ザット」を中盤以降に組み込んでいく。デビューEP『フューチャーズ』以降のシンセ・ファンク、チル、AORをスタイリッシュにミックスさせたアーバンな音楽性を崩すことなく継承しながら、さらにメロウに、時にオルタナティヴなアクセントを加えて、アダルトというか成熟した音楽性へ一歩重心を寄せたスタンスは、日本人好みのそれ。ステージでも刺激という形ではなく、ナチュラルな、透過性を高めたアーバナイズなムードでフロアを酔わせていた。

 印象的だったのは本編ラストの「チーペスト・フライト」。各地ではシンガロングが起こる人気曲だが、前回公演では確かシンガロングまでには至らなかった。ところが、本公演ではハヴロックが曲の途中ではっきりと促すともなくシンガロングへ。どちらかというと英語詞を歌う環境としてはそう適した土壌ではない日本で、コーラスパートをリフレインするというのは、プレップの音楽が浸透し始めていることの証左にもなろうか。抑揚が激しく掴みやすい瞬間的な“惹き”やキャッチーなフレーズを多用した分かりやすい楽曲性という訳でもないが、サックスが醸し出すアダルトでアーバンなランドスケープと緩やかに深い夜へと落ちていくメロウネスなサウンドは、彼らがジャケット・ヴィジュアルなどで持ち出したポップなアンビエンスをしっかりと具現化。都会の喧騒から逃れた避暑地的なムードへといざなうようなハイセンスなアレンジの妙も加わって、オーディエンスの熱量を高めていった。

 アンコールラストは、ハイトーンのヴォーカルが黄昏に浸るメランコリーを感じさせながら、コロコロとリズムをとるフルートや浮遊感を呼ぶ鍵盤で安らぎをもたらす「フーズ・ゴット・ユー・シンギング・アゲイン」。ラヴリーでテンダーなソウル・ポップに身体を揺らしながら、60分強のプレップ流リゾート・エンタテインメントは幕を閉じた。 

 まだ広範囲とまではいかないものの、日本でもその中毒性をジワジワと発揮し始めているプレップ。考えてみれば、まだ3枚のEPのみでフル・アルバムはリリースされていないのだから、当初頭を掠めていた“琴線に触れる”だろうタイミングも、これからなのかもしれない。EPを出す毎に少しずつ変化や音楽性のふり幅を見せてきた彼らが次はどんなアーバン・メロウな景色を見せて聴かせてくれるのか。楽しみの種は尽きない。

◇◇◇

<SET LIST>
The Pressure
Cold Fire (*C)
Sunburnt Through The Glass (*F) 
Snake Oil (*C)
Line By Line (*L)
Futures (*F)
Dong't Bring Me Down (*C)
Don't Look Back (*L)
Leaning On You (*L)
I Can’t Answer That (*L)
Rachel (*C)
Cheapest Flight (*F)
≪ENCORE≫
Who's Got You Singing Again (*F)

(*F): song from EP“Futures EP”
(*C): song from EP“Cold Fire”
(*L): song from EP“Line By Line”

<MEMBER>
Tom Havelock(vo)
Dan Radclyffe(g,key)
Guillaume Jambel(ds)
Llywelyn Ap Myrddin(key)

(b)
(sax,fl,key)


◇◇◇


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