日本のファンへの感謝と進行形の姿を提示したリヴェンジ公演。
当初は5月に東京国際フォーラムとゼップ・ダイバーシティ東京で行なわれる予定だった5年ぶりとなる来日ツアーの東京公演がジェイ・ケイの緊急入院のため中止となっていたが、その復帰公演が早い段階で決定。場所を日本武道館に改めてのリヴェンジとなる来日公演初日は、ジャミロクワイ・ファンが所狭しと席を埋め、歓声がこだまする感慨深いステージとなった。
19時開演予定のほぼ定刻通りに暗転して幕を開けた本公演。新作『オートマトン』のジャケットで着用しているエレクトロニクスな被り物を装着して登場したフロントマンのジェイ・ケイ。ステージ最前まで歩を進めると、観客席へ向かって一礼。そのような光景はジャミロクワイの来日公演で初めて見たが、ジェイ・ケイからの公演中止への謝罪と再び集ってくれたファンへの感謝の気持ちが、真っ先にそのような行動に至らしめたのだろう。この日のジェイ・ケイは曲が終わるごとに“サンキュー”を繰り返していて、感謝とともに再びステージに立てる喜びも噛み締めていたように思う。アンコールでの「ヴァーチャル・インサニティ」は来日公演では期待してもそれほど演奏されなかったと思うが、この日に意外とあっさり披露したのは、上述の感謝の念が少なからず働いたのではないだろうか。
ブルー、グリーン、レッド、ホワイト……と発光色を変える被り物に目を奪われながらもジェイ・ケイに注目していたが、ライヴの完成度が高かったかといえば、正直なところ同意しかねる部分もあった。本人もMCで「95年に来日した時はヤングボーイだったけれど、いまやすっかりオールドマンになった」と自虐的な発言もしていたが(また「餃子が好き、(食べる時)熱くて大変だけど」なども)、先日の腰痛での入院の影響もあってか、以前と比べると腹がぽっこり出た太めの体型になっていて、クルクルと回りながらジャンプを披露することもなし。開演後しばらくは声もかすれ気味で、全盛期と比べると5、6割程度のパフォーマンスだったか。それでも積極的にステージの左右前後を動き回り、あのジェイ・ケイ独特のダンス・ステップの中に全盛期の片鱗を垣間見せながらオーディエンスのヴォルテージを高めていく。
曲を重ねていくうちに次第にヴォーカルも潤い始めると、新作『オートマトン』収録曲との間に以前のヒット曲を交互に挟み込む曲構成で、フロアはさらにヒートアップ。3人の女性コーラスを加えたバンドはジェイ・ケイの勝手知ったるところと言わんばかりに安定感のある演奏でヴォーカルを強力にサポート。さらに、ステージ後方の映像効果とライティングがステージを鮮やかに彩り、音と視覚を絶妙なバランスで融合させ、興奮度を増強させていった。
ただ、オーディエンスの反応としては、序盤は新作『オートマトン』の楽曲と既発のヒット曲とでは多少温度差があったのも事実。それでも個人的には全曲ではないにしろ『オートマトン』収録曲を中心とした構成でステージに臨んだことは、単なる懐メロステージとは次元が違う、ジャミロクワイが現在進行形で健在だというプライドを十二分に示したと感じたし、中盤から後半にかけて披露した「スーパーフレッシュ」や「クラウド9」くらいになると当初の温度差がほとんど気にならなくなるほどに縮まっていった。
そして、特に印象的だったのが、「エマージェンシー・オン・プラネット・アース」から「ランナウェイ」への展開。タイトル通り“地球の緊急事態”(文明への批判や環境破壊)を憂い警鐘を鳴らす曲だが、タイトなバンド・アレンジとともに、炎のような赤に染められた瞳孔や砂塵を歩く兵士たち、煙を上げる爆破風景などを繰り返し映し出したバックの映像が、偶然にも北朝鮮の日本上空を通過するミサイル発射をはじめとする近日の緊張が走る日々へも一石投じているような意味合いにもとれるなど、元来ジャミロクワイが持っているメッセージ性の強さを打ち出していた。重厚なメッセージ・ソングは決して珍しくはないが、そういったテーマを軽快かつファンキーなリズムで表現してしまえることが彼らの大きな武器だが、そのアティテュードはこのステージでも顕在していたといえよう。そしてその意志を抱えたままよりスピーディなグルーヴで駆け抜ける「ランナウェイ」へのドライヴ感覚は、彼らならではの見事な“センス”といえる。
また、この「エマージェンシー・オン・プラネット・アース」の冒頭もそうだが、ところどころに原曲にはないアレンジを組み込んでいたのも特徴で、この日最も盛り上がった楽曲の一つだった「キャンド・ヒート」のイントロや本編ラストの「ラヴ・フーロソフィー」へメドレーで繋ぐ曲間には「レヴォリューション1993」のフレーズを組み込むなど凝ったアレンジでファンをニヤリとさせる部分も。その他、アンコールの「ヴァーチャル・インサニティ」では「ジャスト・ア・2・オブ・アス」風のブリッジを入れたりと、フロントマンのジェイ・ケイが強力なインパクトゆえ忘れがちだが、ジャミロクワイは“バンド”として高いレヴェルで機能しているということを再認識した。
従来のアシッド・ジャズ・サウンドから野心的なトライを続け、ジャミロクワイという独創的なサウンドを構築してきた彼らが、新たに手に入れたエレクトロを用いて描いた『オートマトン』の要素をプラスして行なわれた来日公演。万全の状態では決してなかたが、その楽曲のクオリティの高さも相まって、多くのオーディエンスの五感に刺激を与えたという事実は揺るがないだろう。一方で、これが最高到達点ではないのも事実。捲土重来とまでは言わないが、ジェイ・ケイがこれから巻き返しのギアを上げ、一層精度とエナジーを高めて近いうちに日本へ戻ってきてもらいたい。
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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Shake It On (*)
02 Little L
03 Automaton (*)
04 The Kids
05 Dr. Buzz (*)
06 Space Cowboy
07 Superfresh (*)
08 White Knuckle Ride
09 Cosmic Girl
10 Cloud 9 (*)
11 Emergency on Planet Earth
12 Runaway
13 Canned Heat
14 Love Foolosophy
≪ENCORE≫
15 Virtual Insanity
(*):song from album“AUTOMATON”
<MEMBER>
ジェイソン・ケイ / Jason Kay(vo)
ロブ・ハリス / Rob Harris(g)
ポール・ターナー / Paul Turner(b)
マット・ジョンソン / Matt Johnson(key)
ネイト・ウィリアムス / Nate Williams(key,g)
デリック・マッケンジー / Derrick McKenzie(ds)
ソラ・アキンボラ / Sola Akingbola(perc)
ハワード・ウィデット / Howard Whiddett(Music Sequencer: ableton live)
(back vo)
(back vo)
(back vo)
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【これまでのジャミロクワイ公演の記事】
・2005/11/17 jamiroquai@日本武道館
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