フランク・マッコムのライヴは、昨年暮れ以来だから、約1年ぶり。その時もコットン・クラブだった。それが、自分のコットン・クラブ・デヴューだったことが、昨年のライヴ・レヴューに書いてあった。そこには、
「彼の演奏は素晴らしいが、それを理解したうえでいうなら、もう少しヴォーカルを増やして、コンセプトを決めたライヴやセット・リストでのステージということも、必要なのではと思った」
とあった。
その“ヴォーカルを増やして”という意味では、今回もあまり変わらなかった感じだ。ただ、自分の意識が変わったのか、見方が変わったのか解からないが、このようなジャズ・ソウルなスタイルが彼に一番合っている=ライヴをライヴとさせるもの、ではないかとも思えてきた。元々、ブランドフォード・マルサリスのフュージョン・ヒップホップ・ユニット“バックショット・ルフォンク”にいたこともあり、ジャズ、フュージョン系に演奏が寄るのも当然と言えば当然なのだ。
今回の編成はフランクを入れて4人。手前にウーリッツァー、横にローズ、奥に生ピアノを配したフランクが一番左、中央にパーカッションのケネス・G・マーティン、その右にベースのセオドア・ギルバート、そして右端にドラムのデイヴィッド・ハイネスだ。ケネスは真面目な感じ、“トレス”ギルバートは陽気、ケネスは職人といった風体だ。
“これが東京でのラスト・ショウだよ”というMCからスタートしたのは、ビリー・プレストンのカヴァー「Will It Go Round In Circles」。続いて、アルバム『the truth』のリード曲でもある「Shine」を。もうすでに定番なのだが、歌のパートはそこそこにして、バンド・メンバーとのセッションをじっくりとやる。CDとはかなり異なった、躍動感のあるグルーヴと高い即興性を誇るアレンジでの演奏だが、そこには気持ちの良い安定感がしっかりと備わっている。それこそが彼らがライヴ・アーティストとして魅せる真髄で、メンバーとの真剣勝負からじゃれ合いまでが湯水のように湧き上がってくるセッション・プレイには、感嘆するしかなかった。
3曲目の終わりに、ドラムのデイヴィッド・ハイネスがステージ右前方に出てきて、シーケンサー(サンプラー?)のようなフィンガー・タッチ式のマシンで、ドラミングを始めた。入場して席に着いた時、ちょうど目の前にノートPC(マック)が開いてあったので、「リズム・ビートをこれでやるのか?」と少し不安になったのだが、そうではなくて、デイヴィッドのパフォーマンスのためだけに用意した模様だ。
ただ、電子機器だと侮るなかれ。 両手指を駆使したフィンガー・タッチでのドラム“操作”は細やかかつダイナミック。動きこそ胸前でのフィンガー・タッチが主なので大きくはないが、そこから繰り出されるドラミングは高度なもので、やおら客席から歓声があがるほど。「生楽器演奏が素晴らしいのに何故?」と疑念を抱く人もいるかもしれないが、個人的にはこのようなエレキ・ドラムの良さと、生ドラムの演奏を比較出来るパフォーマンスとしては“アリ”かなと感じた。全体としての動きが生楽器のそれよりこじんまりとして見えるため(指先近辺は激しいが)、コットン・クラブという空間だからこそ出来たパフォーマンスなのかもしれない。ベースの“トレス”が「こんなこともやんのか、コイツは」という表情で後ろから覗き込んだり、フランクが「クレイジーだよ」とつぶやいたりしていたのは面白かった。
フランクが左手奥の生ピアノ移り、スティーヴィー・ワンダーの「リボン・イン・ザ・スカイ」を。元来、現代のダニー・ハサウェイ、スティーヴィーと評されてきた彼だから当然なのかもしれないが、この時の声はまさにスティーヴィー・ライク。もしかしたら前半は意識してやったのかもしれない。そうであっても、そうでなくても、心地良い“リアル・フランク”としてのヴォーカルに変わりはないのだが。
本編ラストは、「Cupid's Arrow」。『the truth volume one』に収録されているナンバーだ。ここもエンディングは各バンド・メンバーとの応酬ともいえるほどのジャム・セッションで幕。すぐにアンコールを催促する拍手が沸き起こった。
アンコールのラストは「Do You Remember Love」だが、これが本編以上に圧巻。歌パートは3分そこそこで終え、あとはブリッジ・パートを挟み込んでのジャム・セッションの繰り返しを延々と。トータルで10~15分くらいは演奏していたんじゃないだろうかと思えるほどの長尺だが、飽きるどころか彼らが波状的に繰り出すグルーヴにますますのめり込んでいくばかり。上唇を下唇でかみ口を真一文字にして各メンバーとのバランスをとりながら演奏をリードしていくフランク。それに応えるばかりか、「こんなのでどうだ!」と言わんばかりの演奏で返すメンバーたち。一問一答、質疑応答……いや、そんな生易しいものではない。それは禅問答でもあり、空手の組み手のようでもあり、キャッチボールなどという言葉では生ぬるいくらいの真剣勝負で、音の大宇宙を創造していくようだった。
酩酊と覚醒。
今夜のライヴを一言で表わすなら、この言葉だろうか。ローズを中心としたハートウォームなピアノ・サウンドでゆりかごのように身体を揺るがされかと思ったら、ファットなベース・ライン、シャープなドラム、足の裏から伝わってくるようなパーカッションで、激情的に身体を揺さぶってくる。このバランスがたまらなくツボをついてくるのだ。
欲を言えば、もう少しパーカッションのヴォリュームを大きくして欲しかったのと、やはりフランクにもう少し歌って欲しかったというのは、あるにはある。それでも、サウンドの妙や音楽的振幅の大きさというものをしっかりと体感させ、映像が眼前に浮かぶようなサウンドを描出させた彼らは、ソウルや、はたまた音楽が、“楽しいものである”という本義をこちらに提示してくれた……そんなステージだったように思えた。
◇◇◇
<SET LIST>
01 Will It Go Round In Circles (Original By Billy Preston)
02 Shine
03 Never Letting Go (Drum machine solo)
04 Ribbon In The Sky (Original By Stevie Wonder)
05 Time And Time again
06 Cupid's Arrow
≪ENCORE≫
07 Keep Pushing On
08 Do You Remember Love
≪MEMBER≫
Frank McComb (Vo,Key)
Theodore "Tres" Gilbert (B)
David Haynes (Ds)
Kenneth G. Martin (Per)
◇◇◇
最近(12月12日)、日本先行で『ライブ・イン・アトランタ Vol.1』がCD+DVDでリリースされたので、ライヴの模様を知りたい方は是非、こちらで。そろそろこのような、日本でもホーン・セクションも含めた15名によるライヴをして欲しいところだ。
Frank McComb - Left Alone
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Marcus Miller & Frank McComb - Everything is Everything
</object>
この映像で出演しているサックス、トランペット、ハーモニカ、ドラム、キーボードは、先日ビルボード・ライヴ東京で観たマーカス・ミラーのライヴのバック・バンドと同一メンバーでした。
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