*** june typhoon tokyo ***

LALAH HATHAWAY@BLUENOTE TOKYO

■ Lalah Hathaway@BLUENOTE TOKYO

Lalahhathaway


 裸足のレイラ。

 2012年初のライヴはレイラ・ハサウェイ。ブルーノート東京での3日目となる1stショウ。これまでも頻繁に来日しているが、ことごとく逃し続けていたため、実はこれが自身初の“生”レイラとなる。自身のソウル欲を掻き立ててくれたソウル・シンガー、ダニー・ハサウェイ(ピーター・バラカン的には“ドニー”・ハサウェイ)の実娘なのだが、これまでとことん聴き倒したという訳でもなかった。そういう意味では、フラットな気持ちで臨むことが出来た。

 メンバーは、左からキーボードのマイク・アーベグ、ギターのエロール・コーニイ、その間の後方にバック・ヴォーカルのジェイソン・モラレスとトニ・スクラッグスが立つ。中央やや右にベースの巨漢ティモシー・ベイリーJr.、右端にドラムのエリック・シーツといった布陣。ジェイソンの“ファースト・ドーター・オブ・ソウル、レイラ~、ハッサウェイ~”の呼び込みとバンド・インストに導かれながら、赤系のドレスを纏ったレイラがステージ・イン。“アリガトー”“ドウモー”と日本語を織り交ぜながら、慣れ親しんだ日本のステージを楽しまんばかりの余裕の登場だ。

 イントロの後に披露されたのはスタックスからの新作『ホエア・イット・オール・ビギンズ』収録の「イフ・ユー・ウォント・トゥ」。洗練された今風の音を響かせながらしっとりとソウルを演出するミディアム・スムーサーだ。これが今の私の音ね、とでも紹介するかのように、軽やかなグルーヴで観客を心地良いリズムに揺らせていくと、この曲が終わるや否や履いていたヒールを脱ぎ捨てて裸足に。その後、大地を軽く摘むようにしてリズムをとっていくレイラ。足の裏は第二の心臓ともいわれるが、バックが奏でる縛りのない洗練されたサウンドや観客が反応する気流を、足の裏をはじめとする身体全身で受け止めているようだ。

Lalahhathaway_2 それにしても、レイラは声が低い。アース・ウィンド&ファイアのカヴァー「ラヴズ・ホリデイ」(チャカ・カーン、アンジー・ストーン、レディシ、ドゥウェレ、ミュージック・ソウルチャイルドなどが参加したアースのトリビュート盤『インタープリテーションズ』(Interpretations: Celebrating the music of Earth, Wind & Fire)に収録)の出だしの“Would you mind~”(「空耳アワー」的には“産んじまえ”)などはもう、かなりのロー・ヴォイス。黒人系ヴォーカルというと(また、レイラのような“貫禄ある”スタイルのシンガーというと)どうしても野太い声で圧倒的に迫るというイメージが強いが、レイラは決して声を張り上げることはしない。じっくりと咀嚼するようにテンポを抑えて深く深く歌うのが一つの特徴だ。それはゆっくりと熟成するワインや食物のように、時間をかけて核までじんわりと旨味を溶け込ませるかのごとく、何ともいえない味わい深いヴォーカルで観客の五感に美味を訴えかけていくのだ。
 決して派手なアクションがある訳でもないが、濃厚な余韻に浸される。また、それだけではなく、新作『ホエア・イット・オール・ビギンズ』収録の「スモール・オブ・マイ・バック」では、上品で華やかなダンサーに副うグルーヴィなヴォーカルをも披露してくれた。マイク・スタンドから離れても声量が落ちることはなく、かといって気張る訳でもない絶妙のヴォーカル・バランスで、バンドの創造性豊かなサウンドと一体化していて実に素晴らしい。

 そのバンドだが、これがまた非常に魅力的。ドラムのエリックは時折“タンッ”と発する高音がやや今風のスタイルとも思えるが、それを除けば、スタンダード・ナンバーからコンテンポラリーなスムーサーまで臨機応変に対応する、振幅の広さと懐の深さが感じられた。ビリー・ホリデイや、エラ・フィッツジェラルド、ジャニス・ジョプリンらのカヴァーでも知られるジャズ・スタンダード「サマータイム」では、各メンバーのソロを大胆にフィーチャー。音を大切にするレイラの姿勢が窺える、メンバーへのリスペクトを表わしたソロ・パートが連なっていった。
 そのようなバンドとの掛け合いはこれ以外にもあって、「フォーエヴァー、フォー・オールウェイズ、フォー・ラヴ」ではエロールのギターにフォーカスを当て、“泣き”の音からハードロック風のプレイまでをかなり長めに採り上げた。その“泣き”の音を出しながらステージ前方へ繰り出し、音に合わせて上体を揺らすもんだから、場内からは笑みと喝采の拍手が。
 コーラス隊もしっかりとレイラの投げかけに呼応。本編ラストの「サムシン」ではコーラスそれぞれがアドリブのスキャットを見事に繰り出すと、レイラも応酬。さらに、観客とのコール&レスポンスへと発展し、クオリティの高い“遊び”で場内を沸かせていく。レイラもノリが良く、コール&レスポンスの最後には“サッチモ”(ルイ・アームストロング)をマネたようなスキャットのレスポンスを要求するなど、和やかで心地良い空間に包まれていったのだった。

Lalahhathaway_wiab 開演が18時、終演が19時15分頃と約1時間強ではあったが、ジャズやソウルを核として、時にはフュージョンやロックといったジャンルをよどみなく漂いながらのステージは濃密だった。親しみある日本だからなのか、気負いも見られず、クリエイティヴで観客の心を躍らせるサウンドの押し引きにも十二分に惹き込まれた。個人的には「スモール・オブ・マイ・バック」のような楽曲がもう一つ二つあるとさらに嬉しくは思うが、それは欠けているポイントではない。ライヴ終了後は、レイラの生み出す世界観を堪能した余韻が、美しく香る花の芳香のように鼻腔をくすぐり、全身に快感をもたらせていた。

 バスドラにはレイラの新作『ホエア・イット・オール・ビギンズ』のジャケット絵が描かれていた。そのアルバムのジャケットはよく見ると、レイラの髪の部分が父・ダニー・ハサウェイのアルバムのジャケットを模した図柄(ダニー・ハサウェイのアルバムのダニーの顔の部分がレイラになっている)でデザインされている。そういえば、レイラの父は偉大なるダニー・ハサウェイだった……その事実を一瞬忘れるかのように、レイラの独創性が根付いたパフォーマンスに息を呑み、恍惚の境地へ誘われた一夜だった。


◇◇◇


<SET LIST>

INTRO~BAND INST~
IF YOU WANT TO
BREATHE
SUMMERTIME
ANGEL(Original by Anita Baker)
Love's Holiday(Original by Earth,Wind & Fire)
SMALL OF MY BACK
FOREVER, FOR ALWAYS, FOR LOVE(Original by Luther Vandross)
SOMETHIN'
≪ENCORE≫
STREET LIFE(Original by Randy Crawford & The Crusaders)


<MEMBER>

Lalah Hathaway(vo)
Toni Scruggs(back vo)
Jason Morales(back vo)
Mike Aaberg(key)
Errol Cooney(g)
Timothy Bailey Jr.(b)
Eric Seats(ds)


◇◇◇
 

Lalahhathaway20120107










 

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